#23 生徒会長の反抗心



 優木会長が案内してくれたのは、玄関から見えていた和室だった。


 優木会長に腕を掴まれたまま静かに入ると、部屋の隅に籐細工のカゴが置いてあり、中から柴犬っぽいわんちゃんが顔を上げてコチラを黙って見ていた。


「アキラぁ~起きてたの~?マゴイチ連れて来たよぉ~」


 なぬ!?アキラくんってわんちゃんなの???


 警戒しているアキラ(雌)にそっと近づいてカゴの中を覗くと、アキラの他に4匹の子犬が居てお乳を吸っていた。


 ぐぬぬぬ

 俺がアクア先輩に求めて止まず、幻と消え去った授乳プレー・・・



「一週間くらい前に夜中に産まれてね。それからずっと室内でゆっくり休ませてるんだけど、昨日はアキラが少し元気無くて病院とか連れてってバタバタ忙しかったの」


「そういえば、昨日用事あるとか言ってましたね。そんなに忙しい時に連絡してすんませんでした」


「ううん、いいのいいの!マゴイチから食事に誘ってくれたの初めてだったからね。うふふ」


 優木会長は嬉しそうに目を細めながら俺の左隣に並んでアキラを眺めていた。

 アフロも俺の右隣から一緒にカゴの中を覗き込んで「もう名前付けたの?」と質問すると


「勿論よ!」


「へー、お母さんが「アキラ」なんすよね?」


「うんそうよ! で、一番左の濃い茶色のがオスで「ムトー」で、2番目の茶色に尻尾だけ白いのもオスで「タナハシ」ね」


 むむむ?

 ドコかで聞いたことあるような。


「なんか犬っぽくない変わった名前じゃん」


「ふふふ、イケメンレスラーから拝借したのよ! それで3番目の全身白っぽいのがメスで「コバシ」で」


 なるほど、アキラ、ムトー、タナハシ、コバシ。俺でも知ってる有名なイケメンのプロレスラーだ。

 なら、最後は誰が来る?


「4番目の頭頂部だけ黒いのもメスで、「テンザン」よ!」


「おー!なんか最後の名前、恰好いいな!」


「いやメスでテンザンって。しかもイケメンレスラーじゃないと思うけど・・・」



 もう一度わんちゃんたちを見ると、アキラは俺たちへの警戒を止めた様子でぐでぇ~っと脱力してて、ムトー、タナハシ、コバシの3匹は、アキラのおっぱいにガンガン吸い付いてて、テンザンだけ「私にも吸わせてぇ~」と何度も必死に間に割り込んで吸い付こうとしているが、その度に他の3匹から弾き出されていた。


 テンザンを見ていると、何だか爆乳おっぱいへの執着心でアクア先輩の家に連日通っていた頃の自分を見ているようだ。


「テンザン!俺の分も頑張れ!負けるんじゃねーぞ!」


「うふふ、マゴイチもわんちゃん好きなの?」


「どうっすかね。でもこの子たちはみんな可愛いっすね」


「だったら1頭引き取ってくれない? アフロもどう?」


「1ぴき欲しい!ウチで飼うよ!」


「マジか!即断即決かよ!? じゃあ俺もかーちゃんに相談してみようかな」


「アフロありがとう! マゴイチも是非お願いね」


「了解っす。じゃあ、ちょっと写メ撮っても良いっすか?かーちゃんと交渉するのに見せたいんで」


「あ!ウチも写メ撮る撮る!」


「うん、可愛く撮ってあげて」



 一通り写メを撮り終えると、わんちゃん達をゆっくり休ませてあげようってことで、3人で2階にある優木会長の部屋へ移動した。 因みにリビングにジュースを取りに寄ると、タカシくんは既に復活してて、何事も無かったかのようにゲームを再開していた。



 優木会長の部屋は、家具や小物は女子高生らしく女の子っぽい物ばかりで優木会長の匂いが部屋中充満しているようで、壁や天井にはプロレスラーのポスターや試合の宣伝のポスターが数枚貼られていて、如何にも優木会長らしい部屋だった。


 優木会長は部屋に入るとデスクトップのPCの前に座り「アキラの小さい頃の画像あるから見せてあげる」と言って、PCを立ち上げ自前のメガネを掛けてマウスで操作し始めた。


 アフロの方は、アキラの画像よりも部屋の物に興味がいっている様で、本棚から卒業アルバムを引っ張り出すと勝手に見始めた。


 俺も昔の卒業アルバムの方に興味あったが、優木会長が「これこれ、ココ座って一緒に見ましょ」と座ってるイスの右側に寄って左側半分を空けたので、1つのイスにくっつく様に座ってPCで画像を色々見せてもらうことにした。

 アクア先輩とはスキンシップだけは沢山してたが、そのアクア先輩と別れたばかりだったから、無意識に人肌寂しくなってたのか、優木会長からくっ付いて座るように言われたのが、ちょっと嬉しかった。



「私が中1の頃にアキラがウチに来たの。コレがその頃の写真よ」


「へー」


 画像には、満面の笑顔のタカシくんが両手でアキラを抱えてて、きょとんとした表情のアキラとは対照的に、その後ろで両手をキツネの形にして左右に広げるように掲げて腰を落として斜め上に顔を向けている優木会長が映っていた。


「ぶぶ。なぜ武藤のポーズ」


「この頃は私もアキラも若かったのよ。子供の頃ってカメラ向けられると「何か面白いポーズ取らないと!」ってプレッシャー感じるでしょ?」


「分からないでもないけど、そういうのって普通は男子の方で、女の子は可愛く映ろうって思うんじゃないんです?」


「まぁその辺は色々と反抗心みたいなのがあったからね。 「可愛くなんて映ってやるもんですか!」とか考えてたわね」


 あー

 俺もちょっとそういう気持ちになったことあるな。

「カッコイイ」とか「イケメン」とか「恰好つけてる」とか言われてばかりいると、「そんなことないぞ!俺だって普通の男子だし!」とか思って、わざと変顔で映ったりしてたな。 優木会長は凄い美人だし、子供のころから俺と同じで容姿のことでチヤホヤされ続けて来たから、そういうのにも反抗心があったんだろうな。何となくいつもフリーダムな優木会長らしいって思う。


 その後もアキラの成長を順に追うように画像を見せてもらったが、同時にそれらの画像には優木会長の面白ポーズも収められてて、いつの間にか俺たちの後ろから一緒にPCの画像を覗き込んでいたアフロと俺はゲラゲラ爆笑しっぱなしで、そんな俺たちを見て優木会長は得意げに「こんなのもあるわよ」と更に色々な自分の面白画像を見せてくれた。



 優木会長は誰もが認める超が付く程の美人だが、そのことは優木会長本人にとってはどうでも良いことの様で、そんなことよりも如何に周りを笑わせるか、とか、落ち込んでる友達を元気付けるとか、そういうことの方が大事だと考えてる人なんだろうな、と改めて優木会長の本質が解った気がした。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る