第2話 女神との邂逅 再:世界の現状

白い光に包まれて、次に目を開けたときには、みんなのいる霧のかかった校舎ではなく、どこまでも白い空間だった。普通なら驚くだろうが、僕は驚かなかった。なぜなら、ここに来るのは2回めだからだ。




「出てきてください!女神.アイトライアー様。」


そう僕が呼びかけると、目の前の空間が歪み、どんな女性や男性も夢中になるような美女が現れた。


・・・しかめっ面で。




「もう、私のことはアイ姉ちゃんか、アイちゃんか、ア・イって読んでって言ったでしょ。たった数日で忘れたの?」




またこの調子か。正直疲れる。やっぱ夢じゃなかったんだな。




「はぁあああ。アイちゃん。なんですか。ついさっきまで僕、異世界の魔物のブラックフェンリルに殺されそうだったんですよ。」




「そうね。だから、この場所に呼んだの。」




「どういうことですか。前にこの場所に呼ばれたのは、魔王を倒した直後に、神にならないかと持ちかけられたとこですよね。またそんな話ですか?」


そう、魔王を倒して呼ばれたときに、『別の場所から、召喚されて、正直でここまで強いのは初めてよ。貴方神にならない?神になったら、何でもできるのよ。』と、勧誘されたのだ。そして・・・




「いいえ、あのとき貴方が拒否したのに、何度も言ったから、全能神に怒られたわ。だから、もうその要求はなし。今から話すことは、貴方の故郷の世界。地球で起こっていることについてよ。」




やっぱりか。あの状況で呼ぶとなったら、そのことくらいだもんな。


「それで、どうして、地球にフェンリルが?他の生徒は?みんなは無事なんですか?」




「少し待ってね。この資料に全て書いてあるから。え〜と。」


そう言いながら手元の資料をペラペラめくっている。


「あ、あった。まず最初の質問。なぜ、フェンリルが地球にいるか。答えは、フェンリルだけじゃあなく、他の魔物も、世界中に現れているの。」




衝撃的だった。気を失わなかったのを褒めてやりたいくらいだ。


「え、ということは・・・世界中の人は死んでるんですか。」


別に世界の人が死のうが、胸が重くなるくらいでどうでもいいが、知り合いが死ぬのはゴメンだった。




「いいえ。これらの魔物を殺すと、あなたが召喚された世界のように、魔物を殺せば、スキルも選別されるし、レベルも上がる。ステータスも見れるようになるのよ。」




あなたが召喚された世界のようにだって....。


「ふざけないでください!あそことは違い予備知識が全くないんです。それに、今の現代人が、襲ってくる魔物を殺せると思いますか!ただのクマくらいで、騒ぐような人たちですよ!無理でしょ...。」




「し〜ぃ。人間の可能性を信じてあげて。すでに、たくさんの魔物が殺されているわ。」


僕は、唇を女神の抜けるような白い指先によって塞がれながら言われた。




「・・・どういうことですか。魔物を殺せるような人はこの世界に「ねえ、あなたの世界に戦っている人はいるでしょう。」ええ、まぁ。警察官や、武闘家。傭兵や戦争に参加している人々が。ッ。まさか!」




「ええ、そのまさかよ。彼ら彼女らは、民間人を守るために、家族を守るために、大切な人を守るために、戦っているわ。まもなく、レベルが30に届く人もいるわよ。」




・・・そんな人がこの世界にまだいたなんて。


「この世界も、まだ、腐りきっていなかったようですね。」




女神は優しくほほえみながら


「ええ、組織も腐っているのは上のほうだけで、下は腐っていないわ。だから安心しなさい。」




「ありがとうございます。それとさっきは取り乱してすみませんでした。」


僕は頭を下げながら謝った。




「いいのよ。慌てるのは当然だもの。さて2つ目、3つ目の質問の答え。あなたの本当のクラスの子は今の所、全員無事よ。」




良かった。・・・ん?”今の所”?”本当の”?


「アイちゃん。今の所って?本当って?」




「ん、ああ。地球では、今時間が動いてないけど、あなたをこっちに呼び出したときから38秒後にブラックフェンリルが彼らを襲うの。」




そんな!!


「はやく行かないと。」




「落ち着きなさいって。時間は止まっているのよ。後、本当のというのは、委員長の子たちがいたでしょ。」




ああ、先に行った彼らか。


「あの子達ね、本当は数年前に死んでるの。」




「え。っていうことは。彼らは。」




「ええ、魔族よ。あの学校にいきなりブラックといえどもフェンリルが現れた原因。私は人の世についてよく知らないけど、戸籍謄本をいじったりしたみたいよ。」




魔族なら、そんな事は簡単だろうな。


「あいつらは何を企んでいるんですか。」




「さぁ?私が知るわけ無いでしょ。あんな、殺戮の種族なんて。」




そう、魔族は殺戮の種族。これまで、歴史上に一体も人を殺戮しなかったことはない。なぜなら、魔族とは魔物が進化した末の最後の種族だからだ。例えば、フェンリルで例を上げてみよう。フェンリルは、元々コユールという魔物がいてそこから、ハイコユーテ→キングコユーテ→フェンリル→レージングフェンリル→ドローミフェンリル→ホワイトフェンリル(ブラックフェンリル)→ゴールデンホワイトフェンリル(ファントムフェンリル)となっていく。ドローミフェンリルの後、瘴気を浴びるか浴びないかによってホワイトかブラックの道に分かれるかとなる。そしてゴールデンホワイトフェンリルなら良い。それは聖獣として崇められているからだ。しかし、ファントムフェンリルから先にはまだ進化先があり、その先が魔族”ヴァスズ”だ。そうなるには、コカトリス、鷲、サソリ、人の生きた身体が一度に食べられないと誕生しない魔族だ。そうなるには他のものの手が必要となる。実は魔族を生み出すには必ず生きている人間を食べさせないと誕生しない。そのため魔族には、その人間の食い殺されたときの怯え、恐怖、怒りなどの負の感情しか持ち合わせないと言われる。


そんな種族がなぜ・・・?




「アイちゃん。いや、女神様。僕にみんなを、世界を救う力を貸してください!」


僕はこれ以上ないほど精一杯になって頼んだ。その後の反応は...。




「女神として言います。その必要はありません。」




頭の中が真っ白になった。


「ど、どうしてですか。それならなんで僕はここに呼ばれたんですか!」




僕が騒いでも目の前の女神は微笑んでいた。


「もちろん、地球を救ってもらうためよ。」




余計訳がわからない。


「ならなぜ!?」




「それはね、あ・な・た・が・、・も・う・力・を・持・っ・て・い・る・か・ら・。」




「で、ですが。あのときの力はもうないはずじゃあ?」


そう、召喚されたときにそのように説明された。元の世界に戻ったら、この力はなくなるだろうと。




「本当はね。でも、あなたすごく頑張っていたし、ご褒美に良いかなぁって残しておいたの。ただ、連絡がない状態で魔法を使われるのは危ないから、魔力を使う部分は私と会わないと解除されないようになっているの。」




ということは


「今日、妙に早く着いたり、テストが簡単に解けたのは・・・」




「はい、間違いなくステータスの影響です。」


と、ニッコリと言われた。




ふぅ〜〜〜〜〜〜〜。


そういうわけか。


「じゃあ、僕はもう魔法や空間倉庫を使えるんですね。」


それなら勝算がある。




「ええ。それなら勝てるでしょ。」




「ええ。・・・中身消えてたりしませんよね。」


空間倉庫の中には愛刀や魔道具が詰まっている。僕は防具は軽くて薄いものだったのであまりないけど・・・。




「大丈夫よ。ちゃんと中身もあるわ。さぁ、行ってらっしゃい。あなたが戻った瞬間に時間が戻って襲われるからね。」




「はい。ありがとうございました。」


言っている途中から白い光が僕を中心に渦巻いていった。




「・・・大丈夫だとは思うけど死なないようにね。」




白い光が僕を包み込む


「はい。アイちゃんもお元気で。」


そして僕は元の世界に戻った。




「・・・あ、魔王も復活してること言い忘れた。」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




{ガウッ}


ブラックフェンリルが襲いかかってきた。僕はそれを認識しつつギリギリで避け、距離を取った。


「ふぅぅぅぅ。」




{{{{{ガウゥゥゥゥゥゥゥ}}}}}




1.2.3.4.5。5匹か。


【身体強化】


【永続効果】


【空間倉庫】


僕は異世界にいたときのように身体強化を掛け、永続的に効果が続くようにした後空間倉庫から一振りの刀を出した。


「・・・久しぶりだね。薄緑。」


僕は、魔王討伐の際は神聖効果のある神聖武器しか効果がないのでこの魔刀でも聖刀でもない薄緑を使わなかったのだ。なのでこの刀を使うのはかれこれ2ヶ月ぶりとなる。・・・本当はこれでも魔人くらいなら切れるのだが。




{{{{{ガウッ}}}}}


5匹が飛びかかってきた。


ドカッ。


一体を周りを巻き込むように蹴飛ばし、また距離を取る。


「時間もないし一気に行くか。」


【水刀 壱の技 水流】


薄緑に激しい水の渦がまとわりつく。


「はぁっ!!!」


激しい水流の軌跡がブラックフェンリルの首を刈り取りながら、床に、壁に、天井に、窓に描かれる。ブラックフェンリルは自身の死を認識することなくあの世に旅立っていった。




そんな中、落ちたスマートフォンから声がした。


『な、何あれ!黒い、い・ぬ?けど大きい。みんな、あの犬から離れよ!』


『大げさだなぁ。おーい犬っころ。撫でてやるぞ。』


『ギャウ!』


ブチッ。


『ギャーーーーー。お、俺の腕が、俺の腕がーーーーーーー!!!』


『みんなはやく逃げて!!』


『あ、い、色んな所から入ってきてる!!』


『イヤーーーー!!』


ブツッ。




「・・・急がないと。」


死んだのを認識した後、みんなを助けに行くため走り出す。


走りながら僕は思う。魔法や空間倉庫が使えてよかったと。水刀は刀に魔法をまとわりつかせる技で、威力を爆発的に上げる。あれでもBランクの魔物だ。この刀でも一気に5匹は、水刀などの魔法武器がないと難しいからだ。


「それなのに!」


みんなが生きていると良いが。


扉が見えた!!


「みんな!!!」


ガラッ!!


勢いよく扉を開けた先に見えたのは、教室の隅に集まって震えているみんなとそのみんなを包囲しているブラックフェンリル。そして教卓に紫のフェンリル。ファントムフェンリルが誰かの腕と思われるものをゆっくりと食べていた。




「か、亀谷くん。逃げて!!!!」


矢木さんが震えながらそういった。


「・・・ごめん。遅れた。」


もう我慢の限界だった。先に威力の確認をしたかったが、僕という邪魔者が現れたため、ブラックフェンリルはみんなを襲おうとしている。


{{{{{{{{ぎゃあああお!!!}}}}}}}


「イヤーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」




【マーキング】


【アイスレインシャワー】


先にみんなの周囲にいるブラックフェンリルにマーキングをし、次に氷の雨をマーキングの付いたブラックフェンリルに降らせた。途端にズタズタになったみんなを襲おうとしたブラックフェンリル。


「え。今のは・・・?」


{ギャウ?}


ぽかんとした顔になったみんなとファントムフェンリル。ブラックフェンリルは操られているのか驚いていない。


その隙にみんなの前に走り込んだ。


「大丈夫?みんな?」


大丈夫じゃないわけない。いきなりこんなものに襲われて、腕を失った子もいて、そんな中で大丈夫なわけない。


「亀谷くん。今の。亀谷くんがやったの?」


と矢木さん。


「まるで魔法みたいだけど。」


と九沢君。


「・・・あとで話す。あっちはもう我慢ができないみたいだし。」


振り向きながら、薄緑を構える。




{グウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥル}


ファントムフェンリルは、先程の衝撃から完全に抜けたようで、こちらを睨んでいる。駒ブラックフェンリルを殺されたのが悔しいのだろうか。




{ガウッ行け、お前ら}


ファントムフェンリルがそういった気がした。




{{{{{{{{{{ガウッ}}}}}}}}}}




合計10匹のブラックフェンリルが半円になって襲ってきた。




・・・こいつらは雑魚だ。


「一度に襲って来るなんて、考えなしだね。」


【ファイヤーウォール】


白い炎の壁がブラックフェンリルを一瞬にして灰にした。




{ギャウっ!!!}

驚いているファントムフェンリルだけになった。




薄緑を向けながら僕は薄く笑いながら言った。


「・・・・・魔族によって連れてこられたんだろうけど、九沢くんを、八木さんを、クリスさんを、みんなを襲おうとした事は許さない。」




{グルルル}




「八つ裂きにしてやる!」




「ヒッ!!!」


そういった直後後ろから空気が口から漏れる音を聞いた。




【水刀 伍の技】


薄緑に今度は深い色をした蒼い水がまとわりついた。




{ガアアアァッ!!!!}


【ヤマタノオロチ!!】


鋭い牙と僕の技がぶつかった。打ち勝ったのは・・・。




{ギャ、ギャウ。}


バタンとファントムフェンリルが倒れた。そして二度と起き上がることはなかった。


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