第10話 解呪ポーション
ミカゲは呪われている。
初めて見た時もそうだったが、一向に解く気配がないので気になっていた。
もしかしたらお金がなくて解けないのかもしれないと思い始めていたところだった。
薬屋の話が出たので、そういえばと提案すれば、ミカゲは呆然とした顔のまま止まってしまった。
「……なんで、俺が呪われてると?」
そう唸るように言ったミカゲは、警戒した動物の様でちょっと可愛い。でも、質問は薬師である私にとって簡単なものだったので、先生みたいな気持ちになって教えてあげる。
「魔力の流れが変だからですよ。人が持っている魔力は、意識していないときは全体に均等に広がっている状態なんですが、呪われている人は呪われているところに魔力が固まるようになっている事が多いです。まあもちろん例外もあるので、私が見ただけで呪い全部が見通せるみたいなことはありませんが」
最後は自分で言っていてちょっとしょんぼりする。
いくら専門外だとはいえ、出来ないというのは嫌なものだ。
「そんな事が、本当にあるのか?」
ミカゲがいかにも怪しんでいるというように言う。
確かに私は経験が少なそうに見えるだろうが、見間違えたりはしない。
「ミカゲさんからしたらひよっこに見えるとは思いますが、ちゃんと見えてるしもちろん私でも解けますよ。ただ専門の人の方が安心感はあると思いますが、それでも」
「呪いに専門のものなどいない」
私の言葉を遮って、ミカゲが強い口調で言った。
咄嗟に理解できない。
「え? どういう事ですか?」
「言葉そのままの意味だ。呪いはかかったらそのまま、終わりだ」
「そんな事……あるんですか? そうしたら、ミカゲさんは」
王城では呪いの研究を行っている人が居ると聞いていた。だから普通にそういう職業の人が居るのかと思っていた。
確かに呪いに関しては、ほぼ学園での授業には話題になかったけれど……本当に?
私が混乱しているのを感じたのか、ミカゲは立ち上がって、自分の荷物の中から何かを出してきた。
「リリーの言うとおりだ。俺は呪いにかかっている。だから、俺はある場所からこのポーションを買っている。でも、これでも呪いを解くのは難しい。そして、ギルドでも、譲るのが難しいほどの貴重品だと聞いている」
真剣な顔をして、ミカゲは私の手に緑色のポーションが入った瓶を置いた。
手のひらに置かれたポーションは、特に怪しげなところはなかった。内容を知りたいと、私はポーションを鑑定した。
そして結果に私は驚いて、目を見開いた。何度もミカゲとポーションを確認してしまう。
「これが現状なんだ。呪いと言っても色々あるし、リリーが解けるものもあるのかもしれないが……。でも、俺のは、解けないんだよ」
ミカゲはきっと、私がショックを受けないように柔らかく話してくれている。誤解で解けるって聞かされても期待していないから、大丈夫だと。
ミカゲは眉を下げて、子供に言い聞かせるみたいに言ってくる。
でも、私の驚きはそれじゃなかった。
「これ、私が作ったポーションだ!」
「え! そんなはずないだろう? よく見てくれ」
ミカゲは全然信じていない。確かにポーション瓶としては良く見るタイプのものだ。それは、一見特になんの特徴もない。
でも。
「ちょっと見ててください。この瓶に……わ!」
私が瓶を裏返して魔力を流そうとすると、ミカゲが慌てた様子で私から瓶を取り上げた。
「おいおいおい。これは、駄目だぞリリー。驚くほど貴重なんだから」
いたずらを止めるような口調に、私はぶーっと不満げな顔になってしまう。
「これ、高くないですよ。一般的なポーションより安いぐらいですもん」
「いやいや、リリーの知っているポーションとは違うんだ」
「そうなんですかね……」
私は諦めた顔をして、ミカゲの肩に頭を寄せた。ミカゲはぎょっとした顔をしたけれど、ため息をついて私の頭を撫でた。
「落ち込むなよ。リリーのポーションは良く効いた。冒険者にとっては救いとなるはずだ。販売してくれたら、俺も嬉しいし通うよ」
出会ったときに使ったポーションの事を思い出しているのか、ミカゲが頷きながら優しくそう言う。
「ありがとうございます……えい!」
私はすっかり油断したミカゲのポーション瓶に手を伸ばし、サッと魔力を流した。
「うわ! おい、こら!」
「ほら見てくださいミカゲさん」
完全に虚を突かれてあわあわしてるミカゲに、私はポーション瓶の底を指さして見せる。
ミカゲは不機嫌な顔をしながら、一緒に瓶を覗き込む。
「え? リリー? え?」
ミカゲは混乱した顔をしながら、ポーション瓶と私を交互に見ている。その仕草につい笑ってしまう。
私を信じなかった罰だ。
「ふふふ。やっと信じる気になりましたか? 私のサインです!」
仕事では特に必要なかったけれど、不良品が返品されたときに私のものかどうかを確かめたいと思い、名前を入れることを思いついたのだ。
鑑定は使えるけれど、今回のように特殊なポーションでない限りは誰が作ったものかはわからない。
魔力を流した時だけ瓶の底にそっと浮かび上がるようにした。
基本的には誰にも見られないから、リリーという名前と、猫の絵を描いたサインだ。割と上手く描けたと思う。
「本当にリリーのサイン、なのか? この変な絵の描いてあるこれが?」
「変な絵じゃありません猫ちゃんですよ可愛いですよ」
「自分で可愛いとか言うなよ。なんかの魔獣かと思ったぞ」
「ええ。失礼な! 上手く描けたものを大事に複製してるんですからー」
「いやいや、そもそも……。というかリリー、本当なのか?」
「何度もそうだって言っているじゃないですか! 全然信じてませんね」
サインを見てもまだ疑っている様子のミカゲを、小突くように叩いた。それでも、ミカゲはまだどこかぼんやりしたような顔をしている。
「……俺はこのポーションは、王城の薬師の、開発途中のものだと聞いている」
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