十二章2
美しい裏庭。
西日があふれ、花も葉も金色に輝いている。
都合のいいことに、ロンドの白髪も金色に染まって見えた。すれちがう見張りの兵士が、ロンドをふりかえっていく。ロンドは背丈もワレスより低く、骨組みも細い。自分でも言っていたが中性的なので、女のいない砦では、よけいに人目をひく。
「アトラー隊長なら、もっと嬉しかったんだがな」と、ロンド。
「文句を言うな。その服は一式、おまえにやるから、あとでジュールでも誘惑してやれ」
「ジュールなんて私の好みじゃない。あのだみ声がダメ。私の一族は容姿もさることながら、美声にひかれるんです」
ジュール、一生むくわれないなと考えながら、話題を変える。
「ウワサのエンハートも、おまえみたいなヤツかな。察するに、女性的な美形らしい」
「誰ですって?」
「エルマの行方不明の兄だ」
「ああ。あの女」
ワレスはよこ目でロンドをにらむ。
「おまえも気づいていたなら、言ってくれればいいだろう」
「ちゃんと言いましたよ」
「言ったとも。私のこの世で一番嫌いなもの、と」
「そのとおりじゃありませんか。女なんて、この世から一人残らず消えてくれればいいのに」
あんなに可愛いものの価値がわからないなんて、やっぱり性格が破綻しているんだなと、ワレスは考えた。
「そんなおまえを見込んでの仕事だ。頼んだぞ」
「あなたのためですから、きっと成功してみせますよ」
ロンドはワレスの手をとり、かるく接吻した。ジゴロのころの仲間同士での恋愛ごっこを思いだして、ワレスは少したじろいだ。
ロンドは一人、離れていく。例の木札をかけた通用門のあたりだ。ロンドが柵近くの木の枝に腰かけるのを見て、ワレスとハシェドは木陰に身をひそめた。
「うまく、ひっかかってくれればいいが」
「大丈夫ですよ。おれだって、あれがロンドだとわかってなければ、ちょっと、どうなるかわかりません」
ハシェドが言うので、ムッとする。
「ふうん」
「まともにしてたら、美形だったんですね。セイレーンの女神って、あんなだったんじゃないかな。なんで、いつも、ああしてないんでしょう」
「性格が破綻してるからだ」
「あれ?」
ハシェドはワレスの顔を見なおす。
「なんで怒ってるんですか? もちろん、隊長のほうがずっと美男子ですよ。隊長は女神っていうより、ファートライトみたいだ。近衛隊の銀のよろいと純白のマントをつけたら、すごく似合うだろうなぁ」
臆面もなく褒めるので、頬が赤くなるのを感じる。ワレスは顔をそむけた。
物陰に隠れて、どのくらいの時間が経過しただろう。
日が落ちて、月が出るまでの夕闇のなか、ユーグは現れた。まるで手負いの獣みたいに、あたりを見まわしつつ近づいてくる。ロンドを見つけたユーグは、ハッとして両手をにぎりしめた。ブルブルこぶしをふるわせていたが、ロンドが手招きすると、ふらふらと近より、そして——
「あーれー」
「いかん。いつものロンドに戻った」
いきなりナイフを出して、ユーグはロンドにとびかかる。ワレスたちは木陰からかけだし、両側からユーグを押さえた。
「観念しろ。言いのがれはできないぞ」
ユーグは荒い息をついていたが、唇をかんでうなだれる。
「よし。ロープだ。ハシェド」
用意の縄で縛ろうとすると、ユーグはまた暴れだす。近くで見ると、以前はけっこう男前だったのだろう。アトラーほど筋肉質ではないものの、男らしく渋みのある男ぶり。左の頬から耳までが無惨にひっつれている。
「ちくしょう! おれが何をしたっていうんだ!」
「今、ロンドを殺そうとしたじゃないか」
「そ、それは……」
「ナイフを持ち歩いているのは仕事のせいだとしてもだ。庭師なら、斧も自由に使える」
「ま……待ってくれ! あんた、何を言ってるんだ」
「おまえを連続殺人事件の被疑者として捕まえる。そう言ってるんだよ」
青くなるユーグをひったて、地下の牢屋へつれていった。
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