居酒屋でマグロ丼

 数分後、リアムとルォシーは控えめにともった照明が備わった一軒の建物の前に到着した。


 そして、玄関の前に立つと扉が自動で開いてき、二人はそのまま店内に入っていった。


 来客している人数は多いとは言えず、空席が目立っている。


 それから、リアムとルォシーは近くの小さなテーブルに向かい合って椅子に座った。


 リアムはテーブルに備わっている装置を操作し、テーブルの上に長方形の映像を作り出しながら、


「ルォシーは何か食べたいものはあるのかな?」


 ルォシーは電子メニューを眺め、


「わたし、初めてここに来たから何があるかわからないよ……。リアムは何かオススメのモノってあるの?」


「うーんと……マグロ丼とかどうかな?」


「美味しい?」


「うん。あっ、代替肉だけど……」


「美味しければわたしはそれがいいなー。うん、マグロ丼にする! リアムはなに頼むの?」


「俺もルォシーと同じくマグロ丼でいいかな」


「お揃いだー! あ、アルコールは頼まなくていいのかな?」


 リアムは目を見開きながらうろたえ、


「えっ!? あ、それについてなんだけど、ヒラチウヤ――あ、この町の名前ね。ヒラチウヤでは夜明け前からアルコールが提供されるんだよ」


「えっ? それは何の冗談?」


「いやホントホント!」


「なにか規制でもあるの?」


 リアムは険しい表情を浮かべながら、


「うーん……昔からの風習だからね。ここに住んでる人には当たり前の日常だよ」


「変なの……。あ、料金についてだけど、お礼込みでわたしが払うね?」


「いやいや! ここは割り勘でいこうよ」


「えー、わたしがおごるよー」


「お礼なんていいから。半分ずつ支払おう」


「いいからいいから! わたしに払わせて?」


「ダメだって! 俺とルォシーで折半!」


「……もう、仕方ないなぁ。ここはリアムの意見を尊重してあげる」


「はは……そうしてもらえると助かるよ」


 リアムは乾いた笑みを浮かべながら電子メニューを指で押していく。


 ルォシーは顔を赤く染め、口角を少し上げながら、


「ところで、わたしと同じものを頼むなんて、もしかして?」


「いやっ! そういうわけじゃなくって!」


「もう、照れなくてもいいから!」


「なんとなく選んだだけだよ」


「……そこは嘘でも合わせてくれてもいいのに」


 ルォシーを口を尖らせながらつぶやく。


「……リアムって、この町出身なの?」


「違うよ。生まれは外国で、流れでこの町に住むことになったんだ」


「いつ頃から?」


「数年前くらいからかな?」


「それにしては、言葉がスラスラ出てくるね」


「この国に来たのは幼少期で、ヒラチウヤに定住するようになったのはここ数年前だね」


「ふーん。この町が気に入っちゃった?」


 リアムはしばらく黙り込み、テーブルを見つめながら、


「……うん、そんなところ」


「この町独特の風習がリアムと相性良かったのかな?」


「……鋭い!」


「ん、どうしたの?」


「……え? べつになにもないよ?」


「何か悩――」


 ルォシーが喋り出そうとした瞬間、店員アンドロイドが近づいてきた。


 そして、店員はお盆に乗った二つの丼をそれぞれリアムとルォシーの前に置いていき、


「お待たせしました、マグロ丼二つです。それと、玉露ぎょくろと焼き青唐辛子のおひたしです」


 アンドロイドは緑色のお茶と青唐辛子が乗った小皿も並べていく。


 ルォシーは硬い笑みを浮かべながら手を左右に振り、


「えっ、わたしたちこれ頼んでないです。マグロ丼以外間違ってますよ」


「従業員の方に、見かけないお客さんだから持っていきなさいと言われました」


「えっ!?」


 リアムは頷きながら、


「お店のご厚意なんだから、ありがたく受け取りなよ」


「……いいのかな?」


 リアムは言葉を詰まらせた後、強張った笑みを浮かべながら、


「あっ、ヒラチウヤでは玉露ぎょくろと唐辛子といったものが多く生産されてるんだ。だから、魅力をアピールするため、じゃないかな? それよりほらほら、食べよう」


「うん、お腹すいちゃった。まずはマグロ丼からいこう。もちろん一緒にね」


「うん」


 リアムとルォシーはイグサ箸食べられる箸を手に取り、刺身風の代替マグロの身で覆われた山に差し込んでいく。


 二人は箸でマグロの身と中に隠れていた白い米を一緒に持ち上げ、口の中に運んでいった。


 ルォシーは笑顔を作りながら、


「うん、美味しい!」


「ほっ。喜んでもらえてよかったぁ」


「代替肉なのに新鮮なお魚の味が口の中に広がっていって、さっぱりしてるけど濃縮された旨味うまみの波に飲み込まれちゃう」


 リアムとルォシーはその後も黙々と口の中にマグロ丼を運び続ける作業を続けていった。

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