第10話 まるみちゃんが怒ったら…⑤

畑中が吉田と田中とじゃれあっているのを見ながら、まるみが言った。


「お友達も迎えに来たようですし、二人で先に帰りましょ?」


「うん…そうだね。」


(畑中の事も気になるけど、今は、王子様が気になる…。畑中、ごめん!)


春香は心の中で畑中にあやまり、まるみと教室を後にした…。


学校を出て二人きりになると、まるみはさっそく切り出した。


「それで…春香さんは、今日はなんで早く帰りたいんですか?」


春香は少し迷ったが、相手は親友のまるみだ。


(ここで、変にごまかすのも…ね。)


「昨日さ、図書室に閉じ込められたじゃない?」


「はい。畑中のせいで。」


まるみの顔がまたけわしくなりそうだったので、春香は急いで続けた。


「それで、その時に…を拾っちゃって。というか、連れて帰って来ちゃって。」


「猫とかではなく?…人ですか?」


こうやって説明してみると何だかおかしな話だ。


「うん。お腹空かせてて、とにかく連れて帰ってきて、そのまま家に泊まって。」


「泊まった?」


「うん。それで、その人記憶をなくしてて。」


「その人、記憶喪失なんですね。」


「うん。多分きよえさんが、病院とか警察とかに連れて行ってくれてると

思うんだけど。それで、解決しててもう家にはいないんじゃないかと思うんだけど…。」


「はい。」


「もし解決してなかったら、心配だなって。力になってあげたいなって。」


(それから、もう一度会いたいなって。)


まるみは、少し赤くなった春香の横顔を見ながら言った。


「そうでしたか…。私も、その方の事が心配なので…もしよければ、お宅に少し寄らせて頂いてもいいですか?」


「うん。もちろん!」





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