第23話 お付きの人は王子様☆②

放課後。春香は、足早に廊下を歩いていた。王子が授業が終わるのに合わせて午後3時半に迎えに来る事になっていたのだが、現在の時刻はもう4時半を過ぎていた。

明日は体育祭があるため、先生に呼び止められ、その準備を手伝わされてしまったのだ。まるみが王子に事情を話して、先に帰ってもらう事にはなっているのだが…。


(王子様、まるみちゃんの言う事聞いてくれたかな?今朝の様子だと、まだ待ってるような気がするけど…。)


春香は、小走りで昇降口を出た。校門の方を見ると、やっぱりそこには王子の姿が!

白のプルパーカーにデニムパンツというシンプルな恰好なのに、長い脚や端正な顔立ちのせいか、立っているだけなのにさまになっている。


(こうして遠くから見ると、やっぱり王子様はかっこいいな…。)


春香は、思わず足を止めて見とれてしまった。すると春香の姿を見つけた王子が、

子供みたいに大きく両手を振った。満面の笑顔で。


「かわいい…。」


春香は、思わずつぶやいていた。それと同時に顔が熱くなってきてしまい、熱を振り払うように、校門へと走っていった。


「遅くなってしまい、すみません!」


校門についてみると、まるみも近くで本を読みながら待っていて、さらに王子を

遠くから見守る何人かの女子生徒の姿もあった。


(やっぱり、王子様は立ってるだけで目立っちゃうよね。)


まるみも春香の到着に気付き、パタンと本を閉じると言った。


「お疲れ様です、春香さん。王子様の説得を試みましたが、やはりお待ちになりたいというものですから…。」


「うん。まるみちゃんも待ってくてれたんだね。ありがとう。」


春香がまるみと話していると、王子は当たり前のように春香の横に立ち、手を握った。すると、王子を取り巻いていた女子生徒達から声があがった。


「キャー!!何?!」「山村さん?え、山村さんの彼氏なの?」


よく見ると、王子の取り巻きの生徒の一人は、春香のクラスメイトだった。春香が、どう言ったものかと困っていると、王子が言った。


「春香は、私の大切な人だ。すまないが、帰るのでそこをあけてくれるか?」


王子はそう言うと、春香の手を放さないまま、女子生徒の間をずんずん進んでいった。まるみも、その後に続いた。春香たちの背後では、キャーキャーと騒ぐ声が鳴りやまなかった…。


「ふーっ。」


春香は、気が付くと溜息をついていた。王子が心配そうに春香を見た。


「春香、大丈夫か?」


「はい。ぜんぜん大丈夫です!」


まるみが、眼鏡を直しながら口をはさんだ。


「春香さん。明日は、みなさんに囲まれて質問責めですね。」


「まるみちゃん!やっぱり、そう思う?」


「みんな、恋バナが好きですからね…。ほうっておいてはくれないでしょう。

でも、明日は体育祭ですし、意外とそれどころじゃないかもしれませんよ?」


そんなやり取りを見ていた王子は不思議そうに聞いた。


「…何の話をしているのか、さっぱりわからないのだが。」


春香は笑いながら言った。


「王子様がステキすぎるって話です。気にしないでください。それより、結局待って頂いてすみませんでした。」


「いや、いいんだ。私は、春香が無事であれば、それでいい。」


王子は、春香を見つめて言った。春香は胸がじゅわっと温かくなるのを感じた…。しばらくの間、3人はほのぼのと下校していたが、突然まるみがぴたりと立ち止まった。


「王子様。何か気配を感じませんか?」


その声に王子も立ち止まり、素早くあたりを見回した。住宅地を抜けていく通学路には、急に生ぬるい風が吹き始め、気が付くと春香たち3人の他には誰もいなくなっていた。


その時、突如春香の背後に体長1メートル程の黒い犬が現れ、春香めがけて飛びついた。春香は逃げ切れず、犬の爪が左手の甲をかすめた。


「痛っ!」


春香は左手を押えてその場にうずくまった。


「何者だ!!」


王子は大きな声で犬を威嚇いかくし、春香の前にに立ちふさがった。まるみは、素早く春香の上に覆いかぶさった。


グルルルルルルルッ


黒い犬は、やけに大きな目と耳をしていて、馬のようなたてがみを生やしていた。ドーベルマンのように黒光りした肉体からは不気味なオーラを放っている。


「王子様、これは…。」


まるみは、その後の言葉を飲み込んだ。


(この犬は、人間界の生物ではない!)


王子は怒りに満ちた目で、犬の目を見つめた。そして、すっと左の手のひらを黒犬に向けた。その手の平はぼーっと青く光り、それは王子の怒りと共にどんどん強くなっているようだった…。その光の力のせいか、犬はその場にはりつけにされたかの様に、身動きできなくなっていた。


「何者か知らないが、ここをすぐに立ち去れ!」


王子の気迫が伝わったのか、青い光を恐れたのか、しばらく王子と向き合っていた黒犬は、一瞬で跡形もなく姿を消した。まるで、煙のように…。










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