#22 初めてのお家では緊張しちゃうシャイなイケメン



 自転車で5分程で優木会長の自宅に到着。


 家は2階建てで車2台分のガレージと庭があるごく普通の一軒家だった。

 ガレージには今は車が無く自転車が2台停まってて、その横に俺とアフロの自転車を停めた。


 庭から優木会長が「玄関こっちね」と呼ぶので、俺とアフロも優木会長の後を追うように庭に行く。


 芝生の庭には花壇と柵に囲まれた犬小屋があった。

 でも俺たちの気配に気づいているはずなのに犬小屋からは犬は出て来なくて、そういえば妊娠中なんだっけ、と思い出した。


「ただいま~」と言いながら玄関に入る優木会長に続いて「お邪魔します」と言って中に入ると、「大きな声で騒がないでね、静かにね」と言われ、アンタが一番騒がしいじゃん!と思いながらもそっと靴を脱いで上がらせてもらう。


 玄関から真っすぐ廊下があり、左手に階段と扉が開いている和室が見え、右手には閉じた扉、奥には洗面所やトイレが見える。


 優木会長は右手の扉を静かに開けて入って行くので、俺とアフロも黙って後に続いて入るとそこはリビングで、テレビに向かって男の子が一人でゲームをしていた。


「タカシ、まだゲームしてたの?」


「夏休みなんだからいーじゃん」


「お昼は食べたの」


「ん」


 男の子は、こちらを振り向かずにテレビ画面に集中しながら優木会長と会話している。

 中学生くらいだろうか。お互い遠慮が無い感じから、多分優木会長の弟だろう。


「なになに?アリサの弟?」


「うん。中3」


 アフロの声を聴いて、優木会長以外にも人が居ることに初めて気が付いた様子で、弟くんがコチラに振り向いた。 優木会長に少し似ていて中3の割には大人びた中々のイケメンだ。


 弟くんはチラっと見て何も言わずに直ぐにテレビ画面に視線が戻ったと思ったら、物凄い勢いで再びコッチに振り向いた。 分かりやすい2度見だ。


 弟くんは、存在感が半端無い中学ジャージでセクシーブスの金髪アフロでは無く、俺を見ていた。 そして俺と視線が合うと「に、西中の狂犬!?」とゲームのコントローラー持ったまま立ち上がり、あわあわと慌てだした。


「西高のマゴイチよ。そんな変なあだ名じゃないわよ」


 優木会長は俺の中学時代を知らない様で弟くんの言葉を冷静に否定するが、「いや、狂犬であってるよ。マゴイチ、中1の頃からそう呼ばれてたし」とアフロが肯定しながらゴソゴソと勝手に弟くんのゲームソフトを物色し始めた。


「つか、なんで西中の狂犬がウチに!?ねーちゃんまた変なちょっかい出したのかよ!よりにもよって狂犬なんかに手を出すなよ!」


 確かに優木会長にはちょっかい掛けられたのは事実だが、俺のことも酷い言われようだな。


 すると優木会長は弟くんの頭を思いっきりはたいて、「声デカイ!アキラが起きるでしょ!」と自分もデカイ声出して怒り出した。



 流石優木会長の自宅とも言うべきか、上がらせてもらってものの5分でカオスな状況だ。

 優木姉弟は怒鳴りあいながら兄弟喧嘩を始め、謎の『アキラ』という睡眠中らしき人物の名前が出てくるし、アフロは我関せずに弟くんのゲームで勝手に遊びだした。


 俺は初めてのお家では緊張しちゃうシャイな男の子なので、その様子を黙って立ちすくみながら眺めるしか出来なかった。



 優木会長がヘッドロックで弟くんを無力化したところで、ようやく「飲み物持ってくるから、マゴイチもその辺に座ってて」と言って、弟くんを解放してキッチンへ消えていった。

 因みに、ゼェハァゼェハァと息を切らしている弟くんとは対照的に、優木会長は全く息を乱しておらず、弟くんに対しても圧倒的な強さを見せていた。


 解放された弟くんはぶつぶつ文句垂れながらも俺をチラチラ見てくるので、俺の方から弟くんに話しかけた。



「俺のこと西中の狂犬って知ってるってことは、去年の北中の事件の時、見てたの?」


「ハイッ!一部始終全部見てました!あの時は3年で嫌われてたブサイクが他校の生徒にボコボコされてて友達とめっちゃ笑ってたんすけど、後でその相手が西中の狂犬だって知って超ビビったっす!」


「いや、なんでそんなに嬉しそうなの」


「あの時の無言のドロップキック、最高に恰好良かったっすもん!」


「そうなんだ、よかったね・・・」


「あ、あの!俺、タカシって言います!狂犬先輩は、ねーちゃんの彼氏なんすか?」


「いや、それは無い」

「そうよ、私の彼氏(候補)よ」


 キッチンからファンタオレンジのペットボトルとグラスを持って戻ってきた優木会長が、俺の否定の言葉に被せるように肯定した。


「うっわ!マジかよ!ゴリラと狂犬とか最狂コンビじゃん!西高ヤバすぎ!」


「誰がゴリラよ!」


 優木会長は今度はグーで弟くんをぶん殴っていた。

 どうやら優木会長は弟くんから、ゴリラと呼ばれているらしい。


 再び兄弟喧嘩が始まると、一人っ子の俺にはこういう時どうしていいか分からず、ただ黙って見ていたが、相変わらずマイペースのアフロがゲームを中断して勝手にグラスにファンタオレンジを注いだので俺の分も注いで貰い、ジュースを飲みながら謎の『アキラ』なる人物のことを考えることにした。



 もう一人、弟でも居るのだろうか。

 で、優木会長は寝ているアキラくんを起こさないように気を付けていた。

 タカシくん(中3)には全く気を使わないのにアキラくんには気を使うってことは、よっぽど小さい子で大切にしているのかな。


 もしかして、赤ちゃん・・・?


 数日前までのトラウマが蘇る。

 カバーオール、よだれ掛け、おしゃぶり、だっこ紐、そして紙オムツ・・・

 次々と俺の脳内にトラウマアイテムが浮かんでは消えていく。


 優木会長のアイアンクローにタカシくんがギブアップしたところで、優木会長に確かめてみた。



「アキラくんは他の部屋で寝ているんですか?」


「うん、そうよ。会ってみる?すっごく可愛いわよ!」


「ちょっと会ってみたいような会ってみたくないような・・・」


「あっちの部屋よ!マゴイチ行きましょ!」


 そう言って優木会長は立ち上がって俺の右腕を掴んで強引に引っ張って俺も立ち上がらせると、腕を掴んだまま俺を連れて廊下に出た。



 アフロもアキラくんの正体に興味があったのかゲームを中断して俺たちに付いてきたが、タカシくんは頭を押さえて床に突っ伏したまま動かなかった。

 アイアンクローで人が死んだ話とか聞いたことないし、放置しても多分大丈夫だろう。











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