第28話 体育祭と王子と幼なじみと③
『昼休憩は終了となります。生徒のみなさんは、荷物を持って各自の席に戻って下さい…』
校内に放送が流れた。
「もう、そんな時間か。」
春香は、少し残念そうにつぶやくと、ほとんど空になった弁当箱をトートバッグにしまい始めた。
「春香、うまかった。ありがと。」
敦が、春香の目を見ずに早口で言った。耳が少し赤く染まっている。
「うん。結局、あっちゃんが一番食べてくれたもんね。」
春香は、うれしそうに言った。
「ごちそうさま。おいしかったぞ。」
王子も、微笑みながら春香に言った。
「王子様も、甘い卵焼き食べてくれてありがとうございます。」
春香も王子に微笑み返した。
「まるみちゃん、アスパラのベーコン巻き、すごくおいしかった。手伝ってくれてありがとう。」
春香は、まるみの方に振り向いて言った。
「私は、少しだけお手伝いしただけです。…何だか“ありがとう”でリレーしているみたいですね。私も、春香さんのお弁当おいしかったです。ありがとうございます。」
まるみもにこにこしながら言った。まるみは春香を見つめながら思っていた。
(フェミーナ様と一緒にいると、こうして、みんないい人になっていく。
フェミーナ様は、私にとってたった一人の特別な人。
だから、私はフェミーナ様を…この方の笑顔を絶対に守らなくてはならないんだわ…。)
『…繰り返します。生徒のみなさんは、各自の席に戻って下さい。』
再度、放送が流れた。
「もう、行かなきゃ!」
そう言うと、春香はトートバッグを持って、王子と敦を振り返った。
「次の私たちの出番は、大綱引きです。お見逃しなく。」
春香はそう言ってVサインをすると、座席の方に戻って行った。
敦は、春香のポニーテールの後ろ姿をしばらく見送っていた。
(こんな風にずっと、ずーっと俺が見守っていてやりたい。誰よりも近くで…。)
敦は、ライバル(王子)の方を振り向いた。すると、さっきまでいたはずの王子の姿が消えていた…。
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王子は、お腹をさすりながら、トイレから出て来たところだった。
(少し張り切って食べすぎたか…。丁度いい。このまま校内を見回ろう。何もなければいいのだが。)
王子は、体育館横にあるトイレ棟から出てくると、近くの植え込みや係員、生徒らに目を走らせた。
(怪しい気配は、どこからも感じられない、か。もしも何かあるとすれば図書室…もしくは教会か!あの場所は、何か我々の世界との強い結びつきを感じる。)
王子はそう思いつき、教会の方に向きを変えようとした。その時。何者かに背後から、口元をハンカチのような物で覆われた。
「(何をする!)」
王子は抵抗するが、すごい力で押さえつけられ、声を出す事が出来ない。
「イアユズーロイアユーズロ、イアユズーロイアユズーロ…」
王子の耳元で何者かが、呪文のようなものを唱えている。それは、やけに高い少女のような声だった。王子は徐々に遠のく意識の中で、甘いチョコレートのような匂いをかいだ気がした…。
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