第19話 はじめてのデート③ 

王子がセバスとにらみ合っていると、その肩越しに春香がこちらに戻ってくる姿が王子の目に入った。春香とセバスのいる場所とは、10メートルと離れていない!


(セバスに春香の姿を見せるわけにはいかない。)


王子は右手を上にあげ全神経を集中せた。すると王子の手から青い光の玉が放たれた。それは打ち上げ花火のように真上へと上がったと思うと、光を増し、このフロアすべてを一瞬にして包み込んだ。フロア全体が、青い光のドームの中に閉じ込められ、あたりは静けさに包まれた。そして、王子とセバス以外の生き物全てが静止していた。


「ロメリア王子!!むやみに能力を使ってはいけません。いますぐ元にお戻し下さい。世界のひずみが、より大きくなってしまう可能性があるのです!」


セバスは慌てて王子に駆け寄り、王子の両肩をつかんだ。王子は右手を上にあげたまま、セバスの影を見た。影の中に蠢く者も動きを止めている。王子は言った。


「セバス。頼みがあるんだ。」


セバスは、勢い込んで言った。


「ロメリア王子!なんでも聞きますので、能力を使うのはやめて下さい。いますぐ!」


王子は、セバスの顔を見た。


「セバス。私は、お前と一緒に国に帰る。能力も使わない。ただし、私にも条件がある。」


「何ですか?」


「今すぐには帰れない。こちらでの…社会勉強が終わってからだ。」


「王子!」


「少しだけ待っていて欲しい。私はこのまま帰るわけにはいかないんだ。」


(フェミーナをこのままにして帰るなんて出来ない!何が起きているのか、その糸口もつかめたいまま戻るなんて!)


セバスは、王子の肩から手をはずし、改まって言った。


「ロメリア王子、状況は本当に切迫して…」


「セバス!」


王子はセバスの言葉を遮って続けた。


「待っていてくれたら、お前の影に潜でいる者の事は黙っている。」


セバスの表情が少し強張った。


「心配するな。今は、その者の動きも止まっている。もしかすると…その者の事は、王室も知らないのではないか?」


セバスは、腰に差していた短剣を引き抜くと、王子に差し出しひざまずいた。


「そこまでお気づきなのであれば、私を罰して下さい。今、ここで処分を下して頂いてかまいません。」


「もう、そういうのはいい。」


(マーシャと同じ事をする…。)


王子は小さく溜息をつくと、少し声を強めて言った。


「私は、お前の事を本当の兄のように思っているのだ。お前がむやみに悪事に手を染めるとは考えられないし、考えたくない!詳しい事情は、アトミラート王国に戻ったら聞く。その代わり、もう少しの間だけ待って欲しいと頼んでいるのだ。」


セバスはひざまずいたまま、王子の目をじっと見上げていた。


「わかりました。今日のところは、ここを立ち去ります。でも、長く待つ事は出来ません。」


「わかっている。」


「…王子がその右手を降ろして下さったら、私は消えます。でも、本当に時間がないんです。長くは待てません。場合によっては、私も強行手段に出ざるを得ないかもしれません。」


王子はセバスを見つめた。今まで、いつも王子を励まし導いてくれたその目は、今日は悲しみと少しの怒りを宿しているようにも見えた…。



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