#07 Noと言えるイケメン
入学式が終わり教室に戻ると、順番に自己紹介をすることとなった。
一人づつ順番に自分の席で立って、名前に出身中学と一言二言アピールして行く。
男子はウケを狙うのも居れば、孤高を気取ってるのかクールに済ませるヤツも居たりして、女子はだいたい必要なことだけ言ってさっさと座ってしまっていた。 クラスの反応は、あはははとウケたり、拍手を送ったりとソコソコ盛り上がっていた。
そして俺の番が回って来た。
俺は、浮いたり距離置かれたりしたくは無いが、人気者になりたい訳でも無いので、簡単に「西尾マゴイチです。西中から来ました。家から近いのに自転車通学が出来るのでこの高校を選びました。1年間よろしくお願いします」と無難に自己紹介を済ませた。
だが、俺の時だけ何故か反応が無い。
誰一人拍手をしてくれない。まるで教室の空気が凍った様だ。
「え!?俺なんか不味いこと言っちゃった???」と焦って右隣の席の女子を訴えかける様に見ると、頬を赤らめサッと目を逸らされた。
そうだ、この子には朝から無視決めこまれてたんだった。
仕方なく左隣の席の女子も見ると、同じ様な反応された。
クラスの無反応に動揺してしまい座るタイミングを見失った俺に諏訪先生が話し始めた。
「君が西尾マゴイチ君ね、うふふ。中学の時の話は色々聞いてますよ。高校では問題を起こさない様にね☆」
1つ1つは小さいことだが、朝からフラストレーションの積み重ねもあった為、諏訪先生のこの言葉に俺はカチンと来て言い返してしまった。
「先生が俺の中学時代の何を知っているのか知りませんが、毎回毎回俺にも理由がありました。それでも高校になったら心機一転真面目に頑張ろうとポジティブシンキングに切り替えているのに、そうやって過去を持ち出してクラスメイト達の前で問題児っていうレッテル貼って、生徒のやる気を阻害する行為は教師として正しい行動だと思っているんですか?」
先生的にはクラスをシーンとさせてしまった俺に助け船でも出したつもりだろう。
だが、高校進学でやっとリセット出来た俺のマイナスイメージを掘り返すような行為は、いくら教師でも許せなかった。
「せ、先生はそんなつもりじゃないです!」
中央列一番前の席の俺は、反論する諏訪先生を真正面から威圧するように見つめて更に指摘する。
「じゃあ何で態々このタイミングで楽しそうに俺の中学時代の話を持ち出すんですか?その必要性があったようには思えませんが?」
「はぅ♡ カッコ、ィィ・・・」
諏訪先生の態度が急に変わった。
赤面してモジモジしはじめた。
この反応もよく知ってる。
ドキドキして俺の顔が見れなくなった時の女子の反応と同じだ。
チョロい子に多い反応だな。
こうなると大抵の女性は、まともに喋ってくれなくなるので、俺は早々に諦めて「言い過ぎましたサーセンした」と棒読み謝罪をしてから席に座った。
その後は、クラスメイトの誰かが交通事故にでもあって死んだ翌日の様な重い空気のまま自己紹介が続けられた。
最後に何とか持ち直した諏訪先生から、今週の予定や高校生活での注意事項などの説明があった。 教卓に立って話す諏訪先生は、目の前に座る俺をチラチラと物凄く意識してしまっている様子で、俺と目が合うと赤面して直ぐに目を逸らすという反応を繰り返し、アラサーのクセして思春期の中学生の様だった。
全ての連絡事項が終わり放課後となると、入学初日だというのに1年8組の教室に3年の先輩が一人押しかけて来た。
例の失礼な生徒会長だ。
「西尾君は居ますか?西尾マゴイチ君です」と教室の入り口付近の席の子に尋ねているのが聞こえたので、ロクなことでは無いと思い、通学用のリュックを抱えてひっそり脱出しようと廊下に出たところで「待って頂戴!西尾マゴイチ君よね?」と失礼な生徒会長に制服の袖を掴まれた。
その瞬間教室や廊下がざわざわし出した。
美人で3年の生徒会長が入学初日の1年の教室で俺のフルネームを大声で呼ぶから、目立ってしまっている。
まずい。
こんな所で面倒事起こしたら、折角リセットされた俺のイメージが。
「すみませんが、用事があるのでしたらココでは無く場所を変えて貰えますか? 人目が多いし目立つのも困りますので」
「そ、そうね。元々そのつもりだったから、移動しましょうか」
失礼な生徒会長がズンズン歩いていくので後ろを付いて行く。
失礼な生徒会長は、身長は比較的低いが顔も小さくて非常に整ってて、サラサラな黒髪のストレートロングが紺色のセーラー服と良く似合ってて文句なしの美少女。10人居たら10人全員が美人だって言うだろう。 俺が過去出会った女性の中でもベスト3に入るほどの美人顔だ。しかも生徒会長だからきっと西高では有名人で人気者かもしれないな。
まぁ俺には美人に用はないから興味ないけどな。
それに朝の態度は、やっぱりちょっとイラっとしたし。
失礼な生徒会長に連れてこられたのは、生徒会室だった。
失礼な生徒会長に続いて室内に入るが、何かあった時に直ぐに脱出できるように、入口の扉は開けたままにして入口付近で立ち止まる。
「それで、入学式当日に態々1年の教室まで押しかけて、俺に何の用事ですか? 朝のことならあの時も言いましたけど、ルール知らなかったし自転車直ぐ降りて頭下げましたよね?まだ何かあるんですか?」
「ち、違うの!そんなことじゃないの!」
「では何でしょうか?実は以前ドコかでお会いしているとか? でも先輩程の美人さんなら流石に忘れないと思うんですけど」
「さ、流石イケメンね・・・女性の褒め方もストレートなのね・・・」
「で、何の用事でした?」
「それはその・・・一目惚れしました!私の彼氏になって下さい!」
でた、一目惚れ。
中学の時も入学して早々によく知らない女子たちから告白されまくったっけ。
やっぱり高校でも同じなんだな。
でも俺はあの頃とは違う。
モテたい訳じゃないし、俺の掲げる恋人の条件は『可愛くない子(巨乳)』だ。
失礼な生徒会長は、よく見ると比較的豊満なおっぱいの様だが、美人さんだ。条件には当てはまらない。 きっと去年までなら、迷うことなく即答でOKしていただろうが、今の俺には何も響かない。高校生になった俺は可愛い子相手でも『NO』と言えるイケメンに進化したんだ。
「ごめんなさい。先輩とはお付き合いできません」
「ど、どうして!?」
フラれた理由を聞いて来るということは、自分がフラれるとは思っていなかったのだろう。
こういう女は、だいたい後が面倒臭い。
面倒臭いのは、逃げるしかないな。
「美人には興味ありませんのでごめんなさい。では失礼します」と言って生徒会室から脱出し、一目散に下駄箱を目指してダッシュで逃亡を謀った。
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