6章
王宮の森にて①
ガザの
「これまで
メリーがマルティナの
マルティナの
「ええ、とても……。私だけでなく院生達もねぎらってくださったの」
王に仕えることも、
そして、その何かこそが
クラウスはマルティナに多くのことを教わったと言ってくれたけれど、それよりもずっと大切なことをクラウスは教えてくれたような気がする。
「ねえ、メリー。私は職業
「はあ。もちろん私も嬉しいですけど……」
今更改めて告げるマルティナにメリーは首を
「クラウス様の……職業王妃になれて……良かった……」
心から実感した本心だった。
しみじみと言うマルティナは、今まで見た中で一番幸せそうな顔をしている。
「なんだか分かりませんが、私はマルティナ様が幸せなら嬉しいです」
メリーは
今までも職業王妃として、王のためなら何でもできる
そんな風に思える相手がいることの幸福を、マルティナは初めて知ったのだった。
*****
「こんなところにいらっしゃいましたか、陛下。お部屋に姿が見えないと
庭園のベンチで夜風にあたっていたクラウスのもとにマルティナが現れて告げた。
「
「……」
即位から十日余りが過ぎ、
「では陛下の所在を告げ、護衛を少し
そう言って立ち去ろうとしたマルティナの手首を、クラウスが
「!?」
「そなたはここにいるがいい」
「で、でも……。お一人になりたいのでは……」
「君はいていい。いや、いて欲しい」
「え……」
マルティナはその
「少し散歩しないか? 結婚したというのに、二人きりでゆっくり話す
「そ、それは……王妃の職務ではありませんので……」
「君は職務じゃなければ私のために何もしたくないのか?」
「そ、そんなことは……。陛下のためなら何でもするのが私の仕事でございます」
「では、私は君と二人で散歩がしたい。それを
「……」
マルティナは
庭園の中はちょうど晩夏の花々が
昼間とは
しかも男性と並んで庭園を散歩など、男子禁制の養成院では考えられないことだった。
「夜の庭園も中々いいだろう?」
クラウスは
「は、はい」
「先ほどガザのホリスから手紙が届いた。医師と大工も大勢
「そうですか……。良かった……」
自分のことのように
「ところで君はなぜ職業王妃になろうと思ったんだ?」
以前から聞いてみたいと思っていた。
「そ、それは……。昔から勉強が好きで……。でも女の子は勉強よりも
養成院に入ると宣言すると、両親は失望し、兄は
ほとんど
今まで一度も面会に来なかった両親が、結婚前に初めて訪ねてきた。王妃の父ということで実家に祝いの品がたくさん届き、父も兄も今までより大きな役職につくことになったらしい。嫁いだ姉達は多少
「陛下の職業王妃となったことで少しだけ家族孝行ができました。ありがとうございます」
それはマルティナの正直な気持ちだった。
家族から呆れられて見捨てられたような自分が感謝される日がくるなんて思っていなかった。だから
「それで君は?」
「え?」
尋ねられて、マルティナはどきりとした。
「君自身は王妃になれて嬉しいと思っているのか?」
それはまさに今朝メリーにしみじみと伝えた内容だった。
すべて
「そ、それはもちろんです。どの仕事もやりがいがあり、満足しています」
「私が聞きたいのはそういうことではない」
「え?」
急に
「ここは……」
気付くと
ジュエルチンチラの巣穴がある場所だ。
「私はもっとありのままの君を知りたいのだ」
「ありのままの私? 今もありのままの私だと思いますが……」
マルティナは首を傾げた。
「私は昔この場所で君を見たことがあるのだ、マルティナ」
「!」
はっとマルティナはクラウスが何を言おうとしているのか気付いた。
「では……まさか……」
クラウスは肯いた。
「見た。伝説の
「……」
この遊歩道もない
「誰かにお話しに?」
「誰にも話していない。言っても信じてもらえないか、ふざけて
マルティナはほっと息をついた。
「彼らはとても
「では二人だけの秘密ということだな」
二人だけの秘密という言葉がひどく
すると不思議なことが起こった。
ふわりふわりと赤や青の綿毛の
「これは……!?」
クラウスは
手の平におさまりそうなモコモコした塊が、次々に降ってきている。
緑、黄色、ピンク、白、
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