第11話 突然の同居生活!
「ただいまぁ!」
春香が引き戸を勢いよく開けると、居間の方から声が返ってきた。
「おかえり。」
春香は、靴を大急ぎで脱いで居間に飛び込んだ。居間には、ジャージ姿でこたつに入りながらテレビを見ている王子の姿があった。
「まだ、ここにいたんですね。」
王子は、テレビ画面を消して笑顔で言った。
「あぁ。おかえり、春香。」
ほっとしている春香の隣では、まるみが無言で王子の事を見つめている。そして王子の方も、まるみをじっと見ている。春香は慌てて言った。
「あ、あの。こちらは、私の学校のお友達で鳥越まるみさんです。」
「…はじめまして。鳥越まるみです。」
まるみは、礼儀正しく王子に向かって一礼した。
「はじめまして。私は…。」
口ごもる王子の後を引き取って春香が言った。
「こちらは昨日学校で偶然お会いした方で、昨晩ここに泊まってもらったの。
あの、記憶がないみたいで。それで…今日はきよえさんと警察に行きましたか?
帰る所、見つかりました?」
「いや。」
「いや、とは?」
(というか、きよえさんはどこに行ったの?)
心の声に答えるように、王子がにっこりと笑って言った。
「きよえさんは、1週間程ヨーロッパ旅行に行くそうだ。その間、私が春香とここで留守番をする事になった。」
「そうでしたか!」
(きよえさんは、すぐ勝手に旅に出たりするから…。って)
「え________________っつ!!!!」
春香は大声を出して、後ずさりした。すると、背中が何かにぶつかった。
敦だ。いつの間にか家に入って話を聞いていたようだ。
「はぁぁ?なんだって??」
続いて、もっと大きな敦の声が居間に響き渡った。王子は、その気迫に気づいているのかいないのか…ほがらかに敦にも説明した。
「敦。昨日はいろいろと世話になったな。この服も、動きやすくて気に入っている。きよえさんが1週間旅に出るので、敦にもよろしく伝えて欲しいと言われていたのだ。」
「違う、違う!そうじゃなくて、お前、いや、あぁ、名前ないとやりにくいな!
とにかく、そこの王子!春香と二人で暮らすなんて、絶対に許さないぞ。」
敦は大きな声でわめくと、春香に向かって言った。
「春香だって困るだろ?」
春香はあまりに驚きすぎて、もごもごと答えた。
「困るけど、でも、王子様行く所がないし…。」
(二人で、1週間ここに暮らす?どうして、こんなことに…。)
春香は、両手を組み合わせて脳みそをフル回転させていた。そんな煮え切らない春香を見て、敦が言った。
「じゃあ、俺もここで暮らす!」
春香とまるみと王子は、
「あっちゃん?あっちゃんも一緒に暮らすって言っても、家隣だし、お父さんもお母さんも困っちゃうよ?なんか、それって変じゃない?」
「関係ない。」
「関係ないって…」
春香はますます混乱してしまい、気が付くとその場にしゃがみこんでいた。
そこに、まるみの静かな声が割って入った。
「わかりました。」
春香がまるみを見上げると、まるみはにっこりと笑って言った。
「きよえさんが戻るまで、私がここで一緒に暮らします。」
「え…?」
まるみは、次に敦の方を向いて言った。
「敦さん、でよろしかったですか?」
「はい。」
「敦さんも、春香さんと彼が二人きりじゃなければいいんですよね?」
「まぁ。確かに。」
「では、そういう事で。春香さん、しばらくお世話になってもいいですか?」
「うん!まるみちゃんがいてくれたら心強いし、何だか楽しそうだけど…。お家の方は大丈夫なの?」
「話した事がなかったかもしれませんが、私、実は一人暮らしなんです。」
「え!」
「と言っても、もちろん保護者はいます。実の両親ではないですが。ただ、同居してはいないんです。ちょっと複雑でして…。なので、家は大丈夫なんです。
すぐに、荷物をとってきますね。」
まるみはそう言うと、玄関に向かった。敦は、まだ不満そうに王子の事を軽くにらんでいた…。
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