1部 高校生活スターット!

#06 高校入学、新たな苦難の幕開け



 俺が進学する段田西高校(略して「西高」)は、市内で2番目の偏差値レベルの公立高校。 これくらいのレベルだと、近所の人とかに「マゴイチくん西高合格したんだ!勉強頑張ったんだね!」と褒めて貰えるレベルである。 因みに俺が西高を選んだ理由は、家から近くでしかも自転車通学OKだったからだ。 比較的校則が緩く、伝統校にありがちな「自主性を重んじる」とか言って見栄はっちゃう高校だ。


 西高のもう1つの特徴と言えば、制服である。

 男子は黒のノーマルな学生服で、女子も紺色のノーマルなセーラー服。

 ブレザーが主流のこのご時勢にノーマルな制服は却って珍しい方だろう。 だから市内では、西高の生徒は制服を着ていると目立つし「あ、西高生だ」と直ぐ解る。





 4月初旬。


 髪型を整え真新しい学生服を着こんで、通学用に新調したリュックを愛車(自転車)のカゴに入れて、俺は一人で高校へ向かった。 因みに歩いても10分かからないから自転車だと3分で着く。

 今日は入学式で、かーちゃんは後から歩いてくる。



 学校に着いて自転車に乗ったまま校門を通ると、早速校門に立つ生徒会っぽい先輩に「校内では自転車から降りなさい!」と怒られた。

 そんなルール聞いてねーよ!と内心思ったが、入学初日から問題を起こしては、折角中学までのマイナスイメージをリセット出来たばかりなのに、また変なイメージが付いてしまうと思い直して、素直に自転車を降りて「今日初めてで知りませんでした。今後は気を付けます」と言って頭を下げた。


 するとその生徒会っぽい先輩は、俺の顔を正面から見た途端、赤面&硬直して返事をしてくれなくなった。


 初対面の人によくあるパターンだな。いわゆる「イケメンあるある」だ。

 爽やかイケメンだと、そこから甘い言葉でも言って颯爽と立ち去るのだろうが、俺はそこまで性格が良くないので「怒鳴られたから頭下げて謝ってるのに、無視かよ!」と腹の底で不平を貯めこみながら「チッ」と舌打ちして立ち去ることにした。


 因みにその生徒会っぽい先輩はかなりの美人だったが、真理に辿り着いた今の俺には美人はお呼びでは無いので、「失礼な女」という認識しか持てなかった。



 他の生徒会っぽい人たちの誘導に従って駐輪場に愛車を置くと、今度は昇降口前のクラス分けが掲示してある場所へ移動した。

 俺と同じ新一年生の人込みをかき分けて1組から順番にチェックしていくが、俺は8組だった。 ひと学年8クラスだから、「1組からじゃなくて8組からチェックすれば良かった」と地味にダメージを受けて下駄箱へ向かおうとすると、周囲の様子が一変していた。

 長いことクラス分けの掲示板の前にいたせいか、俺の周りだけぽっかり穴が開いたように人込みが避けられていた。


 これも経験あるぞ。

 確か、中1の時に吹奏楽部の2年をボッコボコにした後、それまでキャアキャア言っていた女の子たちが、途端に俺と目を合わせようとしなくなった時だ。 あの頃から『狂犬マゴイチ』って変なあだ名付けられ距離を置かれるようになったんだっけ。


 だからと言ってココで不機嫌な態度なんか取ってしまうと、折角リセットされた俺のイメージが。 それに人込みは苦手だしな。周りの方から勝手にスペースを作ってくれるなら、それはそれで楽だしな、とポジティブシンキングに切り替えて、モーゼの十戒の様に下駄箱へ向かった。



 教室に行くと、出席番号順で席が決められていて、俺の席は中央の列の一番前の席だった。授業中は常に監視され居眠りが出来ないし、ことあるごとに先生とかに話しかけられたりするクラスの中でも生贄いけにえとなる席だ。

 滅茶苦茶ブルーになりながらその席に座ると少し冷静になり、(不機嫌な感情が顔に出てしまうと、また狂犬とか言われてクラスで浮いてしまう。ココは敢えて何でもないことの様にポーカーフェイスで居るべきだな。余裕のある大人な感じを演出するべきだよな)と思い直した。


 クールを気取るのは比較的得意だ。

 何せ小学校の頃のアダ名は「ツンデレ王子」だったからな。

 だから俺は右隣に座っている女子生徒に少しクールな感じで「これから1年間、よろしく」とコチラから挨拶したてみた。

 でも、その女子は返事をする素振りのまま俺の顔を見た途端赤面&固まって返事をしてくれなかった。 またコレだ。「イケメンあるある」だ。 

 だが生徒会っぽい失礼な女と違ってクラスメイト相手では下手な態度を取れないから、「むぅ」と少しだけ残念そうに声を漏らして、今度は左隣の席に座る女子にも同じ様に「これから1年間、よろしく」と挨拶したが、結果は同じだった。


 俺がイケメンだからなのか、それとも西中の狂犬だってバレてのことなのかは不明だが、何だか先が思いやられる思いだ。



 俺の所属する1年8組の担任は、『諏訪アサコ』という女性の教師だった。

 自己紹介の時に「年齢はヒミツです☆」と言っていたが恐らくアラサーだろうな。俺より干支が一回り以上は回ってそうだ。

 この諏訪先生、今日は入学式だからフォーマルなスーツをぴっちり着込んでいるが、ひとことで言えば、ゆるふわ系女子とでも言おうか、容姿は可愛い系だがその辺のキャピキャピしているOLみたいで教師っぽくない。

 まぁ、敢えて言わせて貰うと、あざといと言うか、生徒からの人気を気にして親近感をアピールしてるんだろうな。

 ある意味俺とは相容れない考え方の様に感じる。



 諏訪先生の誘導で体育館へ移動し、入学式に出席した。


 入学式では、校長先生の5分程度のスピーチで「自主性を重んじ」というワードが8回も出て来て、どんだけ自主性を重んじたいんだよ!と腹の底でツッコミをいれてしまった。


 そして生徒会長の挨拶では、朝の校門に居た失礼な女が出て来た。

 あの失礼な女は3年で生徒会長だったんだな。

 因みに、生徒会長のスピーチでも「自主性を重んじ」というワードが5回出て来た。


 これはある種の洗脳セミナーなのかもしれないな。

 西高生はこうして洗脳されて、自主性を重んじないと体がかゆくなったり落ち着かなくなる体質になってしまうとか。





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