#29 西尾家の最終兵器




 かーちゃんは寝室に引っ込んで着替えて戻ってくると、ようやく落ち着いてくれた様で「みんなお腹空いたでしょ?おとーさんその内帰って来るから、先に食事始めちゃいましょ」と言って、俺たちに食卓に座る様に促して来た。


 俺がいつも座っている自分の席に座ると、普段は空席でアフロが来ると座る俺の左隣の席に優木会長が「私ココ!」と言いながら座り、イスを俺の方に寄せて「ムフフ」と嬉しそうな顔を至近距離で俺に向けて来た。

 向かいに座ったかーちゃんは優木会長の様子にニコニコ楽しそうだが、同じく向かいに座ったアフロの方は「おばちゃん!肉から焼いていい?」と既に牛肉にご執心な様子。



 ホットプレートに電源を入れ温まって来ると、アフロがトングを使ってお肉をじゃんじゃん並べて行く。 その間に俺がみんなの取り皿に焼肉のタレを入れて周り、優木会長が冷たい麦茶を同じようにみんなのグラスに入れて周る。


「アッコちゃん、お肉だけじゃなくてお野菜も焼いてよ?」(母)


「え?まずは肉でしょ?野菜は肉の上に並べとけば焼けるじゃん」(アフロ)


 アフロがウチでメシ食べて行く時はいつもこんな感じで、多分かーちゃんは俺相手だと反応薄くてつまらないから、アフロにばかり構う。


 そして優木会長は「友達のお家で友達の家族と一緒に食事なんて初めてだから、すっごく楽しい!」と言って、キラキラした笑顔で本当に楽しそうだ。


 普通、友達の家族と一緒に食事とか緊張したり気を使うからなるべく避けたいイベントだと思うが、流石自主性モンスター、俺とは違う感性のようだ。


「へー、会長図太いから、友達の家とか押しかけて平気な顔してメシまで頂いてく疑惑があったけど、そうでも無かったんすね」(俺)


「もー何言ってるのよ~マゴイチは~。私そんなことしたことないですからね!お母様!」(会長)


「あら、ウチだったら良いのよ?アッコちゃんなんてしょっちゅうウチでご飯食べてるもんね?」(母)


「だって、おばちゃんのご飯美味しいもん。ウチのかーちゃん激マズ過ぎ」(アフロ)


「おかあさんの事をそんな風に言わないの! でもアリサちゃんも遠慮しなくて良いからね?」(母)


「いやマジで激マズなんだよ?ウチのかーちゃんなんにでも唐辛子入れて全部辛いんだもん」(アフロ)


「じゃあじゃあ!今度から私も沢山お呼ばれしちゃおっかな? ね、マゴイチ!また来てもいいでしょ?」(会長)


「やっぱり図太いじゃん」(俺)



 優木会長とかーちゃんがドンドン結託しているこの感じ。不安を感じずにはいられない。

 アフロは牛肉に夢中でアテにならんし、こうなったら西尾家の最終兵器リーサルウェポンの帰還を待つしかないか。




 そして、とーちゃんが帰宅。


 作業着姿のとーちゃんが台所に顔を覗かせると、「ただいま!お?今日は焼肉か!?っていつもより一人多いな?」と若干テンション高めに、着替えもせずにそのまま空いてる席に座った。


 とーちゃんが席に座ると同時にかーちゃんが席を立って冷蔵庫から瓶ビールを1本出してとーちゃんの前に置いて栓を抜く。


「ありがと!それにしても今日のお客さんはすげぇ美人だな!マゴイチの新しい彼女か?」(父)


 とーちゃんはビールを自分でグラスに注ぎながら、やはりいつもよりもテンション高めに優木会長に向かってグイグイ訊ねる。


 対する優木会長も箸を置いてモグモグしている口を手で隠しながら「マゴイチくんと同じ西高の(モグモグ)優木アリサです(モグモグ)マゴイチくんのお嫁さん候補として(ごくり)今日は挨拶に来ました!」などと、かーちゃんの時と同じことを言い出した。

 やはり自主性モンスター、アクティブ過ぎる。


「そっかぁ!マゴイチ婚約したんだな!そりゃ目出度めでたいな!」(父)


「してねーよ!」(俺)


不束者ふつつかものですが、よろしくお願いします! あ!お酌します!どうぞどうぞ!」(会長)


「カァァ~、こんな美人にお酌されるといつもよりもお酒が美味いなぁ! 今日はじゃんじゃん飲むか!かーちゃん焼酎出してくれ!芋の方、ロックな!」(父)


「ハイハイ。 今日は私も飲みたい気分だし、私も飲んじゃおっかな!」(母)


「おう!お前も飲め飲め!」(父)


「おじちゃん、私もビール飲んでもいい?」(アフロ)


「おう!アッコちゃんも飲め飲め!」(父)


 ドサクサ紛れにアフロもビールを飲もうとすると、かーちゃんがとーちゃんの頭は思いっきりはたいて、「馬鹿なこと言わないの!アッコちゃんまだハタチじゃないでしょ!」と怒るが、酔い始めたとーちゃんは止まらない。


「あれ~?そうだっけ~?アッコちゃんおっぱいぶよんぶよんの爆乳だから俺ぁてっきりもう大人かと思ってたぜ。そういや顔はアリサちゃんの圧勝だけど、おっぱいはアッコちゃんの勝ちだよな?美人と爆乳に囲まれてお酒飲めるなんて、今日の俺、ちょー幸せ!」(父)


「もぉ~お父様ったら!私だってそこそこあるんですよ!」(会長)


 普段はシモネタになると赤面して大人しくなる優木会長まで、とーちゃんのペースに飲まれているのか、自分もおっぱいが大きいことを主張し始めた。


「お?本当だ!アリサちゃんも巨乳だな!マゴイチはその巨乳いつも揉んでるのか?羨ましいな!この野郎!」(父)


「それがまだなんですよ~、私はいつでもウェルカムなんですけどね!マゴイチくんったら初心うぶなんだから。うふふふ」(会長)


「マジか!?こんな美人の彼女に手を出さねーとか、コイツ絶対まだドーテーだよな! 親として情けなくて涙出てくるわ!」(父)


「そんなこと言う親持つ俺の方が息子として恥ずかしくて情けねーわ!」(俺)


 クソ!

 折角、酔うと超絶下品なセクハラ親父と化すとーちゃんを見れば、流石の優木会長でもドン引きして考えを改めると期待したが、優木会長までとーちゃんのペースに飲まれておかしくなってるぞ。

 最終兵器リーサルウェポンのはずが糞の役にも立たねーし、俺の方がダメージ受けてんじゃねーか。



「いやぁ~マゴイチ、家だといっつも無口だし一緒にメシ喰ってても全然つまんないからさ、アッコちゃんだけじゃなくてアリサちゃんも居るといつも以上に賑やかで楽しいな!お前もそう思うだろ!マゴイチ!」(父)


「ホント楽しいね!マゴイチ今日はお家に呼んでくれてありがとうね!」(会長)


「へいへい」(俺)



 いつも以上にご機嫌なとーちゃんに、いつもは晩酌に付き合わないのに珍しく今日は飲んでいるかーちゃん。そしてウチの両親に気に入られて嬉しいのか、ご飯5杯目をお代わりしている優木会長。アフロは相変わらずいつもの調子で一人マイペースに肉を喰うことに集中していて、そんな4人の様子に、俺はダメージを受けつつも「確かにいつもよりも賑やかで楽しいとアクア先輩とのこととかも忘れられそうだし、良いことではあるよな」と少し前向きになりつつあった。




 ◇




 いつもよりもハイペースで飲んでいたとーちゃんが珍しく酔い潰れたので、リビングに運んでソファに寝かせると、かーちゃんも「私も休むわ。片付けとかは明日やるからそのままにしてていいからね」と言って、自分の足でリビングに行き、テレビを見ながらソファで休み始めた。

 優木会長も流石に「調子に乗って食べ過ぎたわ。私もココでギブアップ」と言って、ふらふらしながら一人で俺の部屋に戻って行った。


 残った俺ももうお腹一杯だったので食べるのを止めて、片付けを始めた。

 アフロも俺が片付け始めると自分も食べるのを止めて、一緒に片付けを手伝ってくれた。


 因みに、アフロはどこでもマイペースなヤツだが、子供の頃から俺んちでメシを食べた後は必ずお礼に片付けを手伝う。ウチのかーちゃんにその様にしつけられてて、アフロもウチのかーちゃんにだけは逆らわない。 しつけと言うか、餌付えづけかもしれないが。



「アフロ、相変わらず肉ばっか食ってたな」


「焼き肉久しぶりだから食溜くいだめだし」


「しっかし、ウチの親もいつもよりも飲んでたな。とーちゃんが酔い潰れるの、久しぶりに見たぞ」


「おじちゃんもおばちゃんもちょー機嫌良かったね。アリサのこと気に入ったんでしょ」


「だろうな。流石自主性モンスター、ウチのセクハラ親父すら懐柔かいじゅうするとは、恐ろしい女だ」


「アリサのあれ、無自覚でしょ? 意識して取り入ろうとしてんじゃなくて、本能の赴くまま生きてて、それに相手が引き込まれてるんじゃないの?」


「なるほど。自主性を重んじているが故に積極的に周りを巻き込んでいるかと思ってたけど、無自覚の結果そうなってると言われると、そんな風に見えて来るな」


「そういう所はマゴイチにもウチにも無いな。ウチら基本受け身だし、ただマイペースに生きてて来るもの拒まずって感じだし」


「俺はそんなことないぞ?高校になってから成長したからな。優木会長の告白だってちゃんと断ったし」


「でも今はアリサと一緒につるんでるじゃん。家族と仲良く一緒にメシ食べてるし、アリサ今頃マゴイチのベッドでグーグー寝てるし。結果的にめっちゃ受け入れてるよ?」


「そう言われるとそうだな。 アクア先輩の事で色々凹んでたから、優木会長の存在は確かに有難かったし、今の俺は完全に受け入れちゃってるな」


「で、どうするん?アリサと付き合うの? マゴイチ次第だよ?」


「うーん。正直、まだそこまでの気持ちにはならないかな。 友達としてだから気楽に付き合えるんであって、やっぱり恋人になったらあれだけの美人は俺にとっては恐怖だ。NTRの悪夢、アゲイン間違いなしだな、うん」


「気持ちは分からんでもないけど、美人とか可愛い子とかに拘りすぎなんじゃない?」


「イヤしかし・・・、今の俺のアイデンティティは全てそこだからなぁ」


「そうかなぁ・・・・だったら一回会わせてみるか。一人ちょうどいいヤツ居るし」



 アフロはそう言うと食器の洗い物を中断して、スマホを取り出し再びイスに片膝立てて座って、ドコかのダレかに何やらメッセージを送り始めた。


 その間に残りの片付けは俺一人で済ませて、アフロもメッセージのやり取りが終わった様なので、飲み物を持って部屋に戻った。





 優木会長は俺のベッドを一人で独占していて、戻って来た俺たちに「もう動きたくない。このままベッド使わせて」と言うので、「俺とアフロは床で寝るか。 会長が楽しみにしていたパジャマパーティーは中止っすね」と言うと、「アリサ喰い過ぎで明日の朝デカいウンコしそうだな。男の家で朝からデカいウンコするとか流石アリサだ。大物感ハンパないな」と自分もアホみたいに食べてたくせに、満腹で虫の息の優木会長をココぞとばかりに揶揄からかい出した。


「だったら寝る前にトイレ行って来る・・・」と言って、無理矢理体を起こす優木会長。


「大丈夫っすか?いま無理して動くとウンコじゃなくてゲロ吐くんじゃ?ウンコのがまだマシじゃないすか?」と止めると、自主性モンスターには珍しく「じゃあ明日ウンチする」と言って問題を先送りにして、再び横になる優木会長。



 ウチのとーちゃんの影響か、それともアフロの影響なのか、気づけば優木会長まで地味に下品なワードを普通に言う様になっていた。








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