第5話

というわけで、俺は課題曲も自由曲も伴奏をすることになった。なかなかにめんどくさいがピアノを弾くことは好きなので特にいやというわけではない。

文化祭まで残り三週間くらいだ。俺は三週間あればだいたいの曲は弾けるようにはなるが、それでも二曲は結構な練習量が必要になる。

でも、まあ、なんとかなるか。


今日の放課後はさっそくパート練習らしい。俺は伴奏の練習なので、居残りなど関係ないが。早く帰りたい人には申し訳ないが、ちょっとやり返した気持ちになる。



「ちょっと、あんた何帰ろうとしてるのよ?」

「練習サボったらダメじゃない」

「あんたみたいなのがいるからみんなやる気なくなるのよ」

「まじ、空気読めよ」



また絡んで来やがった、暇かこいつらは。

誰か助けてくれー、たのむー


「いやピアノの練習しないといけないから帰ってピアノ教室に行くよ」

「はあ?」

「学校のピアノでも練習できるやんけ」

「なんであんただけ特別扱いされるん?」

「それなら、あたしだって帰って一人発声練習したいわ」

「何?一人発声練習って?アハハハ!」

「「「アハハハ」」」


うっざー、ほんまにうざー、何なんこいつらまじで!



「まだ人に聞かせるような出来じゃないですから、個人練させてください。」

「はあー、あんた何様のつもりなん?」

「こっちのセリフじゃ」

「は?」

「あ、いや、なんでもないです」

「てか、あんたの伴奏なんて誰も期待してないから」

「それな、やる気はあるみたいだけど」


もう、会話も成り立たないし、時間の無駄だな勝手に帰るか。そう考えていた時、



「おーい、古町練習行っていいぞー」

「「「「「先生」」」」」

「先生はあいつ特別扱いする気ですか?」

「まあ、伴奏だからなー、おまえが変わって伴奏やるか?ん?」

「いや、いいです」

「他の奴らもこれ以上古町に構わず自分のパートの練習やってろ」

「「「いや、でも」」」

「んだよ、おまえら別に他人に指図出来るほどの人間でもねーだろ。見ていて恥ずかしいぞ。

さっさとパート練習やれ」

「「「…はい」」」

「古町もちゃんと帰って練習しろよ」

「はい!」



どうやら俺は担任の先生には恵まれたのかもしれない。彼女の名前は佐藤 静香(さとう しずか)。誰に対してもあんな感じなんだろうな。いい先生だなと思ったが、優柔不断な俺とは気が合わないだろうなとも思った。





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