2.これって呪いのせいですか?
さて。
(もし、本当に二百年前の
……大変にまずいことになったぞ、と。
やけに
それにしてもこの馬車、慣例表現的に「揺られる」といいつつ実際は全然揺れない。車輪の
(なんでこうなっちゃったの……)
――いや結構です
と、ラスとしては熱心に
努力
――そうおっしゃらず。
い」に、アレンは適切に受け答えをして、ついでにわざとなのかはわからないがその選んだ言葉を一つ一つ拾っては、やんわりと、だが実に
(落ち着くのよ私。本当に、
名乗ってもいない、顔も見えづらい夜の市街地で出会っただけのラスの名前と住所を一晩で洗ってくることや、「無理を言って申し訳ないけど」などと
顔色が悪いまま窓の外を
「ラケシス
二度目の
「いえ……」
家族や数少ない商売相手以外、ろくに人に接してこなかったので、ただそれだけの質問にもラスはうろたえる。しかし、思えば彼は、自身にろくに向き合いもせず、ひたすら窓を
(さすがにこのままじゃ失礼……よね。かといって、何を話せばいいんだろう。というか私の方から声をかけるのも〝不敬〞なのでは?)
そもそも相手の意図がわからないのに。
(ききき、気まずい)
再び青くなって
「どうか
「い、いいえ……」
「ところでその黒い
座り
「……はい。ロロと申します。言葉は話せないけど、とっても
「そんな感じがするね。すごく
「お、お、王太子
「うん。自由気ままなところが特に」
どうにか会話の糸口が探せたことに少しホッとする。実は、子猫のなりはロロの真の姿ではないのだが、それはさておき。今は、愛くるしい使い魔に感謝だ。
そうすると現金なもので、ラスはだんだん
「王太子殿下、あの……大丈夫でしょうか。私、こんな
家に
(どうやら王宮に向かっているらしいけれど、それは、こんなみっともない格好で参上してもいい場所かしらと……)
おまけにラスの家は、所在が王都というのもおこがましい辺境なのだ。帰りは乗り合い馬車のお世話になるとして、王宮までなんて日帰りできるものなのか……とか。
「もちろん大丈夫だよ。同乗したのは私のわがままだし、王宮に行っても服装のことは気にする必要は
決死の思いのラスの問いに、王子はにっこり
どこがどう「心配しないで」なのかは、一切わからないままだ。そして「するな」と言われてもやはり心配はする。
(……けど)
アレンは、昨日「知り合った」なんて言葉を使うのも厚かましいと感じるほどの、別世界に住まう存在だけれど。
(顔立ちももちろん
――こんなふうに、
見返す
*****
生まれて初めて
ラスたちの乗った馬車は、
やがて到着した王宮
(……すっごい)
半分
とにかく
「ラケシスお
馬車の前には、黒いお仕着せと清潔な白のエプロンを身につけた
彼女らが丁寧な仕草で
おまけに着替えについては「大丈夫だよ」「心配しないで」とは確かに聞かされていたけれど。
(これは聞いてない!)
――お礼と言っても、ちょっとご飯をごちそうになったり、
召し使いたちに囲まれ、アレンから
風呂、といっても大理石の
そこで、「いいです自分でやります!」という悲鳴を無視されて数名がかりで全身ピカピカに
(本当に、どうなってるのー!)
後ろで結ぶサテンのリボンでキュッと
ついでに、ここまでの流れで十分に「怖い」のだが、「怖い」のはそれだけでは終わらなかった。
帰りがけにちゃんと自分の服を返してもらえるのかどうか――返す
(――広い! けどこれ、
部屋は、ラスが樹海の
(どう考えても食堂じゃないよね……? ということは、アレン殿下のご
「あの、ここは?」
とりあえず、どなたかの居室に勝手にお
「こちら、ラケシスお嬢様のお部屋でございます」
「はい?」
(私の部屋……?)
一
「きゃ、……客間のこと、ですよね?」
食事までの待ち時間を過ごすための場所という意味で「ラスの部屋」
「言葉通りの意味でございます。ラケシスお嬢様の、お部屋です」
「!?そ、それはあり得ません! だって、私は平民の
「ですから、アレン殿下のご指示で、お嬢様のために
「申し付けませんよ!?」
(ですから、以降の接続がおかしい!)
昨日今日の急拵えでこの完成度の部屋が出てくるのもおかしいし、それがラスのためのものだという流れはもっとおかしい。あと、名前を知られていることのおかしさにかまけてずっと
混乱のあまり、
「ところで、ラケシスお嬢様。
「ハイッ」
元気な返事と共に前に進み出てきたのは、くるくると細かく縮れたような
子鹿を思わせる
「今日からお嬢様つきになります、ミシェーラと申します! どうぞよろしくお願いいたしますね、ラケシスお嬢様!」
「……? えっと……」
展開が速すぎて頭がついていかないが、ミシェーラなる召し使いの少女の
「あの、ミシェーラ、さん」
「ハイ! どうぞ呼び捨てで結構です!」
「……善処します。ええと、私もお嬢様なんてつけて呼んでいただくほどの立場ではないので、できたら同じく呼び捨てか、それがダメならせめて〝さん〞付けとか……」
「ラケシスお嬢様はラケシスお嬢様ですね!!」
「…………はい」
押しが強い。
ほとんど人と接してこなかったひきこもり魔女に、初対面の同年代を呼び捨てはなかなか難題である。それはさておき本題だ。
「……今日
「? ハイッ、今日からは今日からですっ!」
元気いっぱいの返事をうけ、ラスはくらりと
(だから、その今日〝から〞って始点表現はなんなの!? 終点も今日でいいの……!?)
訳がわからない。が、わからないなりに、とんでもないことになっていることだけはラスにも理解できる。
「ラケシスお嬢様は、アレン殿下の
おまけに、ミシェーラはキラキラ輝く瞳で、なんとも
(……)
どうやら、うっかり流されるまま馬車に乗せられてしまったところから間違っていたらしい。
王宮に招待された時点で固くお断りすればよかったのだ。
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