第13話 アリスの恋心

「・・・皆はここに残って生徒の防衛をおねがい。外に出れないのはアリスたちだけで、魔物ははいってこれるからね。」


僕は無理やり明るい声でそう言い放った。


「ミズル。それはどういうことだ?私にはミズルが一人で魔王を討伐しに行くというふうに聞こえるのだが。」


スミソリアが厳しい目つきになって僕に問う。


「・・・正解だよ。まぁ、僕だけじゃなくてガーネやコスモと一緒だけどね。」


「無茶だ!あのときもガーネやコスモ、アスクも居て、私達も居てようやく魔王と渡り合えたんだぞ!それを一人だなんて!」


スミソリアは興奮すると精霊の制御ができなくなる。なので、今彼女の使役する精霊が少し興奮している。


「じゃあ、どうするの?このまま魔王をのさばらせておく?いつでも僕達を殺せる状態で?それに、このあたりに強い魔物が居ないとも限らない。これから強くなるかもしれない。そして、ケインはどうなるの?僕だって老化を防ぐことなんてできない。このまま、意識がない状態で老化させる?それに、魔素を抑えるにふさわしい魔石もそんなにあるわけじゃない。ね、僕だけが行けるんだよ。僕が行くしかないんだよ。」


現在の状況を直接伝えると、スミソリアは唇から血が出るほどに噛み締め


「分かっているんだ。私達が無力だって言うことが。・・・ああ、私達がこの世界に来なければ良かったのにな。」


と、どこか諦めたように言った。その言葉にアリスやゴイルも顔を伏せてしまった。その時、アリスの顔から透明な液体がこぼれ出た。


「アリス・・・。」


僕が声をかけるとアリスは、


「す、すみません。少しこの場を離れさせてもらいますわ。ミズル様、この世界の皆様、私のわがままによってこんな事になってしまい申し訳ありません。では。」


そう言い残して、走り去ってしまった。


「亀谷くん。アリスさんを追いかけなくていいの?」


クリスさんがそう尋ねてきた。けど、


「・・・いや、今は僕がいかないほうがいい。」


あの感じは、


「どうして!亀谷くんならとっくにアリスさんの気持ちが「分かってるよ。」なら、どうして!」


「・・・今のアリスの態度は、昔の僕を嫌っていた頃と同じだからね。・・・スミソリア。悪いけどアリスに付き添っていてもらえる?」


「・・・わかったわ。ですが、後でちゃんと話し合ってくださいね。」


「うん。ありがとう。」


そう言い残してスミソリアも去っていった。


「・・・亀谷くん。アリスさんが亀谷くんのことを嫌っていたって、どういうこと?」


矢木さんから尋ねられた。見ると、この場にいるすべての人が耳を傾けている。


「ん〜〜そのままの意味だよ。って言っても全員詳しく知りたいようだね。・・・アリスもまだ時間がかかるだろうし、僕が召喚されたときのことを話すよ。少し長くなるよ。」


そう言って、語り始めた。僕が召喚されたときのことを。


























『僕は、夜10時頃、家で数学の宿題をし終えて本を読んでいたんだ。その時、突然自分を中心として青白い輪が出てきてね。すぐそこから出ようとしたけど動けなかった。そして、気がついたら異世界・クリストラ王国に召喚されてた。そしたら、目の前に王様と第一王女が居てね、聞いたことのない声で話しかけてきたんだ。しばらく話しかけてきたけど、言葉が通じないと分かったのか、メイドみたいな人に部屋に連れて行かれたんだ。え、言葉はどうやって習得したのかって?それがね、その召喚された日の夜。ベットで寝てたら、夢の中に女神・アイトライアー様が居たんだ。彼女はこう言ったよ。「はじめまして。カメタニミズル。これから、あなたはこの国で勇者の魔王討伐の手伝いをしてもらいます。あなたには、自分のスキルや魔法を選んでもらいますが、まず女神としての命令です。私のことは、アイ姉ちゃんかアイちゃんかア・イッて呼びなさい」とね。ん、何、矢木さん。なんで選択肢にアイ姉ちゃんがあるのかって?それはね女神はずっと一人で話すことができる人なんて居ないに等しかったらしいんだ。その状況で、話すことができるものが現れた。おまけに自分より年下でおじいさんやおばあさんのような賢者とよばれるものでもない。そして見知らぬ土地で困っている。これは自分がなんとかしなきゃ。ッと思ったらしく、庇護欲が掻き立てられ、アイ姉ちゃんが入ったらしいよ。え〜と、今挙手してるのは先輩ですね。なんですか?・・・メイドは胸が大きかったかって?はぁ。・・・【雷撃・弱】。はいっ。他にちゃんとした質問のある人は?いませんね。じゃあ、戻ります。そして、そこでまず職業を選んで、次に初期スキル。その後に魔法の属性や、召喚特典の説明。そして、魔王を倒したら元の世界に戻すということを説明されて、夢が終わり、目が覚めたんだ。はい、そこのジャージの人。初期スキルとは?初期スキルは名称の通り一番最初に選べるスキルのこと。なぜなら、その後にも他の人に学んだり、職業の設定によってレベルが上がるにつれ、覚えたり進化するスキルもあるから。ちなみにそういうスキルは後天的スキルっていうよ。はいっ。そこの少し焦げた先輩。女神は胸が大きかったのかって?・・・【雷撃・中】【拘束】。よし、話に戻ろう。その後、召喚特典の一つ、異国語理解によって話すことができ、僕がよばれた理由が詳しく説明されたんだけど、簡潔にまとめると魔王討伐の手伝いをして欲しいだった。僕も倒さないと此処に戻ることができなかったから倒すしかなかった。そして、王様の家族を紹介されたんだけど、その中にアリスがいたというわけ。アリスは、僕がアリスを婚約者として望むように誘惑するように王様に命じられて、けど、アリス本人はそんなことしたくなかった。だから、そんなこと僕への誘惑の原因となった僕を嫌っていたというわけ。ん、九沢くんどうかしたの?なら、どうして、アリスは僕のことが好きになったのかって?う〜ん。僕自身も良くわからないんだけど、多分きっかけとなったのはレベル上げのため、軍の人とアリスと魔物の討伐に行ったときのことかな。あのとき、僕はCランクの魔物を相手にしていて、アリスはその後ろにいたんだ。本人は来たくなかったみたいなんだけど、王様の命令によって仕方なかったらしい。軍の人は一応僕とアリスの護衛だったんだけど、完全に気を抜いていてね、居眠りしていたんだよ。そんなとき、A−の魔物が急に現れてね、先ず護衛が食べられた。その時の叫び声によって気づけたけど、完全に気配が消されていた。そして、その次に狙われたのが、一番近かったアリスだった。アリスは魔物の視線に腰が抜けてしまってね、危うく食べられる瞬間、僕が間に入り込めたんだ。正直言ってその時の僕ではかなりの格上。軍の人が20人いないと倒せないような相手だった。だから、僕も足止めはできても少しの間。僕自身は殺されてもアリスは助けないとって思って、アリスに言ったんだ。「周りの警備をしている護衛の人を呼んできて!」って。けど、アリスは腰が抜けている上に僕が嫌いだから、当然その言葉なんて聞きたくない。睨んできたよ。けど、こっちも限界だったから、つい、「早く行って!僕が嫌いなのは分かるけど、こんな状況でそんなこと言える場合!死にたくなかったらさっさと行く!」って怒鳴ってしまったんだね。それで、注意がそれてしまったのか、胸のあたりに攻撃食らっちゃって、血が当たりに飛び散ったんだよ。それがアリスにも付いて、ようやく動けるようになったのか、護衛の人を呼びに行ったんだよ。その後は、魔物の相手をしてたんだけど、気がついたら王城の医務室で、寝てたんだよ。横にはアリスが涙を流して寝ていてね。医務官の話によると生きているのが不思議なほどの怪我だったらしく、襲われた日から8日が経っていたらしい。アリスはその間、食事とトイレ以外はつきっきりで看病をしてくれていたらしい。その後から、アリスが僕に嫌悪感を向けることがなくなって、魔王討伐にも付いてきて、今に至るというわけ。』


僕は長い間話したせいで、乾いた喉を潤すため空間倉庫からオレンジ・ペコを出し、飲んだ。


「・・・・・それで、亀谷くんはアリスさんのことをどう思っているの?」


クリスさんが恐る恐るといった感じで聞いてきた。


「うん。僕はねアリスのことを恋愛対象じゃなくて妹みたいなものでしか見れないんだ。」


その言葉に男子・女子は驚愕し、クリスさんは肩を下ろした。なんでだ?


「それに、僕は恋というものがわからないんだよね。」


その言葉に、全員が凍りついた。


「えっと、え、なんで?」


九沢くんが聞いてきた。


「う〜ん。前までは友情と言ったものもわからなかったんだ。けど、今は九沢くんや矢木さん。クリスさんのおかげで分かるようになったけど、恋心も同じようにまだ、分かる人と出会ってないからなのか、それとも、僕自身が恋に興味がないのか?その2つだと思っているんだけど。ごめん詳しくはわからないや。」


すると、今度はクリスさんが聞いてきた。


「なんで、恋に興味がないの?」


「えっと、元々、親が結婚に失敗してるっていうのもあるし、前にどこかの本でも読んだんだけど、恋って実は自分にないところを欲しくて恋心って言うものを起こしてるらしいって。だからかな。」


その時、誰かのお腹がなった。その方向を見るとゴイルだった。・・・寝ているゴイルがいた。


「ふがっ!んんん〜〜〜話は終わったのか?今何時だ?腹が減ったな。」


こんな空気の中通常運転のゴイルに僕は笑みがこぼれ、


「そうだね。皆も長い話に付き合わせてごめんね。すぐお昼にするよ!」


お昼という言葉に生徒の中からもお腹が鳴る音が聞こえ、次第にざわざわと騒がしくなっていった。


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