第22話 お付きの人は王子様☆
翌朝、開口一番、王子は宣言した。
「今日から、私が春香を学校まで送っていく。帰りももちろん迎えにいく。」
それを聞いてすぐに反対したのは、まるみだった。
「王子様!私が春香さんと一緒に登校しているんですよ?二人で送り迎えする必要はないと思います。」
今朝の朝食当番として、目玉焼きを焼きながら春香も言った。
「ちょっと待って、二人とも。
行って帰ってくるだけだよ?」
王子は、無言で食卓に座った。
(いつセバスが現れるかわからない以上、春香のそばを離れるわけにはいかない。)
「王子様、聞いてますか?なぜ、急にそんな事おっしゃるんですか?」
まるみも食卓に座り、王子に詰め寄っている。春香は、目玉焼きの3個中2個は黄身がつぶれなかった事にほっとし、フライ返しでそれを1個づつ皿にのせた。目玉焼きの脇にロールパンを2個づつと、ミニトマトも盛り付けて完成!とりあえず2人分の皿を持って食卓の騒動に参戦した。
「王子様。明るくて見通しのいい通学路だし、他の生徒も登校していてにぎやかだし、何も心配ありませんよ。」
春香はそう言うと、まるみと王子の前に皿を置いた。王子はまるみと春香の抗議には答えず、春香にほほ笑んで言った。
「朝ごはんを、ありがとう。」
春香は王子の不意打ちの笑顔に、慌ててくるっと向きを変え、残りの一皿を取りに
台所に戻った。まるみは溜息をつきながら立ち上がり、3つのグラスに野菜ジュースを注いだ…。
・・・§§§・・・
結局、今日から春香は、王子とまるみの二人に挟まれ、厳重体制での登校が始まった。はたから見れば、背が高くすらっとした王子と、女子中学生2人が一緒に歩いている姿は、有名人とそのファンに見えなくもなかった…。そのせいか、中学生だらけの通学路では、だいぶ悪目立ちしていた。その様子に一番最初に食いついたのは…
「おはよう!山村、鳥越!」
畑中は、すっとまるみの隣に並ぶと、小声で聞いた。
「鳥越!山村の隣を歩いている、イケメンのお兄さんは誰だよ?」
まるみは、嫌そうに畑中をちらっと見て、少し考えてから答えた。
「…遠い
「フーン。でも、何で一緒に登校してるんだ?」
「そうですね…。遠方から戻られたばかりで、春香さんとも久しぶりの再会なので、なるべく一緒に過ごしたいんだそうです。」
まるみは、畑中の顔見ずに
「フーン。」
畑中はそう言うと、今度はまるみを押しのけて春香の隣に割り込んだ。
「おはよう、山村!」
「おはよう。相変わらず元気がいいね。」
「お、おぅ。」
畑中を見て、王子が声をかけた。
「こんにちは。君は、春香の友達?」
「はい、そうです。畑中豊って言います。わざわざ学校まで送ってあげるなんて、
山村…さんの事ずいぶん大切に思っているんですね。」
王子は真面目な顔で答えた。
「あぁ。世界で一番大切な人なんだ。」
「へ?…世界でいちばん、ですか。」
そこへ、まるみが口をはさんだ。
「畑中さん!今日、日直ですよね?早く行かれた方がいいと思いますが…。」
「え、そうだったか?」
「そうだったような気がします。」
畑中が学校に向かおうとすると、王子が畑中に話しかけた。
「君!私の思い違いかもしれないが、先日、清音学園で会わなかったかな…。」
「え?そうでしたか。こんなイケメン…ええと、かっこいい人に学校で会ったら覚えてると思うんですけど。」
きょとんとした表情の畑中に、王子ははっとしてまるみの顔を見た。
(マーシャ、能力で彼の記憶を消したな…。こちらの世界で力を使っていたのは私だけではなかったのか。)
まるみは畑中の背中を軽くたたき、声のボリュームをあげて言った。
「畑中さん!早く行かないと先生に叱られますよ!」
「おぅ。じゃあ、失礼します。山村、また後でな!」
そう言うと、畑中は足早に学校に向かった。
春香はと言えば、王子に『世界で一番大切な人』などと言われたものだから、顔がトマトみたいに真っ赤になっていた…。
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