#09 イケメンの友達作り



 次の日の朝、目が覚めると、昨日のアリサという名前らしい失礼でヤバイ生徒会長に敗北したことや1年8組のクラスでの様子のこと等を思い出してしまい、入学して2日目だというのに早くも学校に行きたくない病を発症してしまったが、このまま登校拒否するのも負けたままの気がして悔しいので、とりあえず嫌な記憶は忘れることにしようと自分に暗示を掛けて、むりやりポジティブシンキングに切り替えることにした。




 髪型を整え学生服を着こんで愛車に乗って学校へ行くと、昨日と同じようにアリサという名前らしい失礼でヤバイ生徒会長が校門に立って居た。


 俺はまた怒られる前に愛車から降りて、目立たない様に人込みに紛れようとするが、如何せん身長180の俺は目立つ様でアリサという名前らしい失礼でヤバイ生徒会長に秒で見つかってしまった。



「おはよう!西尾マゴイチくん!」と挨拶するアリサという名前らしい失礼でヤバイ生徒会長は、朝から100点満点の笑顔だ。


 この人、昨日俺に告白断られてるんだよな。

 なんでこんなに元気なんだろうか。

 これも自主性を重んじた賜物だろうか。


 とは言え、挨拶はキチンとしないとダメだと幼少期から親に厳しく躾けられてきた俺は、自分がフって本来なら気まずいはずの相手でも「おはようございます」と相手の目を見て挨拶を返した。


「はぅ♡ やっぱりカッコ、ィィ・・・」


 もうヤダ。

 こういう反応は幼少期より慣れてはいるが、流石に朝の校門前でやられるのは羞恥プレーにも程がある。 しかも相手は、西高でも1・2を争う有名人であろう美人生徒会長だ。 俺は目立ちたい訳でも人気者になりたい訳でも無い。

 なのに高校生活初日から問題児のレッテルを貼られたりクラスで浮いたり失礼でヤバイ生徒会長に追いかけ回されたり、と理不尽極まりないことばかりだ。


 もういっその事、このアリサという名前らしい失礼でヤバイ生徒会長にも、俺のドロップキック&トゥキックの必殺コンボ決めて沈黙させてやろうか。

 その方が俺もスッキリするしな。

 例え相手が女性であろうと、このアリサという名前らしい失礼でヤバイ生徒会長が相手では俺も本気で挑まないと逆に刈り取られてしまうしな。 あの体のキレは本物だった。




 いかんいかん。

 ポジティブシンキングに切り替えるんだった。

 もう少しで負の感情に囚われて、暗黒面に堕とされるところだった。



 それに、客観的に見ると、アリサという名前らしい失礼でヤバイ生徒会長は俺にとって高校で出来た初めて友達だとも言えるしな。昨夜はSNSで4時間ぶっ通しメッセージのやり取りしたし。


『高校入学式当日に3年の綺麗な先輩に告白されて、お断りしたら友達になった』

 こうやって聞くと、まるでラノベのラブコメみたいな話だ。


 現実は『自主性モンスターのヤバイ女にロックオンされて、逃げきれずに捕獲された』というラブコメとは程遠いホラーな話なんだが。


 それでも友達には違いないだろう。

 俺、クラスでは既に浮いちゃってるしな。

 友達少ない俺としては、ヤバイ女でも唯一の友達としては一応は大切にした方のがいいよな。

 それに、告白断られてもこうやって明るく接してくれるのは、気を使ってくれてるのかもしれないしな。 多分、図太いだけだと思うけど。



「生徒会長、とりあえず大きな声でフルネームで呼ぶのは止めてもらえますか?」


「うーん・・・じゃあマゴイチね!」うふふ


 アリサという名前らしい失礼でヤバイ生徒会長は、胸張って俺を呼び捨てにした。

 やっぱ図太いんだな。


「大きな声じゃなければソレでいいです。はぁ」


 朝の校門で立ち止まって生徒会長といつまでも挨拶してては目立ってしまうので、もう1度軽く会釈して駐輪場へ向かった。


 駐輪場から下駄箱へ向かい、上履きスリッパに履き替えて教室に向かう。

 相変わらず他の生徒さん達は俺に気づくと距離を取るようにして道を開けていく。


 折角中学時代のマイナスイメージがリセットされたと思ったのにな。

 俺ってそんなに怖いのかな。

 クールを装うのがダメなのかな。

 もっと明るくフレンドリーだと怖がられないのかな。

 それとも、ばい菌扱いされてるのかな。

 西高生らしく自主性をアピールすれば仲良くして貰えるのかな。


 色々悩みながら歩いていると、1年8組の教室に到着。

 よし、フレンドリーで自主性のアピールだな。


 俺は教室の入口でそう自分に言い聞かせると、教室に入ってクラスメイト達に向かって挨拶をした。



「チィーッス!みんなおはよう!今日も勉強がんばろーぜ!アハハハ」


 ざわざわざわざわ


 しまった!

 無理に背伸びして頑張ったのに、ダダ滑りした!

 やっぱりばい菌の方だったか!?

 そもそも自主性ってどうすればアピールできるんだ!?



 俺はクラスメイトたちが遠巻きにチラチラと送ってくる視線に耐えながら、そそくさと自分の席に座った。


 カバンから筆記用具を取り出して机にしまっていると、右隣の席の子がやってきたので、また無視されるかな?と思いつつも、一応礼儀として「おはよう」と挨拶をしてみた。


「ぉ、おはよう、ございます・・・」モジモジ


 お?今日は無視されなかった。

 

 なるほど。

 分かってきたぞ。

 高校生活スタートしたばかりだし、昨日は初日で緊張してたんだな?

 だからいきなり声掛けられても上手く返事が出来なかったんだな。


 教室内を見渡すと、チラホラとグループみたいなのが少しはあるが、ほとんどの人はまだ俺と同じように一人で席に座っている。 みんな緊張してて周りと打ち解けられずに戸惑ってるのかな。


 だったら俺からもっと声を掛けた方のがいいのか。

 そう思い立った俺は、引き続き右隣の子に話しかけることにした。


「ねね、君って名前なんだっけ?昨日の自己紹介、俺全然聞いてなかったから覚えてないんだよね」


「ひゃぃ!わ、わわわわわたしですか!?」


「うん。ごめんね。折角隣の席だし、名前くらいチャント知っておきたくて」


「ヌヌヌヌヌヌマタです!」


「ヌヌヌヌヌヌマタさんね。ヌは6個で合ってる?」


「違います!沼田です!1個です!」


「え?」


 最初、ヌヌヌヌヌヌマタって言ってたじゃん。

 まぁいいや。フレンドリーにポジティブシンキングだ。


「えっと、それで沼田さんってどこの中学だったの?」


「北中です・・・・」


「マジか。ってことは、あの女の・・・」


「・・・・」


 若干気まずい空気になったと思ったら、背後から一人の男子生徒が声を掛けてきた。


「マゴイチ君って西中だよね?」


「え?そうだよ。西中で家もココから近くだよ」


「もしかして、去年北中で大暴れした狂犬ってマゴイチ君?」


 く、やっぱり俺が狂犬だってバレてたのか。


「えっと・・・」


「あ、ごめんごめん!別に非難しようとか思ってたわけじゃ無くて、西中の狂犬って言えば北中じゃ凄い有名人だったからね。それでどうしても確認したくて」


「なるほど。ということは君も北中なんだ」


「うん。北中から来た近藤です」


 この北中出身の近藤君という男子生徒は、髪型をピッチリ七三に横分けしてて、黒縁メガネをクイッっとするしぐさがちょっと気になる根は真面目そうな男子だった。


「そういえば、北中の子に聞きたいことが有ったんだけど」


 俺は、元カノであるアズサさんが、志望していたこの西高に入学しているのか少しだけ気になっていたので、近藤君と沼田さんに聞いてみた。


 近藤君が言うには、アズサさんは西高を受験はしたけど落ちて、私立の女子高に進学していたことが分かった。因みにその女子高はアフロが通う段田女子学園(略して段女だんじょ、もしくはダンジョン)という同じ市内の私立で、頭と股が緩い女が多いと言われている。 そして風の噂では、小6の時に付き合っていたアンナちゃんもそこに入ったと聞いている。 まさしくモンスター級のゆる股ビッチ共が巣食うダンジョンだな。


 その後も近藤君と沼田さんとは北中情報や俺の噂話で盛り上がり、俺の方からスマホの連絡先を教えて欲しいとお願いすると、近藤君は「僕からもお願いしようと思ってたところだったんだよね。是非!」と快く応じてくれて、沼田さんは「ひぃぃ!ママママゴイチくんに連絡先をですか!?」と過剰な反応を示した。


 それでも何とか沼田さんとも連絡先を交換すると、さっきまで遠巻きにチラチラ俺に視線を送っていた他のクラスメイトたちも、ワラワラと集まってきて「俺も!」「私も!」と一斉に俺との連絡先の交換を要求してきた。


 予想外のその展開に「ど、どうしたんだ!?クラス一丸となって俺の個人情報をネットで流してネットいじめでも企んでいるのか!?このクラスにはネットリテラシーは無いのか!」と動揺していると、近藤君が黒縁メガネをクイッとしながら「マゴイチくん、何言ってるんだい。みんな超イケメンで有名人の君と友達になりたいんですよ」と教えてくれた。


「でも、昨日は俺が自己紹介したとき滅茶苦茶空気凍ってたじゃん。クラスメイトが交通事故で死んじゃった翌日みたいだったじゃん。今朝だって無理してフレンドリーに挨拶しても、誰も返事してくれなかったぞ?」


「あの・・・きっとみんな、マゴイチ君が余りにもイケメン過ぎて、緊張してたんだと思います。私も昨日は折角挨拶してくれたのに、マゴイチくんに見つめられて目が合ったら頭真っ白になっちゃって・・・無視するつもりは無かったんです。ごめんなさい!」

 沼田さんはそう言って、膝に手を付いて頭を下げてくれた。


 むむむ

 女の子と目を合わせた時に赤面されたりモジモジされることはよくあったけど、クラスの空気凍り付かせるほどのことは今まで経験ないぞ。 俺のイケメンフェイスはヒャダルコからマヒャドにランクアップしてたのか?


 はっ!


「も、もしかして! 昨日から校庭とか廊下で他のクラスの人とかも俺を避けて距離とるのも、同じ理由・・・?」


「多分、そうだと思います・・・」


「なんてこった・・・俺はてっきりばい菌扱いされてるかと・・・」


「マゴイチ君って超イケメンなのに、何気に自己評価低くて卑屈なところあるんだね」


 だが、クラスメイトたちとのこれらのやり取りが切っ掛けでクラスのみんなは俺との距離を取らなくなり、普通に会話してくれるようになって、俺としてはなんとかクラスに打ち解けることが出来たと一安心した。





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