第5話 王子様と朝ごはん
4月の朝は、まだヒンヤリとしている。春香は、ぼーっとした頭で制服に着替え、とりあえず2階の自分の部屋から出ると、1階に降りていった。トントントンと階段を一つずつ降りながら考えていた。
(何だか、色々あったような…。)
朝ごはんを食べようと台所に入ると、食卓には、きよえさんと朝ごはんを食べている学校ジャージを着た王子の姿があった。(学校ジャージは、王子ファッションだと目立ちすぎるだろうという事で、敦が昨日おいていってくれた物だ。)
「あ!?」
春香が、やっと昨日の事をすべて思い出し、口をパクパクさせていると、王子がにっこりと笑って言った。
「おはよう。やまさん」
「おはよう、ございます。」
真っ赤な顔をして春香が台所の入口に立っていると、きよえさんが言った。
「春香も、早く食べて。学校に遅れるよ。レッツ イート!」
「はい…。」
春香は炊飯器の前に行き、自分の茶碗に山盛りにご飯をよそう。
(しっかり食べて、目を覚まさなきゃ!)
きよえさんの隣に座り正面を見ると、王子がフォークで刺したたくあんをポリポリと食べている。
(王子様が目の前にいると、何だか緊張しちゃう…。)
春香はわざと前を見ないようにして、食事に集中した。
(お味噌汁飲んで、次は白いご飯食べて、次はたくあん食べて、次は卵焼き…
王子様を見ないように、一つ一つの食べ物に全集中!)
「ヤマさんはたくさん食べて、健康的だな。」
王子がふいに言ったので、春香は驚いてのどが詰まりそうになった。
ゲホゲホッ ゲホッッ
「何やっているんだい、春香は。」
きよえさんが水をとりに台所に行ってくれる。春香は、言った。
「あの、私、ヤマさんじゃないんです。春香です。は、る、か。」
すると王子が、言った。
「そうか、すまない。」
「はい。」
「…本当に、それがお前の名前なのか?」
「え?」
「いや…かわいい名前だな、春香。」
春香は、急に暑くなった気がして、きよえさんが持ってきてくれた水を一息に飲み干した…。
身支度を終えて時計を見ると、春香が家を出る時間まで後10分しかなかった。
あまりもう時間がない。春香は、王子に言った。
「あの、昨日ちゃんと聞くべきだったんですが…。お名前は、何ていうんですか?」
「……。」
王子は、少し困ったような顔で春香を見返した。春香はさらに言った。
「それから、あの、どこから来たんですか?昨日、何だか光の中から…出てきたような気がして。」
王子は、言いづらそうに口を開いた。
「それが、だな。」
「はい。」
そして、王子は、覚悟を決めたようにはっきりと言った。
「私にもわからないんだ。」
あんまりな答えに、春香は大きな声で聞いた。
「え?何がわからないんですか?」
「…何も。」
「なにも?」
「私が何者で、どこから来て、どうすればいいのか。私自身にもわからないという事だ。」
(これは、
春香がおろおろしていると、きよえさんが割り込んできて春香の背中をばしっと叩いた。
「春香!なにやってんだい。遅刻するよ!」
「でも、きよえさん、何も覚えてないって…」
「話は聞いてたよ。オーライ、オーライ!どうにかするから、春香は学校に行ってきなさい。ゴー ゴー!」
「でも…」
「ハリハリ―!遅刻はだめだよ!」
色々心配だったけど、とりあえず春香は学校に向かう事にした。玄関を出て少し歩いた後、家の方をきゅっと振り返った。
(王子様、大丈夫かな?それに…このまま、会えなくなっちゃうのかな。)
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