第32話 王子様の記憶②

王子の告白の後、重い空気を振り払ったのは敦だった。


「とりあえず、お別れパーティーをしよう!」


その言葉を合図に、一同は腰をあげ、動き始めた。まるみは冷蔵庫にあるもので出来る限りの料理を作り、春香と敦はコンビニでジュースとお菓子を買い出してきた。

オムレツに焼きそば、レンコンのきんぴらに、マーボー豆腐がこたつ机に並び、その隙間にクッキー、ポテトチップス、チョコレートにミニシュークリームと、でたらめなラインナップが並べられた。それらを、サイダーやオレンジジュースで胃に流し込みながら、4人は喋ったりカードゲームをしたりして最後の夜を過ごした。


王子はあまり話さなかったが、静かに微笑みながら会を楽しんでいるようだった。

まるみはいつもよりおしゃべりになり、敦はむやみに大きな声で笑ったり、春香をからかったりして場を盛り上げた。春香は、顔に“笑顔”を貼りつけて、この時間をやり過ごそうとしていた。涙で目を曇らせて、王子の一挙手一投足を見逃さないように…。


各々の心は、でせつなくふくらんでいたが…、外から見ればそれは、とても楽しいあたたかい夜だった。


・・・§§§・・・


時計が夜10時を指した頃、会は解散となった。春香とまるみは、みんなで食べ散らかしたものを片付け、台所に食器を洗いに行った。敦は玄関に向かい、王子はそれを見送ろうとついてきていた。敦は靴をはき終えると、王子に言った。


「短い間でしたけど、一緒に過ごせて楽しかったです。」


「…ああ。私もだ。」


二人は少しの間、お互いの目を見つめていた。いや、見つめると言うには、鋭すぎる眼差しだったかもしれない。敦は、口を開いた。


「一つだけ、王子様に言っておきたい事があります。」


敦はちらっと台所の方に目をやった。女子二人が、食器を洗いながらおしゃべりしているのが見える。敦は、続けた。


「俺、春香の事が好きです。」


王子は黙って敦の顔を見た。敦はさらに言葉を続けた。


「俺、ずっと春香の事が好きだったみたいなんですけど、自覚したのは最近で。

王子…いや、ロメリアさんのおかげで自分の気持ちに気づくことが出来ました。」


王子はやはり黙ったまま敦の顔を見ていた。敦は、王子が何も言わないので、急いで付け足すように言った。


「すいません急に。なんとなく、ロメリアさんには伝えておきたくて。それから、

本当に…本当に婚約者さんは見つからなかったんですか?」


王子は口を開きかけて一度閉じ、そしてまた開くとしずかに言った。


「…、まだ見つかっていない。」


それを聞くと、敦は右手で自分の頭をわしゃわしゃとかき回した。そして言った。


「あ、明日何時に出発するんですか?俺、見送りに…」


「それは、結構だ。ここで、お別れしよう。」


「そうですか…。じゃあ、ここで。」


「あぁ…。敦、世話になった。本当にありがとう。」


王子はそう言うと、右手を差し出した。敦はその手を軽く握って、すぐに離した。


「何だか、握手なんて照れくさいですね。」


敦はそう言うと、くるりと向きをかえ、振り向かずに外に出て行った。










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