3章
職業王妃お披露目の舞踏会①
すぐにクラウス王から職業
「王様はどうされるおつもりなのでしょう?」
メリーはマルティナの
「分からないわ。でも解任を
「では予定通り職業王妃お
代々
「ええ。歴代の慣習に
主催者は職業王妃本人だった。
ギリスア国の貴族達を招待して、
「
太上王妃とは先代の職業王妃のことだ。
ギリスア国は王が五十歳になったら太上王となって国政を王子に
これもシルヴィアが定めた法の一つだが、職業王妃もまた王の
今回の舞踏会もずいぶん前から太上王妃の手ほどきを受けて準備してきた。
「毎回この舞踏会で新人の職業王妃は重臣達の
平民以下の民衆が職業王妃を
それと、王の
「王様までが味方になって下さらないなら、マルティナ様は舞踏会で
メリーは不安げにマルティナの
職業王妃養成院で育ったマルティナは、他の貴族との交流をほとんど持ったことがない。
もともと養成院に入ろうという貴族女性は、
顔見知りと言えば、養成院の理事長も
「しかも
メリーが王宮の
「重臣達やご令嬢達がどのように思っていようとも、私のすべきことは同じだわ。シルヴィア様のお導きに従うだけです」
マルティナは右手でぴしりと黒髪を
メリーはそんな
(せめて……もっと髪を大きく
クラウス王を射止めようと、重臣貴族の令嬢達が
それだけで
(どうぞご無事でお
メリーは
*****
王宮の広間は、結婚式の時よりもさらに
それぞれが個性を主張するように、
特に今回は若い令嬢が多く、
それというのも、クラウス王が妃を
「それにしても
ブロンドの髪を三段に盛り付けて、
「ええ。もちろん聞いていますわよ、エリザベート様。なんでも陛下は神父の
「今回の職業王妃様は、なんて
「本当に。結婚式で誓いの言葉を無視されたら、私なら
「でもほら、クラウス様の職業王妃様って、シルヴィア様以来の変人と噂の方でしょう?」
「そうそう。結婚式の後も気にした様子もなく、平然と歩いていらっしゃいましたわね」
「実は
三段頭を
「まあ、それでどんな方でしたの?」
他の令嬢達が
「なんだか
高位の貴族令嬢達は、職業王妃養成院の院生を軽んじて見ている。
生まれながらに豊かな生活と
もちろん、職業王妃という立場になれば自分達より身分も高く、
「あのような方では、陛下が誓いの言葉を答えたくなかった気持ちも分かりますわ。あんな堅苦しくて地味な女性を連れて歩きたくないですものね」
エリザベートは王が気の毒だと
「まったくですわ。職業王妃などという制度が本当に必要なのかしら?」
貴族の令嬢達の間では最近、職業王妃無用論が
「クラウス様のように
「本当にね。私達だって幼い
公式の場で王の
「しかも私達には華やかさと美しさという武器がありますわ」
「王子を産んだ妃が女性の頂点に立つのは、当然の権利ですわ」
平和が長く続くことによって職業王妃の必要性が疑問視されるようになってきていた。
しかもクラウスという有能な王の
自分こそが美しい王に
それこそがシルヴィアの時代に
*****
令嬢達が
「王妃様、主だった貴族方はすべて城の中に入られたようでございます」
「ですが思った以上にご令嬢の参加が多く、広間に入れない方もいるようです」
執事達が報告する。
真っ黒なドレスに黒真珠を飾り付けただけの黒髪。
招待された貴族たちが
「ではテラスをすべて開放してそちらにも入って頂きましょう。ダンスを
「はい。かしこまりました」
執事達は指示を受けて広間に戻っていった。
マルティナはほっと息をつく。しかし残った役人貴族が、自分よりずいぶん若い新人王妃を試すように告げた。
「広間の方は予定通り準備が整いましたが、まだ王様の姿がございません。本当に参加下さるのでしょうね? 陛下にご
どきりと言いよどむ。
「それは……今朝はお
朝からクラウスを探しているのだが、どこにもいなかった。
まさか舞踏会を忘れているはずはないと思うのだが、わざと知らないふりをするつもりなのかもしれない。出席の確認をしなかったマルティナの落ち度だ。
昨日マルティナの部屋に来た時に確認しておくべきだったと
(ダメね、私は。あれぐらいのことで
一晩反省して今日こそは
「まず一番に確認しておくことでございましょう。どうなさるのですか? 職業王妃お披露目の舞踏会に王様が不参加では、認めないと言われたようなものでございますよ」
年配の役人貴族は
(しかも歴代最年少の十八歳だったか。本当にこの
これまでの職業王妃はたいてい王よりも年上か同年代が多かった。
だが新たな職業王妃は、変人の噂は聞いていたが、会ってみると真面目過ぎるだけの普通の少女にしか見えない。
(これまでの王は職業王妃の
クラウス王もまだ若く二十五歳だが、すでに
その隙のなさは女性関係でも表れていて、
そんなカリスマ王に、果たして公務を補佐する職業王妃が必要なのか。
それは男性貴族の間でも最近よく話題になっていた。
娘をクラウス王の妃にしたい重臣達の間では、このチャンスにいよいよ職業王妃を
「さて、どうなさいますか? そろそろ王妃様のお出ましの時間ですが、お一人で登場して王様がお見えにならなかったと説明なさいますか? 陛下目当てのご令嬢方はずいぶん
役人貴族は
この職業王妃に
「……」
痛いところばかり
これが舞踏会に参加している貴族たち大半の本音に
味方のいない
だが
「仕方がありません。事実を正しく知らせるのが私の成すべきことです。シルヴィア様がきっとお導き下さることでしょう」
「はは。左様でございますか。さすがは公明正大な職業王妃様ですな。ただし私は言われた通りにきちんと仕事は果たしましたからね。陛下が現れなかったのは私の落ち度ではありませんから。そこのところは後ではっきりと説明して下さいね」
すでに役人貴族は自己保身しか考えていない。
「分かっています。あなたは私の指示した通りすべての手配をしてくれました。あなたに決して責任が及ばないようにします。安心して下さい」
マルティナは告げると、戸口に向かって歩き出した。しかしその時。
「待て!」
ふいに部屋の中に声が
「!?」
控え室にはマルティナと役人貴族の二人しかいないと思っていたので
「誰が来ていないだと?」
声は部屋の角に置かれた
「早く来過ぎて
そう言ってあくびをしながら現れたのは、クラウスだった。
衝立の向こうに置いたソファで寝ていたらしい。
「陛下っ!」
「へ、陛下!? ずっとそこに……!? まさか今までの会話をすべて……」
役人貴族が青ざめた。
「さて、会話? 今まで寝ていたので知らないな」
役人貴族はその言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろした。しかしクラウスは
「何か聞かれて困るような話でもしていたか? まさか私の職業王妃を
「!!」
役人貴族はいよいよ真っ青になった。
その役人貴族にクラウスはぐいっと顔を近付ける。
「王妃への
冷ややかに
「は、はいっ! 心してお仕え
マルティナはその様子を
(まさか私を助けてくださったの?)
どう見てもそうとしか思えないが、それが信じられなかった。
(私の解任を言い渡すつもりではなかったの?)
昨日から、どう考えても
「何をしている? 行くぞ」
クラウスは戸口に立ってマルティナに
「は、はいっ!!」
マルティナは慌ててクラウスの横に並んだ。
「……」
「?」
無言で立ち止まったままのクラウスに、マルティナは顔を上げて首を
「
はっと見ると、クラウスがマルティナに
「あっ! はい。では失礼致します」
マルティナはその肘にぺこりと頭を下げて、恐る恐る
結婚式ではバージンロードをどんどん歩くクラウスの後をついていくだけで、腕を組むこともなかった。そういう人なのだと思っていたのだが。
「ふ。私の肘に頭を下げてどうする」
思ったよりも冷たい人ではないのかもしれないと、マルティナは少しだけ
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