図書室で王子様ひろいました。
くるみ
第1話 はじまりの日
誰かに、呼ばれたよう気がして振り返る。
その人は、私にとって大切な人。
顔が見たい。
話がしたい。
遠くに立っているあの人は、私に話かけている。
でも、どうしても足が動かない。
そうして、どんどん霧に包まれる。
もう何もわからない。
だけどすごく懐かしい。
涙が目の端からこぼれ落ちる。
いつも、ここで目が覚める。
____________________________________
(また、あの夢か。)
最近、毎晩のように同じ夢を見る。
私を呼ぶあの人は、一体誰なんだろう…。
もう咲き終わってしまった桜の花びらが、目の前をかすめる。
「おはようございます。」
ちょっとうつむき加減に春香に声をかけたのは、
「おはよ!」
この春から二人は中学二年生。気持ちのいいまぁるい空気の中、
「わりぃ、わりぃ」
左手を拝むように顔の前に出しながら、クラスメイトの畑中
「あっぶない。登校中にふざけないでよ。ぶつかったらどうするの。」
春香は口をとがらせて畑中の肩を小さくどつく。
「そんなにつんけんすんなよ!わざとじゃないんだって。ごめんごめん。」
まるみが、無言で巾着袋を畑中の前に差し出す。
「鳥越、ありがと。わりぃな!」
畑中は袋を受け取ると、ニヤニヤしながら吉田と田中のいる所に戻っていった。畑中は、いつも吉田と田中と3人でつるみ、悪ふざけが度を過ぎる事があるのだ。
「相変わらず、
まるみが、眼鏡のずれを直しながらいやそうな顔をした。
「そんな事ないよ。そこまで悪い奴じゃないと思うけどな。」
「春香さんは、いつでも優しすぎます。」
まるみは、
・・・§§§・・・
「それでは、これで帰りの会を終わります。きりーっつ、礼。」
日直のかけ声と共に、やっと一日の授業が終わった。
春香は手で口元を抑えながら、あくびをこっそりかみ殺した。生徒達がざわざわと
一斉に帰り支度を始める。名前を呼ばれた気がして振り返ると、
「山村さんいますか?」
教室のドアの辺りで、見たことのない男子が春香を呼んでいる。
「これ、八木先生が山村さんに渡してって。」
そう言って、彼は小さなメモを差し出した。
そのメモには、
“書庫にある『植物図鑑大全第24巻』を職員室にもってきて欲しい。八木”
と書かれてあった。
(元図書委員だからかな?今はちがうのに…)
春香はまるみに声をかけた。
「まるみちゃん、先に帰ってて。先生に頼まれごとされちゃった。」
「わかりました。気をつけて帰って下さいね!」
まるみが手を振るのを見送って、春香は図書室へと向かった。この学校の図書室は、蔵書が少ないせいかあまり
「司書さんもいないんだ…。」
春香はひとり言をいいながら、机にリュックサックをドサッと降ろすと、書庫に向かった。
「勝手に入らせてもらいますよ~」
なんとなく断りを入れて、図書室のカウンターの裏手にある、書庫のドアを開けて中に入る。ぎっしりと並べられた本の背表紙を指で順になぞりながら、植物図鑑を探していると…
ガシャン!
ドアのあたりで大きな音がした。嫌な予感がして、春香は書庫のドアに手をかけた。
(開かない。)
ガン、ガンッ
力を入れて開けようとするけど、びくともしない!?
「うそでしょ…」
一方図書室の中では、吉田と田中が無言でガッツポーズをしていた。
春香を呼び出した犯人はこの二人。書庫のドアに鍵をかけたのだ!
「畑中に電話して、図書室に来るように言おうぜぃ!」
「山村と二人になりたがってたから喜ぶぞ~」
と小声で話している。
「ちょっと誰かいるの?ここ開けて!!」
人の気配を感じて、春香は書庫の中から叫んだ。
「山村、ちょっと待ってて~。」
「山村と話したいやつが来るからさ。」
吉田と田中らしき声がする。
「吉田?田中?ちゃんと待ってるから、ここ開けてよ!」
ドン ドンッ!!
春香の声を最後まで聞かずに、吉田と田中はのんきに図書室を出て行ったのだった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます