第25話 お付きの人は王子様☆④ 

玄関口では、家に入ろうとする王子をまるみが引き留めていた。


「王子様…一体、どういう状況なのですか?詳しいお話をお聞かせいただけませんか。こうなる事を予期なさっていたんですよね?だから、急に春香さんの送迎を買って出たのですね?!」


言葉は丁寧だったが、まるみの内側から怒りの感情が透けて見えるようだった。

王子は、まるみの顔を見ながら、どう説明しようか迷っていた。

王子が黙ったままなのをみて、まるみは言葉を重ねた。


「私が何も話さないから、という訳ですか?お気持ちはわかりますが、春香さんにこれ以上危険が及ぶようでしたら、このままにしておくわけにはいきません。私にとっては、王国や王子様より、春香さん…いいえ、フェミーナ様が大切なんです!」


まるみの強い言葉に、王子はやっと重い口を開いた。


「マーシャ。お前の言う通り、あれは、私達の世界から来たもの…おそらく

セバスの差し向けた追手だと思う。」


「セバス様ですか?セバス様は、王子様の味方なのでは?」


まるみは、驚いた顔で王子の顔を見た。


「私も、詳しい事情はわからないのだ。ただ、こちらの世界でセバスに会った時、

異様な気配を感じ取った。もしかすると、あの追手はアトミラート王国のものではないのかもしれない…。」


「セバス様が、こちらの世界に来ているのですね。そして、王子様はセバス様にお会いになったと?」


「あぁ。」


「なぜ、セバス様はこちらに?」


「…。」


「王子様を連れ戻すためですね。」


「…。」


まるみは、眼鏡のフレームを直すと、改めて王子の顔を見て続けた。


「なぜあの生き物は、フェミーナ様を狙ったのでしょうか?」


「わからない。はフェミーナを狙ったのか、もしくは私だったのか…。」


まるみは、王子の顔を真正面から見ると言った。


「あの追手が本当にセバス様の差し向けた物なのであれば、王子様が国にお戻りになれば、解決するのではないですか?お願いです王子様。すぐにアトミラート王国へお戻り下さい。このままでは、またいつフェミーナ様に危険が及ぶかわかりません!

フェミーナ様の事は私にお任せ下さい。絶対にお守りします。」


王子は、まるみの言葉を聞き終えると深く溜息をつき、空を見上げた。暗くなってきた空には、雲が多く星一つ見えない。王子はつぶやくように言った。


「…そして、私はフェミーナに二度と会えなくなると?」


「それは…。」


まるみは、そのといになんと答えればいいかわからなかった。王子は続けた。


「世界で一番大好きな人に忘れられたまま、ここを離れる。

このまま…塗り替えられてしまった私の思い出と一緒に、フェミーナを敦のもとに残していけと?」


「……。」


王子の横顔はひどく辛そうで、まるみは思わず目をそらした。


______________________________________


家の中では、傷口の出血がおさまり、敦が必要以上に春香の手を包帯でぐるぐる巻きにしているとろだった。


「あっちゃん、こんなに包帯巻きつけなくても…もう血、止まってるんだし。」


「春香、うるさい。」


敦は、納得いくまで包帯を巻きつけると、やっとテープで留めた。そして、そのまま春香の手を両手で持ったままじっとしていた。


(今回は、こうして俺が手当出来た。大したケガじゃなかった。でも、次は?

その時、俺は春香のそばにいてやれるんだろうか…。)


黙ったままの敦の様子が気になって、春香はひょいと敦の顔をのぞきこんだ。


「あっちゃん、どうしたの?」


敦の目の前には、春香の心配そうな顔があった。敦はいつものように、春香の頬っぺたを両手でぷにっとつまんだ。


「ちょっと、あっちゃん!」


敦は真顔で言った。


「やわらかいほっぺだな…」


「あっちゃん。人の顔で遊ばないで!」


春香がケガをしていない方の右手で、敦の腕をつかんで抵抗を試みた。

すると突然、敦は両手を頬っぺたからはずすと、そのまま春香の背中にまわし、

力いっぱい抱きしめた…。


(春香、どこにも行かないでくれ。俺が、そばにいて守ってやるから…。)


「…あっちゃん?」


春香は、驚きすぎて、敦の腕の中で固まったままでいた。

そこに、まるみと王子が部屋に入ってきた。まるみは、隣で息を飲んだ王子を横目で見ながら、春香に声をかけた。


「春香さん、傷の具合はどうですか?」


その声に、春香はあわてて敦の腕から抜け出し、まるみのところに走り寄った。


「うん!あっちゃんが手当してくれたから、もう大丈夫。」


「そうですか、よかったです。敦さん、ありがとうございます。」


「あ、あぁ。」


敦は、からになった両腕をそっと降ろして、言った。


「…今日は、俺が夕飯作ろうかな?」


敦はふらふらと台所に入って行った。すると、王子は黙ったまま春香に近づき、包帯の巻かれた手をとって静かに言った。


「痛みは、どうだ?」


「もう、大丈夫です。少しずきずきするくらいです。きっとすぐに治ります。」


春香は、なるべく明るく答えた。


(王子様に、心配かけちゃいけない。なんだか、つらそうな顔をしているんだもの。)


「そうか…よかった。」


王子はそう言うと、春香の手をすっと放し、台所に向かった。


「私も、夕飯作りを手伝おう。」


王子が台所に入って行くのを見届けると、まるみがぼそっと呟いた。


「今日は、男性二人が調理担当ですか…。春香さん、カップ麺の買い置きはありますか?」
























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