第32話 パーティーとキラキラの冒険者
「ミカゲ・トリア」
厳粛な雰囲気の中呼ばれたのは、とても良く知った名前で。
そして、隣からの檀上に向かうその姿は、とても堂々としていて格好良くて、知らない人みたいだった。
銀髪がキラキラと輝いて、まっすぐな瞳は意志の強さを感じさせる。一度も見た事がなかった正装だけど、服にも負けず。とてもよく似合っていた。
私は眩しいものを見るような気持ちで、ミカゲを見つめた。
何やら功労が読まれているようだけれど、全然頭に入ってこない。ただ、ミカゲの姿を見ていたかった。
貴族ばかりのとても華やかなパーティーなのに、ミカゲはまったく見劣りしていない。
それどころか、彼の周りだけ光って見えるようだ。
ミカゲから頼まれたこのパーティーは、スラート伯爵の開いたものだ。
私は聞いたことがなかったけれど、スラート伯爵はアンジュを囲っている相手だという事だった。
アンジュの相手と会うのは、かなり複雑な気持ちだ。でも、ミカゲを見ていると、それすらも忘れてしまえそうだ。
ミカゲは今日のパーティーの主役なのだ。
ミカゲがギルドから受けたのは、ここスラート伯爵領の盗賊の討伐依頼だった。そして、討伐への感謝として、スラート伯爵の屋敷でパーティーが開かれたのだ。
アンジュがポーションを必要としていたのは、領地に盗賊がいた為だったらしい。
そうして、すっかり夢中でミカゲを見つめていると、不意に目が合った。
気のせいかと思って目を瞬かせても、にっこりとこちらを見て笑うミカゲが映る。
「この度は、私のような冒険者に身に余る褒章を頂き、感謝しています。盗賊の拠点を打ち崩すことができ、スラート伯爵領の治安に貢献できたこと大変嬉しく思います。そして、今回の私の任務に対して、非常に性能が高いポーションで支えてくれたリリー・スフィアに感謝を」
感謝の言葉を述べたミカゲは、私に向かって手を差し出した。思わぬ名指しにどうしていいかわからずに周りを見ると、そっと隣に居たファルシアが肩を押した。
「ミカゲの隣に行って、手を取るのよ」
周りの視線が気になりつつも、私はそろそろとミカゲの方に向かった。ほとんど泣きそうになっている私が手を取ると、ミカゲは力強く私の手を握り返した。
そして、腰に手を回す。
「わわ……ミカゲさん」
恥ずかしくなってミカゲを見上げたが、ミカゲはにこにこと笑顔を返すだけだった。
「彼女のポーションはとても素晴らしいです。嬉しい事に、彼女は王都で来月には店舗を構える予定です。私の力になってくれた彼女にも、是非拍手を」
謎の拍手につつまれ、私は居た堪れなくなって頭を下げた。
何とか笑顔を作りつつ、ミカゲにエスコートされながら壇上を下りた。
「ミカゲさん……! 急になんで……!」
「緊張するよな。こういうのって俺も苦手」
抗議すると、ミカゲはいたずらっぽく笑った。
「え? ただの巻き添えって奴ですか?」
「いやいや、流石にそんな事はない。リリーの良さを広めたかったのは本当だけど。これで、リリーの後ろには俺が居ることがわかったはずだ。それに、貴族ばかりだ。この中からお得意様ができるかもしれないだろう?」
「あれってお店の宣伝になるんでしょうか……。貴族の方って、庶民からポーション買うのかな」
「どうだろうな。……そろそろ来るぞ嫌な奴が。リリー、嫌だったらすぐファルシア合図をしてくれれば、連れ出してくれる」
私は頷いた。
ファルシアは後ろからそっと肩に手を置いてくれた。二人とも心配性だ。
ミカゲの視線の先に居たのは、細身のスーツを着こなした髭を生やした胡散臭げな男性だった。
四十代ぐらいだろうか。
いかにも貴族然とした、表情が読めない笑顔だ。
「やあ、ミカゲ君。今回の事は本当にありがとう。我が領地の盗賊にはとても困っていたのだよ」
芝居がかったように手を広げ、歓迎の意を示しているが目が笑っていない。
ミカゲはその事に気が付いていないのか、にこにこと笑顔を返す。
「いえいえ。スラート伯爵のお役にたててとても嬉しいです。その話を聞いていたので、ギルドを通じて討伐させていただきました。聞けば、陛下からもお言葉があったとか。有り難い事です」
「ギルドを通じて、ね」
「ポーション不足もこちらから手配させて頂いていたのですが、今はもう必要ないとか。盗賊に相当手被害にあっていたのですね。近隣にも被害が出ていたとの事で、ポーションをお配りになっていたのでしょうか」
「……いや、それはこちらで消費していたものだ。君には関係のない事だろう」
「いえ、私も冒険者をやっていますので、ポーションのありがたさは良くわかっていました。トラブルがあれば消費量も増えますよね」
「トラブルなどない」
「そうでしたか。気に障りましたら申し訳ありません。マナー等には疎いもので。こちらは先程話に出てきたリリーです。とても優秀な薬師なので、今後何かあれば是非。ポーション不足の件についても、解決はしていても必要ないという事はないでしょうし」
「……そうだな。専属で雇っている薬師が今は居ないので、もし何かあれば。よろしく頼むよお嬢さん」
「あ、ありがとうございます。……あの、妹が、お世話になっております」
「お世話に? 何のことだい?」
「私は、リリー・スフィアと申します。」
「何か勘違いをしているようだね。彼女と私は何の関係もないよ。ああ、引っ越しに関してはすこし手を貸したけれど、それだけだ」
「……何の関係も、ない?」
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