第8話

「ん!?なんかヌメヌメします…もしかしてスライムとかじゃないですよね」


ライリーさんが恐る恐るお父さんに確認来ている。


「スライムなんかつけませんよ」


お父さんが笑って否定するとライリーさんはホッとしながらもすぐに洗い流そうとしていた。


「髪に馴染ませたら同じように洗い流してください」


ジムさんも洗い流すと髪通りに驚いて顔をあげた。


「なんだ、髪がすごいサラサラしている」


「うーん、何回流してもヌメヌメが取れない」


ジムさんはリンスを気に入ったようで何度も髪の毛を手ですいていた。


反対にライリーさんはあまりお気に召さない様子で何度も何度も頭を洗い流している。


「なんかヌルヌルが取れない気がする」


そう言ってもう一度体を洗っていた。


2人とも綺麗になるといよいよ湯船に入ってもらう。


「湯が幾つかありますね」


ジムさんは三箇所に別れた浴槽をみてどれに入ろうかと悩んでいた。


「説明しますね、まずはこちらの一番広い浴槽が適温でその隣が少し高温になってます。最後に一番小さい浴槽は水風呂ですね」


「水風呂?水が入っているのか?」


ライリーさんが浴槽に手をつけて冷たさに驚いた。


「好きな人は高温の風呂で体を温めてゆっくりと水風呂に入るって人もいます。急激に入ると体に悪いので気をつけてくださいね」


二人はピンと来ないようで首を傾げながら頷いた。


「まぁまずは普通の温度で入ってください。特に入り方にルールはありませんがタオルや濡れた髪の毛を湯船につけると嫌がる人もいますので…」


ジムさんは自分の長い髪を束ねた。


「良かったらゴムをお使いください。番頭に言えば用意してありますから」


「ありがとう」


ジムさんはありがたく受け取り髪を結んだ。


「領主様!では入りましょう!」


ライリーさんは入りたくて仕方ないのかうずうずとしている。しかし領主様のジムさんよりも先に入る訳にはいかずに急かしていた。


「お湯は逃げませんからゆっくりとお浸かり下さい」


お父さんが笑いながら手を差し伸べた。


ジムさんはゆっくりと足から入っていく。


「ん?湯の中に階段が…」


ちょうどいい高さの足掛けに感心しながら湯に浸かり腰を下ろした。


「ふー……」


そして満足そうに息を吐く。


「ふふ、やはりお湯に浸かって出る声はどこも一緒なんですね」


そんな事が妙に嬉しかった。


「では失礼して俺も」


ライリーさんが少し離れてジムさんの隣に腰を下ろした。


「はぁー、気持ちいい…少し熱めのお湯が体にしみる」


ライリーさんは肩までしっかりとお湯に浸かった。


「確かに少し熱いですね。隣はここよりも熱いのか」


ジムさんが隣の高温と言われたお湯を見つめた。


「熱いお湯も意外と癖になりますよ。うちのじいさんはそっちじゃないと入った気がしないそうです」


「そうなんですか!」


ライリーさんは少し考えて立ち上がった。


「入ってみますか?」


お父さんの笑顔にライリーさんは楽しそうに返事を返す。


「あの方が気に入っているお湯なら是非とも体験したいです」


どうもボイラー室での手伝いでおじいちゃんとお父さんの評価がライリーさんの中でうなぎ登りのようだった。


ライリーさんは先程と同じように足を付けると…


「あちぃ!」


少し足をつけただけで飛び跳ねて湯から出てしまった。


「そんなに熱いのか?」


ジムさんも気になったのか隣の湯に入りながら高温の湯に手を伸ばした。


軽くお湯を撫でてみてすぐに手を引っ込めた。


「確かに熱いですね、彼はこの湯に入るのか…すごいな」


そんな事で感心している。


「さすがです。あの熱い炎の前で微動だにせず薪を入れているからかな」


ライリーさんはもう一度挑戦してみるがやはり足を少しつけるだけで精一杯のようだった。


「無理せず自分にあった入り方がいいですよ。私も最初は入れませんでしたからね」


お父さんが2人を慰めるようにそんなことを言った。


「あなたもこれに入れるのですか?」


「ええ、じっと波を立てずに入れば少しは大丈夫だと思いますよ。そこで熱くなったあと水風呂を浴びるとシャキッとするんですよ」


お父さんの説明にいつか入ってみたいもんだとジムさんもライリーさんもお湯を見つめた。

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