第30話 体育祭と王子と幼なじみと⑤
時刻は、夜7時。
春香の家では、春香と敦がぐったりと居間の床に座り込んでいた。
体育祭の途中で、突然王子が姿を消した。
敦は、春香から目を離すわけにもいかず、体育祭が終わったと同時に春香とまるみに、王子がいない事を告げた。
三人は、まず校庭を探し、次に学校や家の周りを探したが、どこにも見当たらなかった…。外は暗くなり、他に探すあてもないので、家に戻っているかもしれないという可能性にかけて一旦戻ってきたところだ。
しかし、残念ながら王子の姿はなかった。疲れと期待はずれの状況に、誰も口を開かなかった。そんな中、一番最初に動きだしたのは、まるみだった。
まるみは台所に立ち、夕飯の支度を始めた。
「まるみちゃん、手伝うね…。」
春香が言うと、まるみはトマトをくし切りにしながら答えた。トントンとリズミカルな包丁の音が聞こえている。
「春香さんは今朝早起きでしたし、体育祭でも大活躍でしたもの。その後、王子様を探してたくさん歩き回りました…。今日の夕飯のメインは、レトルトカレーにしてしまいますので、お気になさらず休んでいて下さい。」
「…ありがとう、まるみちゃん。」
春香はしばらくぼーっと座りこんでいたが、突然すっくと立ち上がった。
「でも、私やっぱり、もう一度探しに行ってくる。ほら、王子様と一緒に買い物をしたファッションビルにいるかも!まだ、あそこは探してないもの…。」
春香はそう言いながら、一緒に買い物をした日の事を鮮明に思い出していた。
服を試着しては、鏡の前でポーズをとっていた王子。
タピオカドリンクを夢中で飲んでいた王子。
人とぶつかりそうになった春香をかばってくれた王子。
春香の手を強く、優しく握ってくれた王子。
(…いったい、王子様に何があったんだろう?)
春香は、黙ったまま玄関に向かってすたすたと歩いて行った。口を開けば、不安な気持ちが溢れてしまいそうだったから…。そんな春香を見て、敦もすぐに後を追いかけると、春香の肩をつかんで自分の方を強引に向かせた。そして、真正面から春香を見て、幼い子に言ってきかせるようにゆっくりと言った。
「春香。もう、外は暗い。昨日の…襲われた件もある。王子様は、俺が探してきてやるから、お前はここで待ってるんだ。」
春香は少しの間黙っていたが、敦の真剣な眼差しに、やっと小さくうなずいた。
その時だった。
「…ただいま。」
玄関の方で王子の声がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます