第2話 はじまりの日②
吉田と田中は、図書室を出てすぐにスマホを取り出し、畑中に電話をかけた。
「あ、もしもし
『え、いま?!』
「図書室の書庫に。」
『なんで、そんなところに…』
「だって、告るんだろ?誰も来ない方がいいかと思ってさ。」
『ば!そんなんじゃねえよ。』
「まあ、まあ。いいじゃんいいじゃん。早く行って来いよ!鍵かけちゃったから、早く行った方がいいかも。」
『な!おまえ、それ一歩間違ったら犯罪だぞ!』
「だいじょうぶだろ。すぐ開ければばいいんだから~。」
畑中はあわててスマホを切ると、ダッシュで図書室にむかおうとした。
その時、八木先生に素早く腕をつかまれた。
「畑中、廊下を走るな!」
「先生、俺急いでるんです。」
「もう下校時刻だぞ。帰りの会で聞いてなかったか?今日は緊急職員会議で、生徒は急いで帰る事!ほら、急げ急げ。」
「友達が図書室で待ってるんですよ~。」
「図書室?さっき中確認して、もう閉めたぞ。」
「え…誰もいなかったですか?」
「いなかった、いなかった。帰れ帰れ~。寄り道するなよー。」
畑中は、そのまま先生に押し出されるように昇降口まで連れていかれた。
(本当に、山村いないのかよ…?)
畑中は不安だったが、昇降口でこっちを睨みつけている八木先生の圧力に負け、そのまま帰宅するしかなかった。
「日頃の
畑中は、校庭から図書室のある校舎の2階あたりに目をやった。図書室の明りは消えているように見えたが、書庫の様子まではよくわからなかった。
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「…お腹空いたなぁ。」
そして、春香は書庫の中。どうやら、誰も図書室に来る気配はなさそうだ。
さっきまではオレンジ色だった空も、だんだんと薄紫色に染まり、あたりは暗くなり始めている。
「そういえば、今日の星占い12位だったっけ。」
春香はがくっと首をうなだれた。大きな声で叫んだり、ドアを叩いたり、いろいろやってみたけれど、どれも誰の耳にも届かなかったようだ。春香は疲れはてて、ペタンと冷たい床に座り込んだ。
「朝までこのままだったらどうしよう…。」
不安な気持ちを止めたくて、三角座りの膝を両腕でぎゅっと抱き寄せ、顔をうずめた。しばらくそのままのポーズでじっとしていたが、何だかまわりが急に明るくなったような気がして、顔をあげた。
すると、目の前に、大きな光の玉のようなものが出現していた。
その光の玉は、はじめは腕で抱えられるくらいの大きさだったが、どんどんふくれあがり、とうとう人間一人をすっぽり包み込んでしまえる程の大きさに成長していった。怖くて逃げたいのに、あまりに驚いたのとその光の美しさに見とれて、春香は三角座りのまま動けない。
光の玉はさらに白く強く光り、閃光をはなったかと思うと、ドサッと何かをその場におとして消え去った。
春香は慌てて立ち上がり、それから一番離れた壁にへばりついた。はたして、そこに落ちていたのは…
(…人間?)
それは、ピクリとも動く様子はない。
とりあえず危険はなさそうなので、半歩だけ近寄ってみる。
(…おとこの人?)
それは、春香よりは1つか2つ年上に見えた。
男は春香の方に顔を向けた状態で、床に横たわっている。
もう半歩前に出てみる。
(……おうじさま?)
そんなわけ、ないけど。そんなわけ、絶対にないけど。彼の服装は、王子様、もしくはアイドルでしか着ないような、きらびやかな真っ白い衣装だった。上着は腰までかくれるようなデザインで、肩には豪華な飾りがついている。そでや上着の前を留めるボタンは金色に輝き、洋服のあちこちに金糸で刺繍もされている。
今度は2歩前に出てみる。
(ねむってる?まさか、死んでる??)
そう思いついて、春香はあわてて近寄り、男を仰向けにすると左胸に耳をあててみる。
ドクン ドクン ドクン
(よかった!生きてる。)
春香はほっとし、止めていた息をゆっくりはいた。
そしてその時、初めて男の顔をすぐ近くで見た。
その顔は、あまりにきれいで…顔だけ見ていれば女の子と間違えてしまいそうな美しい顔立ちだった。色白の肌、長いまつ毛、切れ長の目、高い鼻。髪の色は、薄い茶色で、やわらかそうだった。その時、男の
「……ここは、どこだ?」
「!」
春香は男のそばから離れると、また壁にへばりついた。彼は、ゆっくりと上半身を起こし、驚いたような顔で春香を見つめている。
「あ、あ、あの、大丈夫ですか?」
春香は、男に話しかけた。男は春香の顔を、なおもじっと見つめながら言った。
「あぁ…。君の、名前は?」
「私は、やま、やま、山村春香、です。」
「やま、さん?」
「違います!やまむら はるかです。」
「はるか、さん?」
「はい!」
男はしばらく春香の顔を探るように見ていたが、ゆっくりと立ち上がると周りをぐるりと見回した。この奇妙な状況に、少しも動揺していない。立ってみると、思ったより背が高い。そして、王子コスプレも、まったく違和感が感じられないのがすごい…。やっぱり、まさかだけど、本物の王子様なのだろうか。
プルルルルルル
プルルルルルル
その時、図書室の方で、スマホのなる音が聞こえた。
(あ、私のスマホ鳴ってる。リュック、図書室に置きっぱなしだ…。)
男は音に機敏に反応し、さっと身構えている。
「なんだ?この音は。」
「あ、…私のスマホです。」
「…すまお?」
「違います。スマートフォン…えーと、電話です。でんわ!」
「なるほど!じゃあ、早く出たらいい。」
「出たいんですけど、そこのドアに鍵がかかっていて、ここから出られないんです…。」
男は、少し考えてから言った。
「…わかった。」
「え?」
「ちょっと、後ろに下がって。」
男はドアの方に向かい、右の手の平をノブにむかってかざした。
すると、ドアのノブが一瞬青く光ったように見え、その後、ガチャッと音をたてた。男は言った。
「もう、鍵はかかっていない。早く電話をとりなさい。」
「はいっ!」
春香がおそるおそるドアに手をかけると、ドアは開いていた。
プルルルルル
プルルッ
春香は、何とか切れる前にスマホをスワイプした。
「もしもしっ!」
『はるか?お前、帰ってくるの遅すぎるだろ。きよえさんが心配してるぞ。』
「あっちゃん?…よかった。」
電話をかけてきたのは、
『はるか?どうした??』
敦の心配そうな声が聞こえる。
「ちょっと、閉じ込められちゃって…。」
『どこに?』
「学校の…図書室。」
『すぐ行くから待ってろ!』
「あ、でも…」
電話はせっかちに切れた。敦が猛ダッシュして、こちらに向かっているのが目に浮かぶようだ。同い年なのに、いつも心配性のお兄ちゃんみたいなのだ。
「電話は、とれたか?」
振り向くと、いつの間にか、王子様が春香の後ろに微笑みながら立っていた。
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