第14話

「申し訳ございません」


朝に玄関の掃除をしようと出てきたお母さんにライリーさんはいきなり深々と頭を下げた。


「ライリーさんおはようございます。何かしたんですか?」


お母さんは一瞬驚きながらもほうきを持ち直してライリーさんに話しかけた。


「そ、それがこれを領主様より預かって参りました」


ライリーさんはそっと手紙らしき物を差し出してきた。


お母さんは掃除は一旦諦めると手紙を受け取り躊躇する事無く封を開けた。


「えーっと…」


その手紙をみて徐々に眉をひそめた。


ここに来てからもニコニコと笑顔の多かったお母さんの険しい表情にライリーさんは顔色をサーッと悪くする。


「す、すみません!」


もう一度大きな声で謝って再び頭を下げた。


「私共と致しましてもこのような事になり大変申し訳なく思っております。しかしリザ様は一人娘と言うこともあり少し…本当に少しわがままで…領主様も甘やかしすぎたと…」


ライリーさんが慌ててまくし立てて謝ってきた。


「ライリーさん」


お母さんが静かに名前を呼ぶとその口を閉じてビシッと姿勢を正して返事をした。


「は、はい!」


「これ、なんて書いてあるの?全然読めないんだけど」


「え?」


お母さんは読めない言葉で書かれた手紙を困ったように肩をあげて広げて見せた。


とりあえず皆さんにも説明したいと言うライリーさんを家に招いて家族でリビングに集まった。


ライリーさんを前に座り手紙の内容を読んでもらいみんなで静かに聞いていた。


ライリーさんが手紙を読み終えると私達は顔を見合わせ眉をひそめた。


「つまり、領主様の一人娘が私達の事をもう一度確認するまで銭湯は禁止って事かな?」


お父さんがライリーさんに確認する。


「はい、概ねそうです。領主様はすぐにでも好きなようにしていいと話しておいででしたが…リザ様が何かおかしいと文句をいい、自分が確認したいと…」


「そのリザ様と言うのはいくつくらいの娘さんなのかな?」


「その…年は10歳になります」


「「「10歳!」」」


私達は驚いて声を揃えて驚いた。


「そんな年の子がここを見に来るんですか?」


「その…はい。領主様は本当に優しく良い方なのですが…リザ様には甘くて…」


「まぁうちも一人娘なんでわからなくもないですが…そっかじゃあ今日の風呂炊きは休みにするか」


お父さんがおじいちゃんを見ると仕方ないとおじいちゃんが黙って頷いた。


「そ、それがですね。リザ様もその銭湯に入って確かめたいと申してまして…」


「えー!そのわがままなお嬢様の為に銭湯を営業しろって言うの!?」


私はここまで黙って聞いていたが我慢できずに声をあげた。


「マキ」


お父さんがたしなめようとするが止まらない。


「銭湯を掃除して湯をたいて用意するのにどれだけの手間とお金がかかると思ってるんですか!これから私達だってここでやった行くのに頑張って行こうって話していたばかりなのに!」


ダンっ!と机を叩くとライリーさんがビクッと肩を揺らした。


「ちょっとマキちゃん落ち着きなさいよ、ライリーさんは悪くないでしょ、それにちゃんと謝ってくれてるし」


うー!そんな事を言われたらこれ以上文句も言えなくなる。


「マキ、ライリーさんが一番の被害者だぞ」


おじいちゃんにまで言われて私はシュンと腰を落として黙った。


「いえ!マキさんが怒るのも当然です。その、でもリザ様もここの良さを知れば虜になると思います!今回の分のかかった費用は領主様が持ちますのでどうか今一度銭湯を開けてください」


「ハイハイ、いいですよー。ねぇあなた、お義父さん」


お母さんが笑顔で了承するとお父さんもおじいちゃんも頷いた。


「仕方ない、こうならとことん接待してお金巻き上げてやる!」


私は勢いよく立ち上がりお風呂掃除に向かった。

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