第9話
しっかりと銭湯を堪能してジムさん達が脱衣場に戻ってきた。
ほんのりと顔を赤らめて息が上がっているが、その顔はどこがリラックスしているように見えた。
「ふー、お風呂がこんなにも気持ちいいものだったとは、足が伸ばせるのもいいですね」
「そうだな、今度屋敷の風呂ももう少し大きくしてみようかな」
ジムさんがそんなことを悩んでいるとお父さんが脱衣場にある扇風機を付けていた。
「そんなことをしなくてもまたうちに入りに来てくださいよ」
「確かにそうだ、ここに来ればいつでもこの大きな湯を体験できる」
ジムさんが体を拭きながら納得している。
無駄な工事もしなくても済むしうちとしても願ったりだ。
「りょ、領主様！これは風魔法では！？」
ライリーさんはそれよりも扇風機が気になるようだった。
「魔法だって？」
ジムさんがライリーさんが受けている扇風機の風の前に行くと同じように驚いた顔をしてお父さんを見つめた。
「なんと、あなたは魔法も使えたのですか？」
「魔法？いえ、これは扇風機と言って家電ですよ、私の力じゃないです」
「かでん、なんとも不思議な物ですね。しかし気持ちいい…火照った体にちょうどいい風ですね」
2人は首の回る扇風機に合わせて移動していた。
なんか小学生が同じ事をしていたのを思い出して隠れて笑ってしまう。
「それと、お待ちかねのコーヒー牛乳です」
お父さんが私に目で合図を送るので笑って頷いた、冷やして置いたコーヒー牛乳を持ってきて二人に渡した。
「はい、ジムさんとライリーさんどうぞ。こうやって口を開けて飲んで下さいね」
私はジェスチャーで蓋を開ける仕草をして開け方を教えた。
「こうかな」
ジムさんがポンッと紙の蓋を開ける。
「なんとも不思議な色と匂いの飲み物ですね…」
少し警戒している。
確かに何も知らなければ泥水みたいな色をしているから怖いのかもしれない。
「先程の麦茶も美味しかったですからね！領主様先に私が飲んでみます」
ライリーさんは臆することなくコーヒー牛乳を一口飲んだ。
「んー！」
ゴクッと飲み込んでライリーさんは全身に力を入れて悶えだした。
「ど、どうした？大丈夫か」
ジムさんが心配するとライリーさんはすぐにもう一口飲んでジムさんを見つめる。
「うまい！うまいです！ほんのり甘くてそれでいて少し苦く冷たくて…いや、何杯でも飲めますよ！」
そのまま勢いよく全部飲みきってしまった。
すると空になった空き瓶を見つめて恨めしそうに隣でまだ飲んでいないジムさんの分を見つめている。
「これは私のだよ」
ジムさんはにっこりと笑ってコーヒー牛乳を飲みだした。
「あ、ああ」
ゴクリと唾を飲み込んで見つめる。
「んー！本当に美味しい！ライリーがもう一杯飲みたそうにする気持ちがわかるね」
「そう言ってくださるのは嬉しいですが牛乳ですしあまりお腹を冷やすのもよくありません。一杯で我慢しておくのが一番美味しいと思いますよ」
「なるほど、では今度来た時の楽しみとしましょう」
ジムさんは最後の一滴まで残さずに飲みきった。
「空瓶はそこのケースに入れて置いてください、後はゆっくりと髪を乾かしたり体を休めておかえり下さい」
「ありがとうございます」
ジムさんが満足そうに頷くのを見て私は待ってましたと質問をした。
「これでわかって貰えましたか？」
「ええ、こんな素晴らしい事を提供する皆さんが危ないとは思えません。私の方がしっかりと報告させていただきます」
「「ありがとうございます！」」
私とお父さんはほっとして顔を見合わせた。
「それと、私からお願いもあるのですが…」
喜ぶ私たちにジムさんが申し訳なさそうに声をかけてきた。
せっかくほっとしたのに…
私とお父さんは佇まいを直してジムさんに向き合った。
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