夜、眠くなっても寝てはいけない

 ルォシーは先ほどリアムと一緒に夜景を眺めた広場に到着し、荒い呼吸をし続けた。


 そして、周囲を見渡したら、横になれそうな空き場所に近づいていき、


(寝れそうな場所はー……ここでいいかな、うん)


 それから、周囲の様子を確認したら、すぐさま地べたに寝ころび、まぶたを閉じていった。


(あー、眠い……おやすみ)


 しかし、数十秒後、ルォシーは素早く目を開き、


(……ん、え? 人の気配? だれか来た? リアム?)











 すると突然、ルォシーの上空に漆黒のローブをまとった何者かが出現し、ルォシーを見下ろしていた。


 ルォシーは無表情のまま何者かを見つめ続けて、


(えっ、えっ!? なに!? だれ!? イヤ、イヤアァァァッ!! 逃げなきゃ、逃げなきゃ!? だれか助けて! ……えっ!? あれ!? 体が動かない。口も!?)


 何者かはルォシーを凝視しながら、


『次にもう一度、夜の間に寝ようとしたら、お前の命は無い』


(なに、なにっ!? 体が! 体全体が何かを受け止めてる!? 一体これは!?)


『私の存在や、寝たら命が無くなる事情、危機的状況の事を他の誰かに教えてはいけない。教えた場合は、関係者全員が安らかな眠りにつくだろう。無論、目覚めることは無い』


(なに、なんなの!? 眠り!? 命!?)


『あやふやで、間接的な表現で伝えようとしても無駄だ。それも永遠の安眠に繋がる。その判断は私の裁量で変わる。安全でいたければ、そもそも助けを求めない事』


(安眠!? 助け!?)


『身の危険を遠回しに、これらの事に繋がらないよう、理解されない範囲で伝えようと努力することは認める。ただしこれも私の裁量で変わる。意思疎通には気を付ける事』


(身の危険!? 意思疎通!? 安らかな眠りって、つまり!? え、えぇっ!? 何なの一体!? この状況はなに!?)


 ルォシーはただじっと宙に浮かんでいる何者かを見つめ続ける。


 そして、漆黒の何者かは徐々に姿を薄くしていき、静かにルォシーの目の前から居なくなった。


 それから、ルォシーはすぐさま体を起こし、


(え、消えた!? え、夢!?)


 そのまま立ち上がり、広場から逃げるように離れていく。


 そして、周囲を見渡し、顔面を蒼白させたらその場に佇み、


(……リアムと話したい!)


 ルォシーはフォンダントを操作し、映し出された映像を指でつついていく。


 数秒後、フォンダントからリアムの音声が流れ始め、


『あっ、ルォシー!? いまどこに居るの!? 野宿してないよね!? まだ寝てないよね!?』


(野宿にまだ寝てないって……え、さっきの怖い奴の事と繋がってる……)


『ルォシー、大丈夫か!?』


 ルォシーは目から水滴をこぼれさせ、頬に小さな川を作りながら、


(リアムに慰めてもらわなきゃ)


『おいっ! 返事をしてくれ!』


 ルォシーはしばらく硬直したままその場に立ち尽くす。


(体が、いや、本能が話すことを拒否してる……。さっきの出来事が夢じゃなかったら……。あれ、今日のリアム……)


『頼む! 返事をしてくれ! お願いだ!』


「ごめんなさい」


『ルォシー! 大丈夫だった!?』


 ルォシーはヒラチウヤの輝きを見つめながら沈黙を貫き続ける。


 リアムは緩やかな口調で、


『それは、何の謝罪?』


「わたしは、なんてことをしていたの。愚か者じゃない」


『違うよ。俺の力が不足していたから。ごめん。本当にごめん』


「ううん。リアムはよくがんばっていたよ。本当に。こんなわたしなんかのために、ずっと」


『頑張りが足りないから、ルォシーの声を震わせてしまっているんでしょ』


「会いたい。今から会いに行く」


『……ヒラチウヤにようこそ』


 ルォシーは宙に浮かび上がった映像を消し、階段を急いで駆け下りていく。


 不気味な暗がりに抵抗するかのように、明かりで守られている町に向かって。

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夜に活発になり、昼は寂れる町 !~よたみてい書 @kaitemitayo

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