竜呑ウーガの死闘Ⅱ③
大罪竜の眷属達は、それぞれ自身の本体から大きく権能を分け与えられた竜達だ。
小型の尖兵の竜達もある程度の力を有しているが、それでも分けられる力はごく一部だ(もっとも、その一部で並大抵の魔物達と比べて凶悪な性質を有する)。眷属竜ともなれば、分け与えられる力の総量が跳ね上がる。その事を長い間七天として活動を続けてきたジースターは良く理解している。
『A――――』
だから、目の前の巨大な銀竜が間違いなく眷属竜の類いであるということはすぐに理解できた。今現在イスラリア中を飛び交い、銀竜と比べても明らかにスペックが違う。権能を振るう以前に、力も速度も魔力も桁が違う。
ジースターに与えられた風の加護は決して弱いわけでは無い。熟達した風の神官達に与えられる【飛翔】の力と遜色ない、どころか上回りさえしている。だが、
『A――――AAA』
「…………!?」
翼が輝く。光が放たれる。ジースターは全身が焼かれる寸前でその場から離脱する。機剣を構え、回避と同時にそれを振るうがその瞬間には銀竜の姿はその場から消えていた。
「っ!!」
横に飛ぶ。するとそこへと再び光が飛んでくる。視界の端に映る銀竜は、今度は胸部から光を放っていた。口からだけではなく、全身を武器に【咆吼】を放てるらしい。だが、問題はそこではない。
問題なのは、こちらがまるで敵に追いつけていない現実だ。
わかりきったことではある。自分は他の七天のように才能から選び抜かれた傑物達とは違う。アルノルド王との契約によって力が与えられていたに過ぎない。それに見合うだけの努力を重ね、戦いを続けてきた自負はあるが、どこまでも自分が凡人なのは事実だった。
だがしかし、そんなことは、分かっている。そんな凡夫であろうとも、守らねばならない者達が、貫かねばならない信条があるから、今此処に自分はいる。
「【魔機螺展開!!】」
ジースターの周囲を守るようにして旋回する装甲が再び展開する。拡張し、壁のようになり、周囲に結界を展開し、広い空を区切る壁のように動く。
『AAA――――!』
当然、その程度で銀竜の動きを封じることは出来ない。こちらの装甲が銀竜を取り囲むように動くや否や、銀竜は素早く飛翔した。追ってくる装甲をかいくぐり、時に弾き飛ばしながら振り払い、容赦なくジースターを焼くべく、輝きを増していく。
捕らえることは、できない。だが動きを制御し、予測させることはできる。
「撃て!!!」
ウーガ地上部からの砲撃が再び起こる。天才にして怪物、ダヴィネの魔改造によって別物になった戦車からの砲撃から放たれた熱光が、情け容赦なく銀竜を焼き払った。銀竜が放とうとした光は揺らぎ、ジースターには届かない。
効果はあった。少なくとも外の世界の兵器も、方舟内部の魔導技術を取り込むことで十分に通用するものに昇華するのは間違いなかった。
問題が、あるとすれば、
《ダメージが、無い……!?》
通信から、呆然とした声が響く。
『――――――――AA』
砲撃された銀竜が再び姿を現したが、その姿には傷一つ残っていなかった。それを見て【自警部隊】の皆は呆然とした声を上げる。が、一方で、ジースターはどこか落ち着いていた。
「――まあ、そうだろうな」
長く離れていた家族との再会で勘違いしそうになりそうだったが、改めて自覚する。ジースターはとっくの昔に常識外れの怪物と化していたし、その身で戦い続けた怪物達は大体こんな風に理不尽だ。この理不尽が、自分の戦う戦場だ。
「これもまた、何時ものことだ」
故に、その理不尽への恐れも動揺も無い。ジースターは戸惑うことなく、無傷の銀竜へと再び剣を振るった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一方で、ウーガ上空のエシェルもまた、理不尽と相対していた。
「む、う……!!」
白銀の竜との戦闘において、エシェルはその速度で敗れることは無かった。虚飾の竜から奪った翼によって自在に飛翔する能力を身につけていたエシェルは、銀竜にも劣らぬほどの速度を身につけていた。
竜達は間違いなく理不尽の体現者であるが、エシェルもまた、その域にその身を置いている。あの最凶の竜グリードを超えて、彼女の力はさらなる冴えを見せ始めていた。
だが、相手はそのエシェルをよく知る、シズクの眷属竜である。
「【鏡よ!!】」
これで何度目か、エシェルは再び鏡を展開する。
相手の力を、相手そのものまでまるごと飲む凶悪極まる簒奪の鏡。対人だとあまりにも危なっかしくて使うことも出来ないそれを、エシェルは銀竜へと向かって放つ。だが
『AA―――――』
鏡から放たれた光は、銀竜に直撃した瞬間“跳ね返った”。
「奪えない……!?」
敵の体が、鏡のようになっている……?
否、違う。鏡のようにではない。これは、
『AAAAA――――――――!!!!』
竜の身体が光り輝き、周囲を焼く。その破壊の力に、戦いの最中エシェルが使った魔眼の力が入り交じっていることに気がつく。
「
月、という概念を方舟の人類は知らなかった。
外の世界を知り、シズクが敵対してから彼女の有する力についてエシェルはウル達と一緒に調べた。月の概念、太陽の光を受け取ることでその輝きを保つ鏡。光を受けてそれを返す鏡が起こす現象をもっと大規模に、太古の昔から行ってきた現象そのもの。
まさに、鏡という現象の大本だ。自分が出来ることは相手もできる。
だけど、
「知ってる……!!」
エシェルは怯まなかった。
「シズクが、私より凄いって、知ってる!!!」
自分と年齢もほとんど変わらないのに、シズクは何時も落ち着いていて、何だって出来た。自分たちより遙かに年上相手にもまるで怯まない、どころか手玉にとったりもして、ウーガをずっと守り続けてきた。
彼女は実質的な支配者で、エシェル達は彼女に守られ続けてきたと言っても過言では無く、そしてウルに最も近かったのも彼女だった。そんな彼女にエシェルは憧れもしたし、嫉妬もした。どうしたって勝てないとすら思った。
「でも、今、このときだけでも」
そんな彼女を助けるためには、彼女に打ち勝つ以外無いというのなら
「お前を超えるぞ!!シズク!!!」
『AAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』
白銀の月鏡と黒翼の盗鏡、壮絶な奪い合いが始まった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【竜呑ウーガ】司令塔
「エシェル様……!」
指令室にて限界ギリギリまで研究を続けるリーネに代わり、ウーガの指示を出すカルカラは、水晶に映る自分の主の激闘に手を強く握りしめる。最早彼女の戦いを援助する事は出来ない。のこのこと戦場に出れば足手まといになると分かっている。
だから、せめて自分の出来ることを!その意思を貫くべく、カルカラは刻一刻と変わる状況を見定め、動くことが出来る数少ない人員達に指示を出していた。
「カルカラ様!」
「どうしました!」
その最中、術者の一人から悲鳴のような声が響いた。その声音から良い情報では無いというのはわかりきっていたが、カルカラは即座に応じた。
「押さえ込んでいた粘魔が動きます!!!」
水晶の映像が変わる。映し出されたのは、あの邪悪なる【魔王】が創り出した冗談のような巨大兵器――――の、残骸だ。ウルが徹底的に破壊し、その大半の装備を、鎧をスクラップにした。
『OOOOOOOOOOOOGGGGGGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』
その、砕け散った破片を全て、鎧のように纏った粘魔王が、ウーガの拘束をくぐり抜けて、動き出したのだ。
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