第43話

「うっ…」


しかし奪い取ったはいいが麦茶を見つめて顔を顰めているだけでなかなか飲もうとしない。


「早くしてくださいよ」


「うるさい!」


私が急かすとどうしようかとチラチラと伯爵様の様子をうかがいながらせっかく流した汗をまたかいていた。


「飲まないなら私が」


しびれを切らしたグリフィスさんが飲もうとコップに手を伸ばすと慌てて一歩下がった。

その拍子に後ろにいたニールさんにぶつかってしまう。


「そ、そうだ!毒味は従者のニールの役目だ。私に何かあればこの女からブルード様を守れないからな。さぁ飲め!」


兵士はニールさんにコップを押し付けた。


「ブルード様の為とか言って人にやらせるんだ。忠誠心なんてないじゃない」


呆れて思わず本音が漏れる。


「き、貴様!」


図星をつかれたのか兵士はすごい形相でこちらを睨みつけ今にも襲いかかろうとする仕草をした。


するとグリフィスさんが前に立ってもう一つあったコップをつかみゴクッと一口麦茶を見せつけるように飲んだ。


「ブルード様、毒などない美味しいお茶です。どうぞ」


グリフィスさんが飲むのを確認して伯爵様はそれを受け取りゴクッと飲んでしまった。


「うむ、これが噂の美味い飲み物か?聞いていたのとは違って甘くないな…」


ボソッつぶやき眉をひそめた。


「あっ多分それはコーヒー牛乳のことです。もう在庫がなくてお出しできないんですよね」


申し訳なさそうに言うと少し大人しくなっていたうるさい兵士がまた復活してしまった。


「き、貴様!ブルード様が飲みたいとおっしゃっているのに用意出来ないとは何事だ!」


「毒味もできない人がぎゃあぎゃあ言わないでください。しょうがないでしょ材料がないんだから」


私は負けじと兵士と睨み合った。


「材料は何を使うんだ」


するといがみ合う私達の間に伯爵様が淡々と声をかけてきた。


「え?あー普通にコーヒーと牛乳ですよ」


「お嬢さん!」


私があっさりと言うとグリフィスさんが慌てている。


なんだと振り返ると頭を痛そうに押さえていた。


「あれ、どうしました?」


「ふふふ、馬鹿な女だ。あっさりとレシピを話やがって」


反対にうるさい兵士はニヤニヤと癇に障る笑顔を浮かべていた。


「レシピ?コーヒー牛乳にレシピなんてないでしょ。名前そのままなんだし」


何言ってんだこいつと眉をひそめた。


「お嬢さん、お店の看板メニューのレシピは普通人には話さないものなんですよ。真似されたら大変じゃないですか」


グリフィスさんに耳打ちされてそういうことかと納得した。


「別にいいですよ、あれってここで飲むから美味しいんだし。それに高くて真似出来ないんじゃないかな?」


「高いっていくらなんですか?」


「うちでは500エーンで出してましたがコーヒーも牛乳も砂糖も高価って聞きましたよ。あの値段で続けるのは無理そうなのでうちでもメニューから無くなるかもしれないんです」


残念だが仕方ないと肩を落として説明した。


「そうか……それを楽しみにしてきたのに残念だ」


伯爵様が本当に残念そうにする。


この人のやり方には怒っていたが、楽しみにしていたのかと思うとやれるだけの事はやってやりたくなる。


「ちょっと……待っててください」


私は仕方ないともう一度家へと戻った。

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