第24話 お付きの人は王子様☆③ 

「あっちゃん…大げさだって!」


「いいから、黙って手を出してろ!」


春香の左手の傷は思ったより深く、まだ出血が止まらなかった。敦は傷口にガーゼを当てて、自分の手でやや強めに押えながら時計を見ていた。


「このまま圧迫しても出血が止まらなかったら、すぐ病院行くぞ。」


敦は、右の眉をぴくりと上げて言った。


「はい…。」


春香は大人しく返事した。春香の手の震えはおさまっていたが、敦の手はまだ震えていた。


(春香の周りで何かが起きようとしている…)


敦は自分の手の震えを隠そうと、もう少し強く春香の手を押えた。


______________________________________


時間は、少し前にさかのぼる。


午後5時。町にいつもの ♪夕焼け小焼け~ が流れ始めた頃、敦は学校帰りに春香の家のチャイムを鳴らした。玄関を開けようともしてみたが、開かない。


(まだ誰も帰っていないのか?)


普通であれば、近所の中学校に通う春香たちの方が早く帰宅しているはずなのだ。


(何かあったのか…?)


敦は、急に不安がむくむくとわき上がるのを感じた。


(まさか、王子が婚約者だとか言って春香をどこかへ連れていったんじゃ…)


敦の想像が悪い方へと傾き始めた時、やわらかい声がした。


「あっちゃん?遅くなってごめんね~」


敦はほっとして振り向いた。すると、そこには王子にお姫様だっこされた春香の姿があった。敦は、ズキッと胸のあたりが痛むのを感じた。


「王子様、私歩けるんですから、降ろして下さい!」


春香がそう言うと、王子は黙って春香を地面に降ろした。春香は左手の甲をハンカチで押さえている。うすピンク色のハンカチには、赤い血がじんわりとにじんでいる。


「…春香、手、どうした?」


敦は、すぐに春香に近寄るとハンカチをそっと外した。


「な、ケガしてるじゃないか!早く家に入って手当するぞ。いや、病院か?まだ近所の整形外科やってるんじゃないか?」


敦の慌てぶりを見て、春香はクスっと笑った。


「あっちゃんも、王子様も大げさなんだよ。かすり傷だから。」


敦は、春香の左手をじっと見ながら言った。


「…春香、手、震えてるぞ。」


敦は小刻みに震えている春香の手を、大事な物のように両手で包み、言った。


「何があったかは、後でゆっくり聞く。とりあえず中に入ろう。」


「うん…。」


春香は、軽くうなずいた。


(本当は、すごく怖かった…。あの黒い犬はなんだったんだろう?あんな生き物見た事ない。)


春香は、気持ちがざわざわと恐怖にかき乱されるのを止められなかった。春香が敦に支えられながら家の中に入っていこうとした時だった。王子が春香の背中に向かって言った。


「春香!怖い思いをさせてすまなかった…。」


春香は、すぐにくるりと振り返って言った。


「どうして、王子様が謝るんですか?悪いのはあの犬です。守ってくれてありがとうございます。でも、何であんな所に、あんな大きな犬がいたんでしょうね…。」


王子は、なんと答えて言いかわからなかった。その隣で、まるみは王子の背中を強張った表情で見つめていた…。





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