第42話

「ブルード様、こちらにお座り下さい。おい!誰かブルード様をお拭きしろ!」


「はい!」


出てきて早速偉そうに付き添っていた兵士が指示を出す。


しかし自分は口ばかりで何もしないで横で「なにかお飲みになります?」と伯爵のご機嫌取りをしていた。


そんな様子を呆れた顔で見つめてしまう。


「本当に偉そうね、伯爵様よりも嫌な感じだわ」


「すみません」


聞こえないように言ったつもりが前にいた兵士にバッチリ聞こえていたようだ。


「あっすみません。声が大きくて聞こえちゃいました?」


私が笑って謝ると苦笑しながら近づいてきて、番台に寄って耳打ちをする。


「あいつは最近配属になったやつでして、どうも上昇志向が強すぎまして…」


と困り顔を浮かべていた。


同じ兵士達でも考え方は色々のようだ。


「そうなんですね」


「ブルード様も本来ならあのような事をする方ではないのに…」


心配そうにしていた。


「あのような事ってなんですか?」


私が聞くと兵士の人はしまったと顔を歪めた。


「すみません、喋りすぎたようです。今の事は忘れてください。それと飲み物をご馳走様でした、もしよろしければブルード様の分も頂けますか?」


なにかあるようだが口にはできないみたいだ。


自分も社会に出たことがあるから喋れない事があるのはよくわかる。

言いたいことを飲み込んで私はにっこりと頷いた。


「大丈夫ですよ、どんなに嫌味な人でもお客様はお客様ですからね」


私は三人の為に用意して置いた麦茶を持っていこうと立ち上がった。


「伯爵様、よろしければお茶をどうぞ」


体を拭き終わり新しい服を着たタイミングで声をかけた。


「かせ!私が渡す。ブルード様、毒でも入っておりましたら大変ですから私が毒味を致します」


嫌味な兵士は麦茶を奪うと毒味をすると失礼な事を言い出した。


「毒なんて入ってませんよ!」


なら飲むな!と言いたいのをグッと堪えて睨みつけた。


「ふん、こんな怪しい奴の言うことを誰が信じるか…」


兵士は麦茶を飲もうとしてギョッとした。


「な、なんだこの色は!泥水じゃないか…貴様ブルード様になんて事を…」


兵士は怒りに顔を赤くすると腰を探るように手を動かしている。


「あれ、剣が?」


武器を置いて風呂に入ったのを思い出したのか腰に剣が無いことに気がついた。


「ブルード様!こいつを叩き切る許可をください」


「落ち着け、本当にそれは泥水なのか?」


伯爵は少し困惑しながら麦茶を見ていた。


「違います!これはうちで出してる麦茶と言います。来てるお客さんには50エーンでお出ししてるちゃんとした商品ですよ!」


「ブルード様、説明の許可を貰えますか?」


すると先程話をしていた兵士さんがいつの間にか後ろにいた。


「グリフィスか、いいだろ」


「ありがとうございます。我々も先程こちらの麦茶をいただきました。大変美味しくこちらのお嬢さんが嘘をついているとは思えません。もし良ければ私が毒味を致します」


「許す」


ブルード様が頷くとグリフィスさんが私の持っていた麦茶を掴んだ。


するとそれを聞いていた嫌味な兵士が慌ててそれを止めた。


「待てグリフィス、それなら私がやる!ブルード様を一番に考えているのはこの私ですからな!」


ちゃっかりと伯爵様にアピールしながらコップを奪い取った。

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