4章
クレメン侯爵邸のサロン①
クレメン侯爵のアランは、クラウスが学友として最も心を許している相手だった。
外交的なアランは、
「ようこそ
アランが
「今日は無礼講だ。みんな昔のように気楽に話しかけてくれ! な? クラウス?」
アランが
クラウスは肩をすくめながらも「今日は許す」と言って杯を
こんな風に昔の学友達と気さくに飲み明かすのは久しぶりのことだった。
クラウスが数いる王子の中から
ギリスア国では長男が世継ぎになるわけでも、
世継ぎを決めるのは、職業
職業王妃の最大の権限であり、その決定には王であっても逆らうことはできない。
それがシルヴィア王妃の定めた最大の法であり、職業王妃の
能力、人柄、人脈、適性、すべてを
もちろん王や重臣達の意見も取り入れるのだが、最終判断をするのは職業王妃だ。
クラウスはほぼ
それからは世継ぎの王子として学友たちとも一線を引いた付き合いになっていたが、アランだけは良くも悪くも変わらない態度で接してくれた。
時に世継ぎの王子に無礼だと注意されることもあったが、アランの
その
「今日はなんと、ご
アランが言うと、サロンの
「おーっ! さすがアラン! 気が
「おお! 美女だらけだ!」
男性
先頭に立って両開きの扉いっぱいに広がるドレスで現れたのはエリザベートだった。
エリザベートの父であるスタンリー
アランとしては、本当は男同士本音で飲み明かして、王となったクラウスの良き側近となる貴族を
「クラウス様。無事即位なされましたこと、心よりお喜び申し上げます」
エリザベートは
後ろからついてきた令嬢達も
サロンの中は一気に華やいだムードで
高位の令嬢達はクラウスが王子の一人であった
エリザベートのことは重臣スタンリー公の令嬢として覚えている。クラウスに好意的な重臣の一人だが、アランはあまり近付き過ぎないように気を付けろと忠告していた。
「ご令嬢達は昨日の舞踏会でもっと君と話したかったそうだよ、クラウス。君が王妃様の隣から動かないものだから、ゆっくり話せなかったと苦情が出ている」
アランが少しからかうように横から告げた。
「昨日は王妃のお
クラウスは自分を見つめる令嬢達を前に、気まずそうに答えた。
昨日の舞踏会でのクラウスは、アランにとっても意外なものだった。
まさかこのクラウスがダンスを
これまでアランがどれほどの美女を
自分がお
それがあのシルヴィア以来の
だが二人のダンスは悪くなかった。いや、むしろ
ただの黒ドレスに、ひっつめただけの
そして職業王妃など問題外と下に見ていた令嬢達は、急に
職業王妃などに負けてはいられぬと、
そうしてエリザベート達は、このサロンの招待を無理やり取り付けたのだった。
「私達は陛下のことを誤解していましたわ」
エリザベートはアイラインで大きく
「誤解?」
「ええ。陛下は女嫌いだという
エリザベートが後ろの令嬢達に同意を求めると、みんなが
「お
「それなのに王妃様は堂々と陛下と
「昨日は本当に
「
王妃にダンスを
口々に
「腕を組むのは私が言いだしたのだ。ダンスはそなたらに
「まあ! 陛下は本当にお
「意に染まない方と思っていても、そうやってお庇いになるのですわ」
「私達は誤解していました。陛下は女性には冷たい方なのではと」
「ですが昨日の王妃様への対応を見て、陛下はどんな
「私達は陛下を何も分かっていなかったのだと反省しましたの」
クラウスは次々に勝手な方向に話を進める令嬢達に口を
「職業王妃様ですら、あれほど大胆な行動をなさるのですから、私達ももっと積極的に行動せねばとみんなで話し合いましたの」
「本当はこのように陛下と話すことも緊張で心
とても緊張で心震えている者の言葉とも思えなかったが令嬢達は続ける。
「ですが行動せねば何も始まりませんものね」
「昨日の王妃様の
「これからはどんどん陛下のお側に行かせて頂きますわ」
クラウスは令嬢達の勢いに
いろいろ
そんなクラウスを見て、アランが
「はは、良かったな、クラウス。ご令嬢方が積極的に近付いて下さるそうだ。
アランが言うと、周りの男性貴族達も続いた。
「そうだぞ、羨ましい。さすが王様だな。よりどりみどりじゃないか」
「こんな美しいご令嬢方にここまで言ってもらえるなんてないぞ」
「俺たちは昔から、
「ご令嬢方、クラウスは自分から行けないタイプみたいだから、どんどんアプローチしてやってくれ」
若い男性貴族達はすでに酒もまわって理性のたがが外れてきている。
「我らの王様は、すべてにおいて
「このままじゃ職業王妃様と
「美貌の王様が、
「ははは。それはあんまりだ。あんな黒ドレスの
どっと令嬢達が笑った。無礼講が度を越してきている。
しかしクラウスの
「どれほど
「そうそう。いつも無表情で感情が見えないしさ」
「少しぐらいドジな方が
「それでここにいるご令嬢方のように華やかで美しければ最高だよ」
令嬢達はもっともな事を言われて満足げに
「もうシルヴィア様が王妃だった頃とは時代が違うんだ」
「あの陰気な王妃がギリスア国にまだ必要なのか。議論の余地はあるよな」
「職業王妃
「今回の若い職業王妃ならすごすごと
「はは。あの無表情の王妃が泣くところはちょっと見てみたいけどな」
「!!」
すでにクラウスの
せっかくのパーティーで事を
「?」
その腕をひょいとアランに摑まれて、気付けばくるりと向きを変えられていた。
「そうだ、忘れてたよ、クラウス。いいワインが手に入ったんだ。君に飲ませようと思ってさ。みんな、悪いけどちょっとクラウスを借りるよ」
アランは言いながら、クラウスの肩に腕をまわしてぐいぐいとサロンの外に連れて行く。
「アラン様、あまり陛下に強いお酒を飲ませないでくださいましよ」
エリザベートは世話
「放せ、アラン!! あいつを
「落ち着けって、クラウス。あいつらは、意に染まない結婚を
「意に染まないなんて誰が言ったんだ!」
「違うのか?」
アランは聞き返した。他のみんなのように職業王妃を否定するつもりはないが、この結婚をクラウスは不満に感じているのだとアランも思っていた。
「別に……彼女を不満に思っているわけではない。むしろ彼女のことは……」
言いかけたクラウスは、言葉を吞み込んだ。
実はクラウスは結婚が決まる前からマルティナのことを知っていた。知っているといっても
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