第11話

「おじいちゃん、もしかして 女風呂にもお湯入れた?」


「ん?」


ボイラー室に飛び込むと火の番をするおじいちゃんが汗をかきながら頷いた。


「男湯だけはるなんて女湯に失礼だろ、ちゃんと入れてやらなきゃな」


おじいちゃんは当たり前のように答えた。


「そっか、今さお母さんとお父さんが…」


「わかってる、お湯がもったいなから入ってもらえ」


おじいちゃんはこうなるのがわかっていたのかすぐに頷きまた火の番に集中する。


私は戻るとお父さんに声をかけた。


「おじいちゃん、女風呂にも入れてたみたい。お父さん達と同じみたいだよ。もったいないって」


「さすがじいさんだな」


「本当に!でもよかったー皆さん是非ともうちのふくまるの湯に入っていって下さいな」


お母さんが入り口の暖簾をあげてにっこりと笑う。


「「にゃ~ん」」


いつの間にかふくとまるが屋根からのんびりと鳴き声をあげた。


「あら可愛い、いらっしゃいって言ってるみたいね」


ふく達のおかげか町の人達がほっこりと笑う。


「じゃあ男湯はライリーさんが案内してやって下さい。女湯はマキがご案内しろ」


「はーい、じゃあお母さん番台よろしくね」


「はいはい!じゃあどうぞー」


お母さんが町の人達を案内する。


私は女性達を女湯にライリーさんが男性達を男湯に連れていった。


「ここで靴を脱いで上がって下さい」


「いらっしゃいませ~」


お母さんが番台からにこやかに挨拶をする。


「ここは何をするところなの?」


「ここはお金を払うところです」


「「「えっ!」」」


お金と聞いて入ろうとしていた女性達がビクッとたじろいだ。


「あっ!今は取りませんよ!安心して入って下さい」


「そういうことなら」


「タダなんてラッキーだったね」


女性達はちゃっかりとしていてサッサと中へ入って行った。


服を脱ぐ場所や貴重品入れなど同じように説明して手ぬぐいを渡す。


「手ぬぐいは最後にここのカゴに入れて帰って下さいね」


「手ぬぐいって…すごい触り心地だね。高級品なんじゃないの?」


「いえ、大量生産の物だしそんなことないと思いますけど…」


私はタオルを広げると、その薄い生地に苦笑いする。


しかしお風呂で使うならこのくらい薄い生地の方が絞りやすいし何かと使いやすいのだ。


「気にせず使って下さいね。じゃあ中に入りましょ」


私は銭湯の中へと入って使い方を説明する。


女性達はシャンプーやリンスにボディソープに夢中になっていた。


「なんていい香りの石鹸なの、髪がサラサラよ!」


「この体の石鹸もお肌がスベスベになるわ!これならお金を取るのも納得ね!」


「これっきりって思ってたけど癖になりそうだわ」


楽しそうにおしゃべりしながら女性達は体の泡を流した。


そんな会話を聞きながら私は一人ニヤニヤとしてしまう。


こんなお客さんが喜んで銭湯に入ってくれるのは久しぶりだった。


おじいちゃんが頑張って火を炊いた気持ちがわかる。


「次はお風呂にも入って下さい!気持ちよくて夜ぐっすり眠れますよ」


「なんかこんな広いところに入るのは贅沢だね」


「髪に石鹸使う時点で贅沢でしょ!こうなったらとことん贅沢しましょ!」


町の女性達はゆっくりとお風呂を楽しんでいた。


「あっちー!」


女性達がゆったりとまどろんでいると男湯の方から叫び声が上がった。


「な、なに!?」


女性達は驚いてキョロキョロと周りを見回している。


「ああ、男湯と天井が繋がっているので大きい声は響くんですよ」


「さっきの声はあんたの旦那じゃない?」


一人の女性がそう言われて恥ずかしそうに顔を赤くする。


「全く何やってんだか、あんたー!静かになさいよ!」


「え、お前か?」


すると向こうから返事が変える。


「きっと熱い湯の方に入ったんですね、あれは素人には熱すぎますよ」


私はみんなが入っる隣の湯船を指さした。


「そんなに熱いの?」


「私は無理ですね」


正直にそう言うと女性達は指先でポツッと触るだけにした。


「本当に熱いわね、これに入ったのね」


「うちのお父さんやおじいちゃんはこの湯が好きですよ」


「えー!これに入るの?」


「慣れると気持ちいいそうです。でも私もお母さんも熱いのは苦手ですね。こっちでのんびりゆっくり入るのが好きです」


そう言うと女性達は納得と頷きお湯に再び浸かった。


「ふー……」


そして目を瞑りゆっくりと息を吐いた。

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