第4話 足柄山カップ開幕!

 「いよいよだね、ポーラ!」

 「はい、金太さん!」


 ポーラと金太は、神奈川県内の野球場の中にいた。


 球状の中心には、ケージで囲われた特設リングが設置されている。


 リングアウトなし、寝技ありの総合格闘技ルールで行われるのが足柄山カップ。


 他の分校からも参加した選手とマネージャー達が、リングを囲むように整列していた。


 開会の花火が上がると、リングの上に一人の小柄な女性が入って来る。


 ピンクのジャケットとスカート姿のツキノワグマのクマ娘の女性であった。


 「選手諸君、よくぞ集った! 私が主催者の神奈川支部長だ♪」


 支部長が名乗ると同時にまた花火が上がる。


 全国高等専門学校キューティーファイト協会の神奈川県支部長の登場であった。


 「あれが、現役時代はツキノワちゃんの愛称でクマ娘柔道の金メダリストにもなった人か」

 「ええ、キューティーファイトに転向してチャンピオンにもなった人です♪」

 金太とポーラが、支部長を見ながら小声で話す。


 「諸君、温泉に行きたいか~~~っ?」


 可愛らしい声で叫ぶ支部長の叫びに、参加しているクマ娘達が雄叫びを上げてレスポンスした。


 「全国大会の副賞はペアでハワイ旅行だぞ~~~っ?」


 支部長が全国大会で優勝した場合の副賞も告げると更に雄叫びが上がる。


 「県大会を越えて全国優勝をめざしてくれ~~~っ!」


 最後の支部長の叫びにも雄叫びが上がった。


 「支部長の仰る意味がわかりませんね?」

 「ようするに、県大会優勝で満足するなもっと上を目指せって言ってるんだよ」

 「ええ、上を目指すのはわかりますがなぜあんな言い方なんでしょうか?」

 「ああ、そのな? 温泉が有名な県ではその、県大会で優勝して旅行先で浮かれすぎて子供が出来て本戦欠場した例が結構あるからなんだよ」

 「……そ、そういうことでしたか! そ、それなら意味が分かりました!」

 「とにかく、まずは勝ち上がる事を考えよう!」

 「はい、がんばります♪」


 温泉旅行の罠に嵌るか乗り越えられるかはともかく、優勝しなければ確かめられない事だった。


 開会式が終わり、一回戦が始まる。


 「開会後早々ですか、やります!」

 「本校のシロクマか、相手にとって不足なしだ」


 しょっぱなからポーラの出番、相手は鎌倉分校のグリズリーのクマ娘だった。


 クマと言うよりライオンの鬣の如き黒髪をなびかせる、カナダ国旗水着な勝負服のグリズリーとプラチナブロンドヘアーのポーラ。


 まさに白と黒な二人がリングに入って睨み合うと、試合開始のゴングが鳴った。


 「スキル発動、グリズリータイラント!」

 「スキル発動、ポーラーエクスプレス!」


 両者共に、試合開始と同時にスキルを発動。


 ポーラとグリズリー、二メートルの巨体同士がぶつかり合う!


 ぶつかり合いに勝ったのはポーラ! ふらついたグリズリーに対し、ポーラは外門頂肘を叩き込みリングの恥まで吹き飛ばした!


 「ぐはっ! 負けてたまるかっ!」


 だがグリズリーもタフだった、砲弾のような低空タックルでポーラへと突っ込む。


 「こちらもぶちかまします!」


 ポーラも床に手を突き、ぶちかまし! 再び激突するクマ娘達は、交通事故のように互いが吹き飛ばされた。


 「ポーラ、立って! 相手が来るっ!」


 金太が叫んだ通り、先に立ち上がって来たのはグリズリー。


 ポーラはまだ仰向けに倒れたままだった、そんなポーラにグリズリーがのしかかりに来た!


 グリズリーが倒れてくる瞬間に体を横に転がして回避するポーラ、逆にうつぶせに倒れたのはグリズリーだ!


 「乗られるのは貴方です!」


 素早くグリズリーの背に跨り、相手の首に手を入れたポーラが反り上げてキャメルクラッチを掛ける。


 プロレス技は掛けられた経験がなかったのか、首と背中の痛みに負けたグリズリーがダウンする。


 試合終了のゴングが鳴り響き、ポーラは一回戦に勝利した。


 「金太さん、勝ちました♪」

 「ああ、まずは一回戦おめでとう♪」


 ポーラに抱き着かれた金太が彼女を労う、敗れたグリズリーは一人静かに去って行った。


 勝者があれば敗者もある、試合を終えたポーラ達は控室へ休憩しに行った。


 「行くよ、ポーラ?」

 「はい、お願いします♪」


 寝そべったポーラの手足や全身の筋肉を、頑張って揉み解しにかかる金太。


 「冷やす? 温める?」

 「温めるでお願いします♪」

 

 ポーラの首と肩と腰に蒸しタオルを乗せていく金太、選手の次の試合までのメンテナンスもマネージャーである彼の仕事だ。


 「次の試合までまだ時間があるから、ご飯食べる?」

 「はい、金太さん♪ あ~んしますから、食べさせて下さい♪」


 金太がバッグから、おじやと炭酸抜きコーラを取り出す。


 エネルギーの補給には定番のメニューのおじやとコーラ、大きいタッパーに入れたおじやをレンゲで救ってポーラに食べさせる。


 「出汁が効いていて美味しいです、鶏肉も梅干しも美味しい♪」

 「良かった♪ エネルギーをチャージして次の試合も乗り切ろう♪」

 「はい、愛のパワーでヴィクトリーです♪」


 金太の作った梅干しと鶏肉も入ったおじやを平らげ、コーラも飲み干したポーラ。


 次の試合へ向けて、彼女は心も体も栄養補給はバッチリであった。

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