嘘と真実


 冬の精霊ウィントール神殿、魔術工房


「随分と、古い場所ですね」

「ええ、此処はこの場所が建造された当時に造られたと聞いております」


 神殿長の言葉通り、案内された魔術工房は、随分と古びていた。至る所が劣化と補修を繰り返されていて、古い部分と、新しい部分が混在していた。設置してある設備もバラバラだ。一流の魔術師が使うような魔具があるかとおもいきや、魔術を習い始めの子供が身につけるような魔道具が無造作に転がっていたりもする。


 神殿そのものと同じく、雑多な印象を与えてきた。


「利用者は?」

「多くの者が。見て分かるとおり、環境としては整えられております故、回復薬の調合なども出来ます。立ち寄っただけの名無しの者達も、此所を利用する者は多いのです」


 そしてこの場所の利用自体制限はない。必要な者が使えば良い。片付けさえしてくれればかまわない。そんな場所なのだと語る。実際、十数年とこの場所を利用して、少し怪しげな研究を続けていた者がいたことも何度もあった、なんてことを長は一切隠さず、朗らかな感じで語った。


 なるほど、エクスタインはそれに応じて愛想笑いを浮かべながらも、内心で苦々しく思った。複数の利用者が混在している。それはつまり、痕跡を調べるのが酷く困難であることを示している。

 「対竜術式」とやらの調査について、天陽騎士達の報告が曖昧だった理由が分かった。


 「暫く調べさせて欲しい」と、申し出ると、長は朗らかに了承した。本当に彼は協力的だった。自分たちがこの神殿の所属している者を疑い、調査している事などまるで気にしていないらしい。


 あるいは、自分とは直接関係ないと思っている……?


 あり得る話だ。話を全て信じるなら、冬の精霊への献身は、あくまでも個人の活動であって、組織ぐるみで計画的に行っているものでは無い。

 想像以上にこの集団は、集まりとしては脆弱だ。シズクの言動、印象とは全く違う。


「貴方たちの苦労が理解できましたよ。ファイブ殿」


 ファイブにそう言うと、彼もどこか疲弊したように頷いた。既にこの場所を調べ尽くしたらしい彼は、手慣れた様子で工房の中へと入り、棚に無造作に詰め込まれていた書類を手に取る。


「利用者も残された資料も混在している。当然、紛失したものも多い」

「調べる方が無理ゲー。もういいじゃん」

「ダメだ」

「真面目にやりなさい、ナイン」


 ナインの愚痴をファイブは一刀両断し、ゼロも抗議する。エクスタインは苦笑しながらも彼に続いて部屋に入った。

 工房はこういった神殿の設備としてはかなり広く、雑多にモノが無秩序に置かれている。だが埃は積もっていなかった。長が言っていたとおり今もそれなりの人数が出入りし、利用していたのだろう。


「シズクの……「対竜術式」の研究書類はありましたか?」

「竜に関わる研究は幾つもあったが、全て混在していてバラバラなうえ、劣化も激しい。正直、実際に竜に通じる術がここで研究されたかも怪しい……が、否定も出来ない」

「ウルと遭遇した時にあったという、転移術の痕跡は?」

「こちらも複数。危険地帯をショートカットするため、古代の転移術を強引に利用しようという輩もいるらしい。大半が失敗に終わったらしいが」


 情報を聞く度に、エクスタインは顔が引きつっていく。改めて、事前に調査を行った天陽騎士達がいかに苦心して情報を集めたのかが、わかってきた。


「……なんというか、とことん情報にノイズが混じりますね」


 場所も何もかもここまでハッキリとしているのに、肝心要なところが悉く曖昧だ。確信が得られない。無論、悪魔の証明とでも言うべきか、罪が存在しないことを証明しようとしているからこその空回りと言えなくも無いのだが、それにしたって肝心の部分がハッキリとしない。


「本当にわざとかもしれない」


 ファイブは髪と同じ、美しい蒼の瞳で工房を見渡しながら、鋭い言葉で言った。


「此所の連中がグルになって隠蔽していると?」

「あるいは


 彼の言いたいことは、エクスタインにも理解できた。


 。しかし―――


「完全に彼女を疑っているのですね」


 ファイブの言動は、明らかに疑惑を前提にしていた。あるいは、グレーレからの指示があったエクスタイン以上に、


「竜を制御する術式。容易くは造られない。これまでのイスラリアの歴史をひもといても、直接的に竜に干渉する術を操ったのは彼女だけだろう」


 それを辺境のこのような地で生み出されるのは確かに違和感だ。「それに」と彼は続ける。


「それにあの子―――


 そこで出てきた名前に、エクスタインは目をしばたかせる。


「スーア、様?」

「あの子との謁見を、上手く利用された可能性がある。“マスターはその事を危惧している”。無数の精霊の力を宿したあの子が白と言えば、それは白になる」

「長い年月をかけて培った精霊信仰、強いもの。それが裏目に出るなんてバカみたいだけど」

「それを理解して、彼女が【歩ム者】の謁見の場を利用した可能性がある」


 ファイブとナインの言葉に、エクスタインは、上手く返答できなかった。情報の内容もそうだが、それ以上に、彼の言いようそのものが気になる。天上の御子、【天祈】のスーアに対しての彼の言葉遣いは、まるで、身内に対するもののようだった。


。心配するのは当然でしょう?」


 そして、それを肯定するように、ゼロから直球の爆弾がたたき込まれ、エクスタインは顔を引きつらせる。


「……ちょっ、と、待ってください。僕、今、最高機密みたいな情報をさらっと聞かされていませんか?」

「いいじゃない。どうせ貴方、大罪竜の超克に関わったんでしょう?もうとっくに、引き返せない世界の暗部にいるもの」


 ナインはせせら笑い、ファイブもゼロもそれを咎めなかった。抗議しようとしたが、反論も出来なかった。エクスタインは観念するように、椅子に座った。


「歴代の方舟の管理者である【天賢】の使い手、彼らを引き継ぎ、失わせない事が【真人計画】の目的の一つ。マスターはその管理担当者です」

「……つまり、シズクがスーア様を利用したと?」

「この世界の敵対者にとって、スーアは最も避けなければならない災厄に等しい。だが、もしもスーアが授かった幾つもの精霊の加護を突破する手立てを用意できたなら、“それは強烈な隠れ蓑となる”」


 それを言われると、確かに反論しがたい。当のエクスタインすらも、今回の調査の前提に、その事実が頭にあった。スーア様を前に偽るなどと、困難であるという前提で調査を進めていた。

 「スーア様はシズクを黒とは言わなかった」という色眼鏡。

 それはもうどうしようも無く抗えない、イスラリアという大地に根付いた常識で、信仰から生まれてくるものだった。この思考が調査の手を緩めたのではないかと言われれば、否定できない。少なくとも、目の前の脅威、世界滅亡に対する対策と比べれば、確実に優先度は落ちただろう。


「ですが、そうはいっても無数の精霊による洞察をどんな手立てでくぐり抜け―――」


 そう、エクスタインは反論を言いかけて、言葉を止めた。

 頭に過ったのは、一つの突拍子もない閃き。そして、最悪の可能性。


……!?」


 彼女が使うという竜への特攻術式。竜の動きをほんの僅かに押しとどめることが出来るというその力が、能力の一端でしか無かったとしたら?

 そしてそれが精霊にも利用できたならば???


 真っ当ならざる道を進み、相応の経験を重ねた結果得た知識と理解、奇妙な経緯を経て、エクスタインは友であるウルと同様の真実に思い至った。


 精霊と竜は同一である。


 そして、それならば―――



              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 魔界


 Jー00中枢ドーム


 最深層


 真っ白な、巨大神殿。幾つもの柱が天井を支え、天井には幾多の精霊が、まるで生きているかのような活き活きとした姿で刻み込まれていた。床面も柱もなにもかも、汚れ一つ、埃一つついていない。

 壮麗という言葉がしっくりとくる。

 穢れがなさ過ぎて、自分が異物に思えてくるほどに、そこは美しい場所だった。現実感のないその場所は、しかしウルには既視感があった。


「神殿……?」


 その場の何処までも澄み切った空気と、痛いくらいに重く感じる魔力。施された無数の精霊達の意匠。この場所は間違いなく、イスラリアに存在する神殿そのものだ。


「そりゃそうだ。此処がオリジナルだからな」


 それに、ブラックは笑って答える。

 神殿の中央に我が物顔で立つ彼だけは、唯一この神聖さを損なうくらいには禍々しかった。真っ黒な服に跳ね返った血は、彼のものではないのだろう。


「よう、ウル坊。グレンも一緒か。上々だ」

「うっせえよ。不良ジジイ」


 グレンの悪態に対してもブラックは上機嫌だった。彼が上機嫌である時、嫌な予感しかしないのはウルだけではないだろう。念のため竜牙槍をウルは引き抜いていた。

 だが、それよりも早く動いた者達が居た。


「構えろ!!」


 魔界の兵士達だ。

 彼らは魔導銃を構えると一斉にブラックを取り囲む。考えてみればウル達にとって彼は知り合いだが、彼らにとってすれば侵入者で、この中枢ドームを破壊した推定犯人である。そうしない理由はなかった。


「おいおい、なんで兵隊まで連れてくるんだよ」

「お前が荒っぽいことした所為だよ」

「めんどくせえんだもん。ジースターだけなら兎も角、イスラリアの最高戦力全員此処に招き入れるなんて許可、でるわけがねえんだよ」


 だったら、大穴空けて道広くしたほうがいいだろ?とブラックは笑った。

 それが、中枢ドームを破壊され尽くした魔界の兵士達の限界点となったのだろう。


「撃て!」


 という鋭い指示と共に、魔導銃光が、ブラックを貫こうとする。だがそれらの魔光はウルすらも貫くことの叶わなかった光熱にすぎない。当然、ブラックにそれが通用する筈もなかった。

 避ける動作すらも、ブラックは取ることはなかった。やや退屈そうに額を掻くと、手を振るう。彼の足下の影から黒い闇が蠢く。それは一瞬彼の足下で揺らいでいたかと思うと、次の瞬間に彼を中心にして周囲に拡散した。


「ひっ」


 闇が、兵士達の周囲を這い回り、彼らに纏わり付く。その闇が対象を捉えればその瞬間、彼らの身体はその鎧ごと闇に喰われて、跡形もなくなってしまう。

 故に、ウルは動いた。同時に、背後から別の影も動いた。


「【揺蕩え】」

「【魔断】」


 ウルが色欲の力によって闇を弾くと同時に、別の場所から飛び出したディズが動いていた。兵士を襲おうとした闇は弾き飛ばされる。ブラックは少し意外そうにウルを見た。


「あれ-?お人好しの勇者はともかくウル?お前もそっちにつくの?」

「どっちにつくかは兎も角、それをお前に決められたくはねーよ」


 ブラックは舌打ちした。やはり今のはそれが狙いだったらしい。油断も隙もあったものではなかった。


「ウル。無事かな?」

《にーたん!》


 そして、ディズ達との合流もなった。飛び込んで来るアカネを受け止める。ディズもアカネも無事であり、そしてその背後には、アルノルド王とスーアも居た。

 その光景を確認し、ブラックは満足そうに笑う。


「全員が揃うまで18時間30分ほど時間かかりました。次はもう少し頑張りましょう」

「ブラック」


 尚も巫山戯た態度を変えないブラックの前に、アルノルド王が一歩近付く。彼が片手を一振りすると、魔界の兵士達に天陽結界は張られ、彼らの身を守った。戸惑う兵士達を一瞥もせず、彼は問うた。


「邪神の制御装置は何処だ、ブラック」


 ブラックは肩を竦め、そのまま竜化した銃を向ける。それも悪辣な事に、一緒にやってきた無力な兵士達へと向けて、アルノルド王へと笑いかけた。


「落ち着けよ。まずはこの場の全員がちゃんと状況を理解する必要がある。それがフェアってもんだろ?」

「……」


 そう言って、その場から少し後ろに下がって、全員を見渡せる位置に彼は立った。両腕を広げ、謳うようにして彼は語り始める。


「さて、そんじゃ復習といこうか?まずは、ウル、イスラリアと魔界、その争いの根幹は理解できたか?」


 突然、質問を投げつけられる。まだ彼の態度は巫山戯たままだ。無視してやろうかとも思ったが、しかしここに来るまでに与えられた大量の情報の整理は必要だった。


「魔力……いや、それを生み出す“発生源”の奪い合い?」

「正解」


 魔王はまるで教師のような口調で頷いた。


「魔素を生み出す奇跡の流星、【星石】と【魔素】の発見後、人類はひたすらにそれを求めて争いあった。当時の人類が抱えていた多くの問題を解決しうる、まさに魔法の石とでも思ったんだろうさ」


 ソレさえ在れば何もかも上手くいくなら、この世界はここまでグダグダになっちゃい無い筈なんだがな?と、魔王は実に下らなそうに嘲う。


「で、その争いの果て、勝者となったのはこの“奇跡の石”の力を開拓した“イスラリア博士”だった。彼がこの戦争で使った、人類を恐怖のどん底に貶めた兵器は何か。はい、仁くんもしくはジースターくん」

「神と精霊。創られた、超兵器」

「イエース」 


 ブラックの足下で、彼が生み出す闇が揺らめいて形を取り始めた。ヒトの形を成す影が、大きな球体、力の象徴を前に崇めるように平伏している姿が生み出された。


「その神の力を使って、“イスラリア博士”は、魔素の発生源、星石を回収し、【方舟イスラリア】を創り出して、世界から逃げ出した。勝ち逃げだな」


 黒い球体に、影の勢力達が吸い込まれる。そして黒い球体は高く浮かび上がり、地面から遠く離れた。残された少数の黒い影達は、それを見上げるばかりで、最早争う事はしなかった。


「結果として救いの糸を自ら断ち切って、残された人類に争う力は残されておらず、消極的に世界は平和になりましたとさ…………ところが別の問題が起こる」

「……邪神の涙」

「そうだな。勉強してるじゃないかウル君?」


 高く浮かび上がった黒い影は、どろりとしたなにかを垂れ流し始める。それは、ウルが魔界の空で確認した黒球と、そこから流れ出る呪泥の光景とそっくりだった。


「長引いた泥沼の戦争、その因果が返るように、予期せぬ不具合が発生した。当人らは望みもしていない星舟から世界への干渉が、戦争続行のゴングを鳴らした。しかも、世界が分断された後な所為で、直接的な殴り合いを封じられた、酷くまどろっこしい争いだ」


 イスラリア側は戦争を早期に終結させようとしたんだろうが、それがむしろ戦いを長引かせるなんて皮肉だねえ。と、魔王は哀れっぽく語る。


「モチロン自分達の世界をゴミ捨て場にされるわけにもいかない。世界側も死にものぐるいになったわけだ。なりふりも構わなくなった。そこで使われたのは何でしょう。はい、アルノルドくん」

「イスラリア博士が創り出したもう一柱。廃棄された【神】の再生と再利用」

「はーい、大正解」


 魔王が地面を脚でならす。再び、彼の創り出した闇の形は変わる。


「壊れかけていた邪神を、この世界の住民達は残された魔力資源を使って再生させた。そして、【涙】をたどることで侵入し、方舟に無数の迷宮を創り出した。イスラリアから魔力を掠め取り、新たな兵士を送り込むための回廊、【迷宮】を創り出すためにな」


 一方は涙によって淀み、汚れた大地の上で苦しむ人々。

 一方は空の上で、無数の怪物の形を模した影に襲われ、苦しむ人々。

 二つの世界の、二つの地獄が暴かれた。


「こうして、ようやく世界は今の形になったわけだ――今の、ほんとうにどうしようもない状態にな――さて、そこで更に問題を一つ」

「ブラック」

「待てよ、アル、コレが重要なんだぜ」


 手で制止し、そしてウルに向かって、ブラックは首を傾げた。


「【神】ってなんだろうな?」

「なにって……」

「これまでずっと、【神】は中心の一つだ。なのにここまで、影も形も見えないじゃ無いか。神って何だ?どういう代物だ?分かるか?ウル」


 分かるわけがない。と、言いたかったが、ウルはそう否定しようとして、言葉が詰まった。訳が分からないという混乱故ではない。ここまで与えられてきた情報が組み上がって、輪郭を帯びてきたのだ。

 精霊と竜は、神の端末。ならばその頂点に在るのは―――


「【権、能】……?」

「正解だなぁ?」


 ウルが絞り出した答えを肯定し、新たに部屋にやってきたのはグレーレだった。彼は周囲の環境を観察するように眺めながら、ハッキリと断言した。


「分割された、【七つの権能】。それこそが神の正体だ」

「おいおい、俺はウルに問うたんだが?天魔」


 グレーレがそう告げた瞬間、アルノルド王が動いた。自身の背後から巨神を創り出し、魔王にたたき込む。それを魔王は台無しの闇によって防ぐ。激しい激突に、魔界の兵士達は驚きの声を上げる。


「――――……!!」

「答えられちまったから言うが、その通り。神には実体はない。それは魔力体だ。超絶天才イスラリア博士の最高傑作。しかし、だからこそ、肉の檻に閉じ込められていた人類には、“制御装置が必要だった”」


 そして、と、ブラックは指を鳴らす。神殿内を満たす静謐かつ、膨大な量の魔力が蠢きだす。その魔力は場を蠢き、渦巻いて、そしてその後一気に流れ出した。ブラックの立つ“足下へと”。


「たらふくにイスラリアの魔力を喰らった七つの権能、“七つの大罪竜の魂がここに揃った”」


 彼の立っていた場所が二つに分かれる。開いた穴へと魔力が流れ込み始めた。ブラックはそこから退くと、流れ込んでいく魔力の先にあるものへと目を細める。


「【制御装置】を破壊しろ!」


 アルノルド王が前へと出て、叫んだ。同時にスーアが動く。激しい光を放ちながら前進するが、その光を阻むようにブラックの闇がぶつかり、相殺する。残るは未だ状況が掴めず混乱の中にいた。


「制御装置!?」

「邪神の制御装置だ!!それを破壊することでイスラリアへの干渉を断ち、双方の世界を完全に隔絶する!双方を切り離す!!」


 ここまでの説明で、アルノルド王の言っていることはなんとなし、理解できた。

 だが、制御装置、とは――――?


「もっと具体的に言ってやれよ」


 先程の嘲笑入り交じる声ではない。腹が立つくらいに優しい声音で、その事実を告げた。


「神の依り代となるもの――――こっちの世界のもう一本の【】」

「星――」

「それを破壊しろってさ。それとももっとハッキリ言ってやろうか?流石にここまで来れば察してるだろ?」


 それ自体は吹いていない筈なのに、ウルは吸い込まれるような感覚にとらわれた。それでも必死に前を見る。


使、だ。」


 そして、ウルは見た。

 無尽の魔力の渦の中心に浮かぶ、銀の少女を。


「シズク」

「――――おはようございます。ウル様」


 シズクは、朝、目を覚ましたときに見せる笑みと同じ調子で、微笑みを浮かべていた。

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