第8話 まるみちゃんが怒ったら…③
まるみは、畑中からジャージ男に目をうつした。そして、ヒュッと息を吸い込んだ。
「あなたは…。」
王子は、まるみを見て言った。
「君は冷静ではない。マーシャ、落ち着くんだ。」
今や赤いオーラは大きさを増し、ほとんどまるみの体を包み込んでいる。
畑中が言った。
「…鳥越、その赤いのは何なんだよ?マーシャって、誰の事だ?」
その瞬間、まるみの手から力が抜け、眼鏡が地面に落ちた。眼鏡の下のその瞳の色は、血のような濃い赤色をしていた。すると、ジャージの男が素早く二人の間に割って入り、まるみのみぞおち辺りに手をあてた。その手は一瞬青く光り、まるみは気を失ってその場に倒れた。
男は落ちていた眼鏡を拾い、まるみにそっとかけた。
男は、畑中の方に向き直ると、にっこり笑って言った。
「こんにちは。」
畑中は、少し後ずさりしながら言った。
「今のは、なんなんですか?赤くなったり、青く光ったり、手品かなんかですか?
超能力?そんなわけないか…。はははははは」
畑中の乾いた笑いだけがその場に残り、男二人はそのまま見合っていた…。
そこに、春香が現れた。
「畑中!こんな所で何やってるの?そこに倒れてるのは、まるみちゃん!?」
春香は、慌ててまるみに走り寄った。
「まるみちゃん!しっかりして!まるみちゃん!!」
まるみは、いっこうに目を開けようとしない。
畑中も、一緒にまるみの近くにしゃがみこんだ。
「鳥越!おい、しっかりしろ!」
春香は、まるみから目を離さずに聞いた。
「畑中。何があったの?…まるみちゃんに、何かした?」
「俺は何もしてねぇよ!ただ、鳥越に連れてこられて…鳥越が赤くなって。それに、鳥越を倒したのは、あの男で!」
畑中は真っすぐに教会の方を指さしたが、そこには誰もいなかった…。
春香が言った。
「畑中!」
「はい?」
「とにかく、まるみちゃんを保健室に連れて行こう。」
「あぁ…。でも、」
「でも、じゃなくて!」
春香の勢いにおされ、畑中は春香と二人でまるみを両脇から支え、ひとまず保健室に向かった。
「一体、どうなってんだよ…。」
畑中は不満げにつぶやいた。
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保健室に行くと、ケガをした生徒の付き添いで外出しているとかで、先生は不在だった。他に使用している生徒もいない。
二人は、空いているベッドにまるみを横たわらせ、ホッと息をついた。
まるみは、まだ目を覚まさない。畑中は言った。
「あのさ、山村。」
「うん?」
「さっき教会の前に、もう一人いたんだよ。」
「え?誰もいなかったよ。」
「いや、なんかジャージ着たイケメンがいてさ!」
「…うちのクラスの人?」
「いや、それなら俺もしってるだろうが!」
畑中が大きな声を出した時、まるみが動く気配がした。
「まるみちゃん?」
春香は急いで、まるみの枕の近くに行った。
「春香さん、ここは、保健室ですか?…春香さんが連れて来てくれたんですか?」
「うん。でも、私一人じゃないよ。畑中が一緒に連れてきてくれたの。
だから、昨日の事許してやって。私が言うのも変だけどさ。」
「そうでしたか…。」
まるみが、畑中の方をちらりと見た。
「春香さんが、そういうなら。今回の事は、もう忘れます。」
「よかった。」
春香は無邪気に笑った。まるみは、春香に言った。
「私、貧血で倒れてしまったようで…。少し栄養補給すれば、体が楽になると思うんです。申し訳ないのですが、自動販売機で、何か飲み物を買って来てもらえますか?」
「わかった!すぐに買ってくる。畑中、少しここ頼むね。」
春香は、小走りに保健室を出て行った。
畑中とまるみは、保健室に二人で残された。
「畑中さん。」
まるみは、静かな声で畑中に話しかけた。
「…はい。」
畑中は、ベッドから少し離れた場所にある椅子に座ったまま答えた。
まるみは言った。
「先ほどは、運んでいただきありがとうございました。」
「あぁ。…鳥越、ちょっと聞きたいんだけど、さっき、お前なんか様子が変だったよな?」
「…そうでしたか?」
「なんか、赤いものが体のまわりに、こうボウッと…」
「今日は4月の割に暑いですから、
「そう、か?」
畑中が首をかしげていると、まるみが言った。
「畑中さん、ちょっとこちらに来て頂けますか?」
畑中は、しぶしぶまるみの寝ているベッドに近づいた。
・・・§§§・・・
春香は、野菜ジュースを片手に保健室に戻って来た。
「まるみちゃん、ジュース買ってきたよ。あれ?もういいの?」
まるみはすでに立ち上がっており、春香の姿を見るとにっこりと笑って言った。
「はい、もうすっかり大丈夫です。ジュースいくらでした?」
「100円…。あ、お金はいいよ。お見舞いだよ~。」
「ありがとうございます。」
まるみは、そう言うとジュースを受け取った。春香は、保健室を見回して言った。
「あれ、畑中は?」
「少し疲れたので、保健室で休んでいくそうです。」
まるみはそう言って、さっきまで横になっていたベッドの方に目をやった。
そこには、確かに畑中が眠っていた。春香は言った。
「…昨日、夜更かししてゲームでもしてたのかもね?
今回の働きに免じて、先生にはうまく言っておいてあげよう!
じゃあ、教室戻ろうか?」
「はい。昼休みも終わってしまいますしね。」
そこに、昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り始めた。
「あ、チャイムが鳴った!戻らなきゃ!」
春香はそう言うと、先生の机にあったポストイットにメモを書きつけ、
畑中を残したまま保健室を後にした。
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