#26 生徒会長の宣言
優木会長は俺んちの場所を知らない為、この日の午前に愛車(自転車)に乗って優木会長の家まで迎えに行った。
約束の時間の30分程前、ウチを出る直前に「これから迎えに行きます」とメッセージを送っておいたので、優木会長の家に着くと直ぐに出て来た。
会長は先日のオシャレな装いと違い、白いTシャツと小豆色のハーフパンツに素足にスニーカーで、髪型はシュシュで1つに括ってるだけのラフないで立ちで、なぜかマクラを左手の小脇に抱えて右手には萬福軒の紙袋を持って玄関から出て来た。ハーフパンツのポケットが左右とも膨らんでいるのは、サイフとスマホを突っ込んでいるからの様だ。
因みにTシャツにはギター弾きながらマイクで歌っているロックミュージシャンっぽいモノクロのシルエットと胸に「Nirvana」とロゴが入っている。 どうやら優木会長は90年代の洋楽にも傾倒しているらしい。
「おはよう、マゴイチ。お迎えありがとうね」
「おはようございます。って、初っ端から色々ツッコミたいところですけど、とりあえず行きながらでも」
「そうね、途中コンビニに寄りましょ」
「あいあいさ」
そんなやりとりをしながら優木会長は俺の愛車の前カゴにマクラと紙袋を突っ込んでから後ろの荷台に跨った。
「自分の自転車あるじゃないすか、なんで俺の後ろに乗るんすか」
「寝不足だし暑いからあんまり動きたくないのよ。コンビニでアイス奢るから乗せて行って頂戴」
「あいあい、仕方ないっすね」
俺んちに向かって愛車のペダルを漕ぎだすと、優木会長は前で運転している俺に聞こえる様に大きな声で話し始めた。
「友達のお家にお泊りするのって初めてだから、昨日は落ち着かなくて眠れなかったのよ」
「へー、そんなに楽しみだったんすか?」
「そうね!手土産に何か持っていきたいけど何がいいのかな?こういう時はやっぱり萬福軒の唐揚げかしら?とか考えたりして、マキさんに電話してテイクアウト用意してもらったり」
自転車漕ぎながら前カゴの紙袋の中を覗くと、唐揚げが入った透明なパックが2つ入っていた。
「それに服だって何着ていこうか悩んで悩んでオシャレにしようか、でもみんなでゆっくり過ごすならラクチンな恰好のがいいかしらってあーでもないこーでもないって悩んで、結局5周くらい周って最終的に部屋着にしたのよ。どうせアフロも体操服なんでしょ?」
「そうっすね。アフロは中学の時のジャージしか着ないっすね。っていうか着替えとか持ってきてないっすよね?寝る時とか明日も同じ服で?」
「マゴイチの服を借りるつもりよ」
「そう来たか。 この紙袋唐揚げしか入ってないっぽいし、まさか下着も俺の着るつもり???っていうかマクラよりももっと必要な物があるんじゃ?なぜ荷物がマクラだけ?」
「あ!下着忘れてたわね! ・・・コンビニのついでにしまむらにも寄って行きましょ」
「忘れてたのかよ!まぁ買えるならいいんですけど」
「それでマクラは、夜3人で川の字になって寝るでしょ?その時マクラ足りなくて私だけマクラ無しだったら悲しいじゃない。だから自分用のマクラよ。こう見えてもすっごく悩んだ末での結論よ」
「え?そういう理由?てっきりいつもと違うマクラだと寝れないとかそういう理由かと」
流石自主性モンスター、常人とは違う思考回路だ。
「そんなことくらいで寝れなくなるほど、私はナイーブじゃないわよ」
うん、知ってる。
「っていうか、3人で川の字で寝るんすか?俺の部屋そんなに広くないですよ。 まあ、会長が初めてのお泊りに興奮して色々迷走しているってことは分かったっす」
いつもの様に緊張感ゼロの下らないお喋りをしながら愛車を走らせていると、途中でしまむらが有ったので優木会長の下着を買いに寄り、次に俺んちの近所でコンビニに寄った。
コンビニではお菓子やジュースの他に優木会長がレジ横のテイクアウトのメニューから唐揚げも注文するので「萬福軒の唐揚げあるのにまだ唐揚げ買うんすか?」と尋ねると、「萬福軒のはお土産用じゃない。こっちのはおやつ用ね。 お土産用なのに私にも食べさせてとは言い辛いでしょ? でもやっぱり食べたくなりそうだから自分用も買うことにしたのよ」と、やはり優木会長にしかわからない謎の思考回路な理由だった。
そして約束のアイスを奢ってくれると言うので、パピコのカフェオレ味を買って貰い、その場で二人で分けてちゅーちゅー吸いながら再び愛車に乗って俺んちに向かった。
因みに、しまむらでもコンビニでも優木会長はマクラを小脇に抱えて店内をウロウロしていて、タダでさえ美人で目立つくせに部屋着みたいな恰好でマクラなんて抱えているから、店員さんとかに相当ヤバイ奴だと思われていた様子で、会計の時とかビクビクされていた。
俺、ココのコンビニにいつも行くから、次から俺まで変人だと見られないか少し心配だ。
俺んちに着くと両親とも仕事で留守なので、お土産に貰った萬福軒の唐揚げを冷蔵庫に仕舞ってから俺の部屋に案内して、部屋で買ってきた荷物やマクラを置いて、一息ついて休憩しながらお昼に何食べるか相談した。
「今日は会長がお客さんだから、俺が何か作りますよ」
「マゴイチ、料理出来るの? あ!そういえば料理部だったわね。 ならそうね・・・カドゥンブドゥ・キョフテとかイマム・バユルドゥとか食べてみたいわ。 理由は名前が面白いからよ!」
ぐ、以前俺が言ってたのと同じ様なコト言い出した。
自分だと当たり前でも人から言われると、少しイラっとするな。
アクア先輩もそうだったのだろうか。
「俺まだ見習いレベルだからそんな聞いたことも無いような料理は無理っすよ。 そうめんにしますね。茹でるだけだから直ぐに出来るし」
「冗談よ。料理部のポテンシャル試したくて適当にトルコ料理の名前言ってみただけよ。 でもそうね、暑くて汗いっぱいかいたし、そうめんなら丁度良さそうね。私もお手伝いするね」
「了解っす」
二人でキッチンに戻り、鍋に水を張って火にかけると、湯が沸騰するまですることが無くなる。 速攻で手持ち無沙汰になってしまったので、スマホでもいじって時間を潰そうかとスマホをポケットから取り出すと、優木会長がお喋りを始めたので、再び雑談をすることに。
「そういえば、アフロは何時に来るの?」
「あ、アフロのこと忘れてた。 今から連絡してみます」
スマホでアフロに『優木会長来てるぞ。いまからそうめん茹でるけどアフロも食べるか?』とメッセージを送ると、『すぐ行く』と返信があったので、「アフロすぐ来るって。そうめん3束茹でますね」と報告する。
「うん、じゃあ器も3人分用意するね」
「あいあいさ」
食卓に器や薬味なんかを並べながら優木会長が話を続ける。
「そういえばマゴイチって」
「はい?」
「私と二人っきりでも全然リラックスしてるのね。 学校とかで他の男子と二人っきりとかになると、大概は緊張しててモジモジしてはっきり喋らないとか、馴れ馴れしくおべっか使ってチヤホヤしてくるとか、急に態度でかくなってオラついたりする人が多いんだけど、マゴイチってそういうの全然無いよね。なんだか弟のタカシ相手にしてる時みたいよ」
「え?俺、変です? 俺もチヤホヤした方がいいです?」
「それは勘弁して頂戴。マゴイチ、イケメンなのに全然気を使わないから、居心地最高って言いたいの」
まぁ、恋愛対象として見ていないからな。
それに、俺が優木会長とつるんでる理由も似たようなもんだし。 アクア先輩と別れて精神的に凹んでたけど、そんな時に優木会長相手だと全然気を遣わないし笑わせてくれるから、気を紛らわせてくれて気楽で居心地いいしな。
だからと言って、あくまで友達として扱うし、アクア先輩や過去の彼女たちの時みたいに恋愛対象として扱ったりはしないけど。
「男が女の子と二人っきりになったときに態度が変わるのって、その女の子のことを恋愛対象として意識してるとか、何か期待してるとか、相手が自分に気があるって勝手に勘違いしてるとかだと思うんですけど、俺、優木会長にそういうの全然無いっすからね。だからリラックスしてるように見えるのかも? 多分アフロと二人っきりの時もこんな感じっすよ」
「そうなんだ・・・それはそれでちょっとショックね。 でも、そういう人の方のが友達としてでも恋人としてでも付き合い易いし、長くお付き合いが続けられそうね」
「んー、そうなんですかね? 確かにアフロとは付き合い長く続いてるのか。でも俺としては、恋愛には落ち着きとか心の平穏とかよりも、もっと情熱的なのが欲しいっすけどね」
アクア先輩の情熱はやり過ぎで、ああいうのは二度と勘弁してほしいが。
「情熱かぁ・・・
「いや、その例えよく分かんないっす。 でも、無理めだと思ってた相手が最後の最後で相思相愛になって付き合えたりしたら、最高ですよね。 そういうことっすか?」
鍋のお湯が沸騰したので、そうめんの束の帯を外して3束分放り込みながら適当に会話していると、優木会長が返事をしなくなったので、ふと優木会長の方を振り向くと、優木会長は仁王立ちで左手を腰にあて右手で真っすぐ俺を指さしながら不敵な笑みを浮かべた。
「そういうことよね!やっぱり私の目に狂いは無かったわ!マゴイチ!覚悟してなさい!」
「へ?覚悟?急にどうした!?」
「最後の最後でローリング・クラッチ・ホールド決めるから、覚悟してなさい!ってことよ!」ふっふっふっ
これは多分「後で二人でプロレスしよう。それで最後にローリング・クラッチ・ホールドで勝つから覚悟してなさい!」という勝利宣言では無く、恐らく恋愛的な意味での話で「マゴイチには一度はフラれたけどまだまだ諦めないから、最後にはマゴイチを恋人にしてみせるぞ」っていう宣言なのだろう。
メンドクサイなって思う反面、この人のこういう負けず嫌いというかポジティブで諦めない性格は嫌いじゃなくて、むしろ好感を持っている。
だから、まるで他人事の様に、それはそれで楽しみだなって思ってしまった。
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