夜の町の前で

 リアムとルォシーを乗せた電動車椅子タクシーは様々な種類の畑や風力、太陽光発電装置に囲まれた一般道を進んでいった。


 そして、徐々に速度を落としていき、町並みの前で停止する。


 リアムは固定具を外しながらため息をつき、


「はぁ……なんて執着心なんだ」


「もう諦めちゃった?」


 ルォシーも笑顔を浮かべながら固定具を外していく。


 町は薄暗くなった夜空のもとに明かりで輝きを放ち始めていた。

 そして、そこそこの人数の住人と少し多めの人間型アンドロイドが町中をうろついている。


 リアムは呆れた様子で、


「諦めてはいないよ。だから最後まで抵抗する。ということで、ルォシー家に帰りなさい!」


「イヤだよ! タクシー代で少ないおにぎりがさらに減ったから、元を取らないと!」


 リアムは手で目を覆いながら天を見上げ、


「おいおい、余裕無いのにここまでついてくるなよ」


「借りを作る方がイヤだから」


「はぁ……じゃあ、歩いて家に帰りなさい」


 リアムはルォシーを手であしらった。


 ルォシーは眉尻を上げながら、


「リアムと一緒に居たい!」


「なんでだよ!?」


「恩返しをするためだよ」


 リアムは頭を抱えながら暗い空を見つめる。


 そして、ルォシーに視線を移し、


「じゃあ、そこまで言うんだったら、俺と朝まで一緒に居てもらおうかな? 徹夜ね」


「なんで選択肢が極端なの!? もっと普通にしようよー。あ、わたしリアムの家に泊まらせてほしいなぁー、いいでしょー?」


「ダメ! 徒歩で家に帰るか、俺と朝まで過ごすかの選択しかない!」


 ルォシーは口をとがらせながら、


「ふぅん、そっか。じゃあいいもん。わたし安い宿に泊まるか、野宿するからいいよ」


「あっ、宿? あー、残念だけどこの町には宿はないよ」


「えっ、嘘でしょ!? そんなことある?」


 リアムは頬をかきながら地面を見つめ続け、


「昔は営業してたんだけど、その、うーん……売り上げが良くなくて、みんな閉店しちゃった」


「つまり?」


「……お客さんがいなければ、商売は成り立たないからね」


「あらま……それはそうなんだけど、すごく大変なことになってたのね」


「というわけで、ルォシーのとる行動は――」


「うん、わかった。じゃあ、わたし野宿するよ! うん、野宿! というわけで、リアムしばらくよろしくね!」


 リアムは首と両手を高速で横に振りながら、


「いやいやいや! 野宿は無しで! 野宿するくらいなら俺と一緒に徹夜しよう! ね!?」


「んー、なんで徹夜なの? ちょっと夜更かし程度じゃダメなの?」


 リアムは少し黙り込んだ後、硬い笑みを作り、


「ルォシーの事をよく知りたいから、長い時間一緒に居たいなぁって」


 ルォシーは微笑みながら頷き、


「うん、それはわたしも同じだよ。長い時間をかけてお互いの事をよく知っていきましょう」


「うん、俺もだよ。だから、今夜はルォシーには俺と一緒に朝まで過ごしてほしいんだよね」


「それはわかったよ。でも、どうして朝までにこだわるの?」


「ルォシーとすぐにでも仲良くなりたいから」


 戸惑いながら答えるリアム。


 ルォシーは顔を赤らめて口を緩ませた。


 そして、リアムの腕を軽く叩き、


「もうっ! もっと早く素直になりなさいよ!」


「ははは、なんか意地を張っちゃった」


 リアムは乾いた笑みを浮かべた。


 ルォシーは暗闇の中、明かりで輝く町の様子を眺めながら、


「それにしても、この町の景色綺麗だねー」


「ん? あ、あぁ、そうだね。楽しんでもらえて何よりだよ……」


 ルォシーは小首をかしげながら、


「え、どうかしたの?」


「え!? いや、俺はこの光景毎日見てるからね」


「あっ、そりゃそうだよね。……ところで、この町にはどんなデートに適した場所があるのかな?」


「え、デート!?」


 リアムは目を見開きながらたじろぐ。


 ルォシーは頷き、


「うん。どんなスポットがあるのかな?」


「えっとぉ……うーん……。あんまりデートに行く場所はないかもしれないなぁ」


 ルォシーは硬い笑みを浮かべながら、


「ううん、大丈夫! リアムと一緒ならわたし、なんでも楽しめるはず! 気にしないで! どんな所でもいいよ!」


「そう? そうだなぁ、ルォシーは今お腹はすいてるかな?」


 ルォシーは腹部に手を添えながら頷き、


「あ、お腹ペコペコかもしれない」


「それなら、居酒屋で食事なんてどうかな? 庶民的で申し訳ないんだけどさ」


「むしろわたしと一緒に居酒屋に行ってくれるの!? 嬉しい!」


 ルォシーは目を輝かせながら笑みを浮かべた。


 リアムはたじろぎ、


「え、居酒屋だよ? 本当にいいの?」


「美味しい食べ物出してもらえるんだよね?」


「うん。それはもちろん」


「ならいきたいなぁ」


 ルォシーは微笑みながら頷いた。


 リアムは安堵のため息をつき、


「どこの居酒屋に行きたいまではないよね?」


「どこでも大丈夫だよー」


「それじゃあ、適当に近くの――」


「本当に適当に?」


「……ルォシーに合いそうな居酒屋に行こうっか。ついてきてね」


「はーい」


 ルォシーは背中で手を組みながらリアムの後ろをついていく。


 リアムは背後にルォシーを引き連れて、薄夜闇に光を放つ町の中に歩みを進めた。

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