電子バドミントン

 リアムとルォシーは一軒の派手な明かりをともした建物の前に到着した。


 リアムは不安そうな表情を浮かべながら、


「あー、やっぱり別のところに行かない?」


「どうして?」


「みっともないところ見せたくないし……」


「みんな最初は誰でもそうでしょ? わたしだってやったことないよ?」


「とか言って、ルォシーより下手という現実を知ったら、心が折れるよ……」


「それもやってみなきゃ分からないじゃない! それにそうだったとしても、べつにそれはわるいことじゃないでしょ? 適正ってものがあるんだし」


「だとしても、みっともない姿を――」


「ほらほら、いくよー!」


憂鬱ゆううつだ……」


 ルォシーはリアムの腕を引っ張りながらアミューズメント施設の玄関に入っていった。






 ルォシーは料金表を眺めながら、


「えーっと、平日は一日利用で二十五おにぎりかペットボトル水二十五本……」


「あっ、高いから別のところに行く?」


「ダメ! ここまできたんだから、一緒にやろう? 料金はわたしが全部出すから! 借りを返すから!」


「いい、もういいよ! 借りはもう返されたから! せめて割り勘で!」


「えっ、つまりやるってこと!?」


「そうじゃないけど、おごられるくらいなら――」


「はいはい、割り勘ね! あ、わたしの方が多めに払うからね。安心してね」


「いやいや、まだやると決めた――」


 ルォシーはリアムの腕を引っ張って施設内を移動していく。


 そして、二人は機材に囲まれた薄暗い室内広場にたどり着いた。


 リアムは不安そうな表情を作りながら、


「えっと、どうすればいいんだろ」


「うーん、手を握るだけでいいみたい」


 二人はコートの上にお互い向かい合って立ち、手首にバンドが巻かれた手で握りこぶしを作る。


 すると、手から立体映像で作られたラケットが伸び始めた。


 リアムは少し驚いた顔を作り、


「わぁ、すごい!」


「うん、素敵! 綺麗なラケットー」


 ルォシーが腕を軽く振っていくと、握っていた色鮮やかなラケットも追従していく。


 リアムは小首をかしげながら、


「それで、シャトルはどうすればいいんだろう? どこにあるのかな?」


「左手を動かせばいいみたいだよ」


 ルォシーが左手を軽く上げると、宙に出現したシャトルが手に引っ付いていった。


 リアムは興味津々な様子で、


「これがバドミントンかぁ」


「あれ、わたしこれ以上の事は知らないや。これでどうすればいいんだろう?」


「うーん、シャトルをラケットで打つのは間違いないよね?」


「うん。それでコートに落とさないようにする競技だと思う」


「なるほどね。それじゃあ、ルォシーの言葉通りで落とさないように打ち合えばいいんだね」


「え、うーん。わたしのなんとなくの予想だけど」


「え、じゃあちょっと調べ――」


 ルォシーは左手のシャトルを宙に落とす。


 そして、笑みを浮かべながらラケットで打ち、電子ネットの上方に打ち上げた。


「ほら、落とさないように打ち返して!」


「あ、急に始めないでよ!」


 リアムは慌てながら宙を山なりに移動していくシャトルを打ち返す。


 ルォシーは跳ね返ってきたシャトルを下から跳ねさせるように打ち返した。


「ほら」


「ほっ」


「それっ」


「ふっ」


「はいっ」


「はっ」


「がんばって!」


「くっ」


【ヤァ!】


{おっと!}


【それ!】


{オウ!}


 リアムとルォシーは笑顔を作りながら綺麗に輝くシャトルを何度も宙に泳がせ続けていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る