十五章4

 *



 夜の私は美しい。

 まばゆい金髪。透きとおる白い肌。華やかな顔形。たいがいの美形は、目元はキレイでも鼻筋に難がある。でも、私は違う。大きすぎず、小さすぎず、高すぎず、低すぎず、気品よく整っている。美貌を最後に決定づけるのは、目ではなく鼻筋だ。


 きれいな私。この時間は鏡を見るのが楽しい。月明かりでしか見られないことが残念だけど。昼のあいだは、あのそばかすだらけの醜い凡庸な男のなかに封じられているから。


 夜になると、あの男が眠る。そのとき、やっと、私は解放される。今夜も恋人を求めて出ていきたいけれど……。


 しばらくはやめておこうと、もう一人の私が言った。とても大事な儀式が間近に迫っている。もう充分、力はたくわえられた。生贄も見つかった。彼を手に入れることができれば、こんなふうに隠れ続ける必要はなくなる。昼間の束縛をすて、新しい自分になれる。


 ワレス小隊長か。彼なら悪くない。とても綺麗。でも、今の私のこの美貌をすてるのも惜しい気がする。


 それなら、コレはおまえにやろうと、私が言う。そして、今までどおり、私のために力を集めておくれ、と。


 ああ、それはいいね。昼間はほんとによかったものね。あの綺麗な小隊長と深く重なりあって、夢のようなひとときだった。あんなことが、これからはずっとできるんだね。


 昼のことは、私が独断でしたんだって? そうなんだ。このごろ、私の体は勝手にうろつきたがる。困ったね。なんでだろう。

 小隊長のせいだ。彼の潜在的な魔法の力が、あいつの意識を呼びさますんだ。


 あいつは邪魔者。一人のなかに三人が住むのは、やっぱりムリがあるんじゃないの? そろそろ、あいつを処分してしまいたいよ。


 それはまだ、よしたほうがいい。あいつの純真な心が表に出ているからこそ、誰もおまえを疑わないんだからな。


 純真な私。悪魔の私。

 誰だっけ? 私を悪魔だなんて言ったのは?


 誰だって心のなかに悪魔を飼ってるものなんだよ。


 そうだよね。私が悪いわけじゃない。だって、私はこんなに美しいんだから。ねぇ、今夜も散歩に出ていい?


 ダメだ。ワレス小隊長は油断がならない。


 でも、おまえはまた行っちゃうんだろう?


 ああ。いい子で待っているように。


 そんなの、つまんない。ちょっとくらい、いいじゃない。月光を全身にあびた私は、夜の精霊みたいなんだから。ねぇ?

 あーあ。行っちゃった。私も出かけようか。誰も殺すわけじゃない。ちょっとだけ、外を歩いてみるだけ……。

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