第15話 試験 称号

場所は校庭。時刻は午後2時。太陽は雲に覆われ見えなくなっていた。


「では、これより試験を始めます。」


校庭にスミソリアの凛とした声が響く。


「ルールは私は回避行動のみ。攻撃は無し。あなた達が一撃でも私に当てたら合格。使用武器は木刀など殺傷能力が低いもの。制限時刻は午後4時。審判は・・・ゴイルッ!食べてるだけじゃなく、ちゃんと審判もするように!」


慌てて口に食べ物を突っ込むゴイル。


「も、もふぃろんだ。あふぁりまえじゃないか。」


弁明しようとするがその場にいた全員から冷たい目を向けられた。


ゴクンッ


「そ、それじゃ試験開始!」


そして、急に試験を開始した。最も本来の開始時刻から5分遅れているのだが…。


「矢木さん。九沢くん。スミソリアさんを囲むように散回して!」


この場でのリーダーはクリスさんになったらしい。散開するクリス・矢木・九沢の手にはそれぞれの武器が握られている。クリスの手には木剣が、矢木さんの手には木槍が、九沢の手には木刀がそれぞれ握られている。これらは全てスミソリアが用意したもので数あるものから各自用意したものだ。クリスが木剣を選んだ理由は一番シンプルだから。矢木が木槍を選んだ理由は授業でやり投げを最近行ったから。九沢が木刀を選んだ理由は・・・木刀を扱ってみたかったから。どちらにしろ全員ロクに武器も扱えない。なので、リーダーの判断能力と運でほぼ勝負が決まる。


「全員、攻撃!」


3人は走り出し武器を振るう、もしくは突き出したがスミソリアは


「(遅い。おまけに全員でかかってきても攻撃のタイミングがバラバラ。これじゃ避けることも出来る。)この程度?私はまだ最初の場所から動いてもいないわよ。」


体をそらし攻撃を全て交わした。


「クッ。全員一度離れて九沢くんは矢木さんと組んで攻撃して!矢木さんは九沢くんのフォロー!私は、二人のフォローしながら攻撃する!」


そう言って木剣を振り上げ上段から斬りかかるクリス。


「遅い!ハッ!」


躱した所に九沢が木刀を水平に振る。それを跳躍し躱したところで矢木の木槍が突き出されるも届かない。


「2人共その調子で攻撃して行くわよ。」


クリスの声に2人は


「「了解!」」


と返した。ちなみに戦闘中はできるだけスキを作らないよう返事は”了解”や”ok”で返すことに決めたそうだ。


「(スピードが遅いけどあの調子ならゴブリン1体程度は行けるかも。)後1時間45分よ。」


スミソリアは精霊に時間を教えてもらいそれを伝える。


「(スミソリアさんは攻撃してこない。なら)2人共集まって。」


クリスは作戦を考えそれを伝えるようだ。


「ふぅ。集まっていいの?」


矢木さんが聞く。


「ええ。スミソリアさんは攻撃してこないはずだから。それより作戦よ。いい・・・・・・・・・・・・・・・・・。これでいいかしら?」


「うん。行けると思う。」


「俺も行けると思う。」


2人の返事を聞きクリスは


「じゃあ、作戦開始。散開して!」


と指示した。


「(さて、向こうも準備が整ったようね。そろそろ同士討ちを狙って行こうかしら、それとも疲れ果てさせる?・・・これはあくまであの3人がミズルについていけるかの試験。なら、体力も試したほうがいいわね。)さて、どうするのかしら?」


そう呟いたときクリスは木剣を持ち体を低くして突進してきた。


「プランAよ!」


と指示して突っ込んでいく。


(遅いし無謀。今私は攻撃しては駄目だけどこの調子だと近づいたときに首をスパンってやられるわね。)


と思いまた体をひねるだけで躱そうとするが


「エイッ!」


と気合を入れてクリスはスミソリアの前で止まり、突進で着いたスピードを体ごと木剣を回すことで最大限にスピードを上げた木剣を当てようとした。


(そのための突進ね。私が攻撃できないからこんな事ができる。・・・なら)


しかし、スミソリアはまたもや高く跳躍する。その高さは人の2倍。およそ3Mはある。


だが、


「ヤッ!」


と、矢木が跳躍中のスミソリアに対し槍を投げつける。実は女子の中で最もやり投げで正確に的を打ち抜けたのは矢木なのだ。


これにはスミソリアも驚き体を捻って躱すがそのせいでバランスが崩れてしまった。


(しまった!)


その着地地点にはクリスと九沢がいる。両方とも武器を振りかぶりいつでも叩き込めるようにする。


(精霊魔法も使えないし・・・一か八か攻撃のとき武器を足場に飛ぶしかないわね。)


そう考えクリスと九沢が攻撃してきた瞬間、足を精一杯高く上げ九沢の木刀の柄の部分に当て、また跳躍する。


「アッ!」


「しまった!」


2人の声を聞きながらスミソリアは


「(今のはかなり危なかったわね。けど、もう攻撃はできないから体制を整えて)”ドンッ”えっ!」


跳躍しながらも考えていたスミソリアにどこからか攻撃が届く。


「えっ、ちょっ、【風の精霊・シルフよ。風防壁ウィンドバリア】」


慌てて精霊魔法を使ってしまったスミソリア。そこにピーッとゴイルが笛を鳴らす。


「このしゅげん。もぐもぎゅ。んくぅ。この試験。クリスたちの勝ち!」


・・・どうやら、また何か食べてたみたいだ。


ゴイルの宣言を聞き3人は駆け寄り”やったぁ”とハイタッチをする。その傍らには4本の武器があった。


「・・・そういうことね。」


そう呟いてからスミソリアは立ち上がり3人の方に向かった。


「おめでとう。試験は合格よ。それにしても」


喜びを隠しきれない3人の傍らにある武器の一本を手に取る。


「まさか、長槍と短槍の2本を持っていたとはね。」


そう。矢木さんは基本は長槍で攻撃し長槍を失ったとき用に短槍を体に隠していたのだ。


「ええ。当たるかどうか不安でしたけど。」


イカサマのようなことをしてしまったと思ったのか少し恥ずかしそうにしながら応える矢木。それを見たスミソリアは


「(ぶっつけ本番で成功させたのかしら?この国では子供に本格的な戦闘技術は学ばせないところが多いって前にミズルに聞いたし。)さて、試験は合格。ステータスオープンと唱えてみて。」


戸惑いながらも3人はステータスオープンと唱える。するとそれぞれの目の前に液晶が表示されそこにステータスが書いてあった。












クリス・テンペスト




レベル2




種族:人間




体力:13/25




攻撃力:27




魔力:15




魔法力:不明




素早さ:22




スキル:無し




特技:フランス語




称号:指揮官 言語の壁










矢木美鈴




レベル2




種族:人間




体力:12/29




攻撃力:28




魔力:13




魔法力:不明




素早さ:25




スキル:無し




特技:やり投げ




称号:命中少女










九沢烽火




レベル2




種族:人間




体力:22/30




攻撃力:32




魔力:8




魔法力:不明




素早さ:28




スキル:無し




特技:無し




称号:無し






「「「え!なにこれ!?」」」


3人は自分のステータスに驚いたようだ。


「ふふふ。私と戦ったことでレベルが1から2に上がったのよ。そのおかげでステータスが見れるようになったの。3人共左上に*マークがあるでしょ。それ、押すと設定ができるから。質問はある?」


スミソリアは3人の様子を見て昔のことを思い出しながら聞いた。


「あの、魔法力が不明となっているんですけど?」


「私も。」


「俺も。」


「それはね、最初の訓練で判明するからよ。最初の訓練で魔力をどう扱えるかで分かるの。それは明日やるわね。他には?」


「称号ってなんですか?私は命中少女になってるんですけど。」


「俺、書いてない。」


「私は指揮官と言語の壁があります。」


「え〜とね、称号は今までの経験から得ることができたものでパッシブスキル?常時発動の効果があるのよ。称号のところをタップしてみて。」


クリスと矢木は言われたとうりにする。


「あ、命中少女の横に”何かを投げる際命中率が20%上がる”と出ました。」


「私は指揮官の隣に”パーティーを組んだ際にリーダー役だとパーティーの攻撃力が10%上がる”と言語の壁の隣に”他の言語を覚えるときに補正が働く5%から15%”と書いてあります。」


「・・・俺はないや。」


「はは。称号は普段しないことをしたときにつくからね。うん。なかなかいい称号ね。後、人の称号を見ることがあったら気をつけてね。特に人殺しとか盗賊という称号ね。それらは盗賊や襲ってきた人以外の人を殺したり人を傷つけて物を取って発生する称号。それだけは全員共通で、一生消えることはない。それがあるから、悪い人とは限らないけど気をつけたほうがいいわ。」

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