第27話 体育祭と王子と幼なじみと②
クラス対抗リレーは、春香のクラスが勝利をおさめて午前の部は終了し、昼休憩となった。
「王子様、あっちゃん!見てました?」
春香は、満面の笑みで王子と敦にかけよった。
「いい走りだったな。」
「やったな、春香!」
二人は同時に答え、気まずそうに顔を見合わせた。春香はそんな二人の前に、何やら大きなトートバッグを差し出した。
「何だよ、これ?」
敦が聞くと、
「なんと、私手作りのお弁当でーす!」
春香が高いテンションで答える。
「なんだ…。まるみさんのじゃないのか。ちゃんと作れたんだろうなぁ…。」
敦が、嬉しい気持ちを隠してわざとそう言うと、春香が頬をふくらませて言った。
「そんな事しか言えない人には、何も食べさせませんよー!」
春香は口をとがらせて敦のそばを離れた。
「じゃあ、私がいただく事にしよう。」
王子は、ひょいっと春香からバッグを預かると、春香の頭を軽くなでた。その様子を
見て、敦が苛立たし気にバッグを王子から取り返そうとした。
「食べないとは言ってないだろ!」
そんな敦の様子を見かねて、まるみが言った。
「敦さんはレジャーシートを広げるのを手伝って下さい!」
「…はい。」
敦はおとなしくシートを広げるのを手伝った。二人の様子を横目で見つめながら…。王子は優しい笑顔で、何かを春香に話している。春香はそれを聞いて楽しそうに笑っている。
バサッ
「敦さん!ちゃんとやって下さい。」
敦は、シートを取り落としていた。
「ごめん。」
まるみは、黙ってシートを拾い上げた。
(本当の幼馴染(=王子)といつわりの幼馴染(=敦)。
どちらが、本物の春香さんの運命の人なのでしょうね…。)
シートの上に、まるみは敦と座り、王子と春香に声をかけた。
「春香さん!お弁当、並べて頂けますか?」
「はい!」
春香は元気に答えると、王子からバッグを預かろうとした。すると王子は言った。
「春香、手を怪我しているんだ。私がやろう。」
王子はさっとシートに座り、バッグから弁当を取り出した。黄色、水色、黄緑色の三段重ねの大きな弁当箱が出てきた。一段目にはおにぎりが、二段目には、ミートボールとブロッコリーとミニトマト、三段目には、ウインナーと卵焼き、ベーコンのアスパラ巻きがぎっしりと詰められていた。
「これで、4人分のつもりなんだけど…足りるかな?」
春香が言うと、王子と敦が言った。
「もちろん。」
「十分だろ!」
二人がまた同時に答えたのがおかしくて、春香は笑いながら言った。
「今日は二人、気が合いますね。」
まるみは黙って、パステルカラーの小ぶりな紙皿と割りばしを各人の前に並べた。
春香は、水筒に入った麦茶をコップに注いだ。
「あ、おにぎりには具が入ってないのが混ざってます。…ちょっと忘れちゃって。ちゃんとしたのには、鮭と昆布と梅干のどれかが入ってます。」
春香は得意げに説明した。
「…とにかく、腹減った。あたりのを狙って食べるよ!」
敦がそう言って、さっそく割りばしを割ったのを見て春香が言った。
「…あっちゃんも、食べるの?ほとんど私が作ったやつですけど。」
「いじわる言うなよ。いただきます!」
敦は、ベーコンのアスパラ巻きを取って、口に入れた。
「お!これ、うまいぞ。」
春香は、敦の顔を見て言った。
「そうでしょうね。それは、まるみちゃんが作ってくれたのです。」
敦は、次に慌てて卵焼きを口に押し込んだ。春香は言った。
「その卵焼きは私が作ったよ。どう?」
敦が卵焼きをかみしめながらコメントを考えていると、隣で王子が、はでにせき込んだ。
「王子様、どうしました?」
まるみが聞くと、王子が言った。
「…甘い。」
見ると、王子の皿には卵焼きが乗っていた。
「私は、こんなに甘いオムレツを食べた事がないので、少し驚いただけだ。」
王子は、ごくごくと麦茶を飲み干している。それを見て、敦は思わず笑っていた。
つられて、まるみも笑った。
「…そんなに、甘かったですか?」
春香だけは、心配そうに王子の顔を見守っていた。
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