第11話 解雇の理由
「うーん、まあ、そうとも言えます、私は王城に居ましたから」
「えええ! 薬師の中でもかなりのエリートじゃないか!」
なんだか急に褒められた気がして、照れてしまう。
「えへへ。そうですか? 通っていた学園は成績によって学費が免除になって、更に給与が出るという事で両親が選んだんですよね。そこは、就職は王城にする人が多かったんですよ」
「あの学園か……。それは王城に進むやつが多いだろうよ」
ミカゲはなんだかとても疲れたように言った。
「そうですね。王城の隣にある学園なんで、流れ的にそうなりますよね」
「ちょっと違うけどもういい」
「なんで急に突き放すんですか」
なんだかちょっと寂しい。私の不満を無視して、ミカゲは続ける。
「ええと。整理すると、リリーは王城の薬師をやっていた」
「そうです」
「そこで、ポーションを作っていて、この呪いに効くというポーションも作った。そうだな」
「はい。そのポーションは呪いに効くとは思いますけど、応急処置的なものになります」
「そうだな。根本的な解決にはならないと、俺も聞いている。……それで、呪いを解くポーションも、王城にはあるのか?」
ミカゲは言いにくそうに、下を向きながら聞いた。
表情が見えないが、聞かれたこと自体は機密事項でもなかった為、問題ない。
「私が勤めている範囲では、なかったです」
「……。そうか。そうだよな」
ミカゲは両手で顔を覆った。それで、私はやっとわかった。
王城を首になった理由が。
だからあんなに信じられないと責められたのか。
そして、上司は私のレシピを再現できなかったから、プライドが傷ついたのかもしれない。
それとも、自分の手柄にするためには再現する必要があったからか。
なんにせよ、私名義での研究はなかったことにされたに違いない。
「ミカゲさん。あの、そのポーション、私の開発したものなんです」
「なんだって?」
「私が開発したんです……。今、ミカゲさんと話していて思ったんですが、上司からは信じてもらえないし、レシピを伝えても作れないし騙してるって言われてたんです。でも、実際今までまったくなかったものだから信じてもらえなかったのかもしれません」
「そんな事あるのか? 大発見だぞ! 褒章を受けてもおかしくないはずだ。普通に暮らしていたら呪いなんてあまり関わることはないと思うが、ある程度のランク以上の魔物は死に際に使ってくることがある。冒険者は強い者ほど、呪いで命を落とす」
「そんな事が……。知らなかったです」
「そうだ。俺らみたいな者たちには、ひどく重要なものだ」
ミカゲは凄く真剣に、重大な事を言い聞かせるように話してくるが、私はつい笑ってしまう。
「なんか、ミカゲさんがすごく強い人みたいですね」
私の指摘が恥ずかしかったのか、ミカゲはわたわたと否定する。
「いや! 確かに俺は強くないけど、ほら、冒険者だし……たまたま呪われたのもあるし仲間意識というかなんというか……」
「ふふふ。大丈夫ですよ。でも、それだけ需要があるなら、早く薬屋を開いた方がいいかもしれませんね。これで助かる人が居るのであれば、届けたいです」
「それはそうだけど、危険もあるな。というかお前の上司はレシピも知ってるんだろう? 独占して利益を得る為じゃないか?」
「いえ、上司は作れないって怒っていましたし、レシピは首になった時に燃やしてきました」
ミカゲはそれを聞いて大笑いした。
「なんだそれ! 思い切ってるな」
「その時は、レシピは嘘だって言われていたので、後で難癖付けられたら嫌だなと思って」
「じゃあ、そいつが後は覚えているかどうか、か。でも作れないってことは難しいのか?」
「うーん。素材自体はそんな珍しい者じゃなかったので、配合は……どうでしょう。私は特に難しいとは思わなかったのですが」
「リリーが特別優れている、のか?」
「レシピを試したのは上司だけなので。先程も言った気がしますが、調合の時に魔力を混ぜてるんです。もしかしたら個人の魔力の差が影響しているのかもしれないと考えていましたけど、そこまで研究はできていません。上司に言われるままに何度も作らされていたのですが、自分が作る分には安定していました。でも、その後は研究に関わる仕事は殆どさせて貰えていませんでした……」
周りの人が色々と実験をしている中、延々とポーションを作成するだけの日々は悲しかった。
「じゃあ、研究の続きはここですればいいじゃないか」
「魔物素材は高いんですよ……。でも、ミカゲさんのポーションは作りますよ! だいたいレシピはわかってるので」
私は張り切って伝える。
結局混ぜるものの問題なのだ。試作品として作ったミカゲが持っているポーションの上位版なだけだし、そもそも試作という事で高くない素材で作ったからその程度の効果だったのだ。
「そうなのか……」
「でも不思議ですね。私が作ったそのポーションは二十本も作っていなかったはずです。なんでまだあるんだろう?」
「……二十本?」
私の疑問に、ミカゲは平坦な声で本数を繰り返した。
「そうです。呪われた人の処置で使うなら、なくなってしまってもおかしくないのに。やっぱりあんまり出番はないものなんですかね。……結果的に、ミカゲさんが助かったなら私は嬉しいですけど」
ちょっと自分で言って照れてしまう。
呪われている人は強い魔物からと言っていたから、あんまりいないのだろうか。
ちなみに王城では呪いの研究に関しては、呪われた弱い魔物が支給される。
実際に呪われた人は見たことがなかったけれど、正しく作用しているようだ。
「そうだな。ここではあまり居なかったのかもしれないな。でも必ず必要になるものだし、俺は救われた。リリーありがとう」
「いえいえ! 材料をそろえて、出来るだけ早く作りますね!」
手を取られ、真剣な顔でお礼を言ってくるミカゲにどきどきしてしまう。私は恥ずかしくてつい下を向いてしまった。それでも、握られた手は暖かくて、優しい。
この手が守られてよかった。早く呪いを解いてあげたい。
「ギルドの人にも感謝ですね!」
私がそう言うと、ミカゲはとてもきれいな顔で笑った。
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