第12話

「あー、気持ちよかった」


「本当にさっぱり!体が楽になった気がするわ」


女性達は体も心もホカホカとして満足そうに体の水を拭く。


「着替えが終わったら次はこれですよ」


私はライリーさん達にも好評だったコーヒー牛乳とフルーツ牛乳を持ってきた。


「こっちの黒いがコーヒー牛乳でこっちの白いのがフルーツ牛乳です。どちらがいいですか?」


女性達は迷うことなくフルーツ牛乳を指さした。


「こっちは色がね…」


笑ってコーヒー牛乳をチラッと見ている。

コーヒー牛乳も美味しいんだけどな…


私は余ったコーヒー牛乳を貰うことにした。


「まずは蓋を開けたら腰に手を当てます。そして上を向いて一気に飲みます!」


説明でずっと話していたので喉がかわいていた。

甘いコーヒー牛乳を一気にゴクゴクと喉を鳴らしながら流し込む。


「ぷッは~!美味しー」


上唇に付いた甘いコーヒー牛乳をペロッとひと舐めして口を拭いた。


「皆さんもどうぞ」


ゴクリと唾を飲む女性達に飲むように促した。


「「「いただきます!」」」


さすがに最初はチビチビと探るように飲み出すが味を知るなり一気に瓶の底をあげた。


「美味しい、甘くて冷たくて…本当に上品で贅沢な味。なんか貴族になったみたい」


「はぁ…本当にいい体験させてもらったわ」


みんなはふと悲しそうな顔をした。


「ど、どうしたんですか?何か気に入らないところがありましたか?」


先程まで楽しそうにしていた顔に陰りが見えて不安になる。


「いいえ、ここはすごく満足でいい体験をさせてもらったわ…想像以上に」


「そうね、相談以上だった事が悲しいわ」


なんで良かったのに悲しいの!?


「教えて下さい!何がいけなかったのか」


ここが閑古鳥が鳴くようになった原因もわかるかも…


私は真剣に女性達の顔を覗き見る。


「だって…こんな贅沢な事、もうできないなんて悲しいわ」


「そうね、もうここに入れないなら知らなきゃ良かった気までしてくる」


「なんで?」


「「「だってここ高いでしょ?」」」


「高い…?」


私は一瞬なんの事かと眉を顰める。


そして不安そうな女性達の顔を見て金額が高いのを心配しているとわかった!


「あー!そっちか…確かにここの通貨とうちの料金だとどうなんだろ」


私は番台に立つお母さんをチラッと見た。


お母さんは相変わらずニコニコと笑っている。

お客さんが来なくなるかもしれないのに笑っていることに少しムッとした。


「お母さん!笑てないでお父さんに相談しないと」


「あら、別にここでのお金でいいんじゃない?銭湯はそんなに高価なものじゃないもの」


「でも設備費とか材料費諸々雑費もかかるよ。ここの相場が分からないと…」


「もしお金が無理なら物々交換でもいいんじゃない?」


「物々交換?」


「ええ、私達が欲しいものを持ってきて貰ったら私達もお風呂を提供するのよ。薪やとか食べ物とか」


「そんなものでいいの?」


話を聞いていた女性達の顔がパァーっと明るくなる。


「でもお母さん…」


そんなんじゃ暮らして行けないんじゃ…


そう言いたいが嬉しそうなお客さんの顔に言葉が出てこない。


「マキ、それで無理なら向こうと同じように銭湯をたたみましょ。こっちで仕事を見つければいいじゃない」


「うん…」


少し不安が残るがお母さんがそういうならお父さんも賛成しそうだ。


それに…


私はお客さんの女性達の顔を見た。

みんなもう来れないと思っていた銭湯にまた入れるかもと望みを持って嬉しそうに何を持ってこようかと話し合っている。


あんなここに来ることを嬉しそうにしてくれるお客さんの顔は久しぶりだった。


「ここに来れて良かったのよ」


お母さんがボソッとつぶやく声に顔を向けると、お母さんは笑って頷く。


「また忙しくなるわ」


そう言い嬉しそうに笑う顔に私もつられて笑っていた。

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