第22話 鎌の力

「レンさん危なくなったら言ってください。私もそっちに行きますから!」


「問題ない。俺だけで十分だ。リンはモンスターの方にだけ集中していてくれ」


 そういうとリンはまたモンスターを倒し始める。

 5人になったおかげかさっきよりも統率もとれて楽そうに見える。

 とりあえずのところ大丈夫だろう。

 俺は目の前にいる少女と向かい合う。


 正直俺の力であいつを量子レベルに分解すれば話は済む。

 だが、それじゃあただの人殺しだ。

 奴が何者なのかもしれず、全く意味がない。

 どうにかして降参させるしか方法はない。

 

「じゃあ、行くね」


 最初に仕掛けてきたのは向こうだった。 

 いきなり鎌をぶん投げて来る。

 鋭く尖った刃が見えて少しだけ恐怖を抱く。


 しかし、速度は当然ながら遅い。

 簡単に避けれた。


「……なにがしたいんだ。攻撃にすらならないぞ」

 

「大丈夫、私の鎌はいまのでは終わらない。もう1回あるから」


「どういう……」


 とっさに後ろを振り向くと、もう一度あの鎌がこちらに来ていた。

 回転しながら俺の首を狩ろうとしている。

 近くに瞬間移動テレポーテーションをして、避けた。

 そのまま飛んできた鎌は少女の方に向かい、手に戻った。

 

「これ……ブーメランか」


「そう。私の鎌はブーメラン式。それも小さくて軽いから当てやすいの。刃も鋭いから当たっただけでほぼ即死なんだけどね」


「……じゃあなんで君はそれをあんなに簡単そうに取れたんだ。普通怪我するだろ。力……なのか」


「そんなわけないじゃない。私にはあんな力はないわよ。ただの慣れね」


「慣れか……怖いもんだな」


「ふふ、ありがと」


 褒めているつもりなんてなかったんだが、喜んだ様子を見せた。

 仮面をかぶっていて見えないはずなのに狂っている表情をしている気がしてならない。


「もう一回」


 同じ攻撃がまた飛んでくる。

 仕組みがわかれば簡単だ。 

 2度攻撃を避ければいいだけ。

 

 俺は前の攻撃をかわして、後ろからの攻撃を見計らって手で分解セパレートする。

 これで1つの鎌を失わせた。


「どうだ、もう降参したらどうだ。そんな小さな鎌だけじゃ、俺は倒せないぞ」


「別に鎌は1つだけじゃないし。問題ないよ」


「もう一個あったのか……」

 

 マントから全く同じ鎌を出す。


「これで戦えるね」

 

「…………でも、もう俺には攻撃は通用しない。これ以上戦うのはお勧めしない」


「戦い方を変えればいいだけだよ。相当強い力があるっぽいし、倒すのは大変そうだなあ」


「倒す気でいるんだな」


「当たり前でしょ」


 その瞬間、彼女の姿が消える。

 目に見えない。

 

「クソ……これじゃ対処しようもない」


 速すぎて目に見えない。

 顔を動かしてもわからない。

 五感を頼るほかない。


 目を閉じ、集中する。

 すると、シュッと小さく音が聞こえてきた。


「ここだ!」


 俺は音から鎌が来る場所を予想する。

 なんとかギリギリ避けた。

 だが、これでまだ終わりじゃない。


 後ろからもう一度回転して攻撃がくる。

 俺は左に走って回避しようとする。


「なに!?」


 想像と違った。

 攻撃が避けたはずだったのに。

 俺の首近くの肩をすり抜けて行った。


「ぐ…………」


 肩から出血する。

 ダラダラと自分の血が流れてきた。

 近くから少女が姿を現す。


「あーあ、いまので殺せなかったんだ。首を狩るつもりだったんだけどなあ。私の方の計算がずれちゃったのか」

 

「避けた……はずなのに……なんで……」


「少し先に進めば避けれるとでも思った? ……残念それは私が動いていない時の話だよ」


 少し馬鹿したような口調で言う。


「私が走ったんだからその分鎌も動く。だから、あなたが予想していた鎌の動きは全く変わっちゃうよ。私が動いた方向、速さ、鎌の出現位置。全部知らないと完全には避けれない」


 鎌が少女のところに丁度戻ってくる。

 これも……少女いわく計算だというのか。


「それが私の鎌の力。私は破壊の鎌ブレイクフックと呼んでるよ。どう、これなら私でも戦えるでしょ」


「……どうやってそんな計算を……」


「だから言ったじゃない。慣れだって。それ以外ある?」


 当然という感じの言い方に恐怖すら覚える。

 これが彼女の強さ。

 生半可な力じゃ勝てない。リンと戦わせなくてよかったと確信した。


 リンの方を一瞬だけ見る。

 ほぼモンスターは居なくなっていた。

 さっきみたいに増えていなかったのだろうか。

 わからないが、危険はなさそうだ。


「う~ん、モンスターの在庫、切れそうだし一旦退却しようかな」


「在庫……? どういう意味だ」


「別にもういいや。殺すまでやってもよかったけど、流石に6人相手にするのは分が悪いかな」


「おい答えろ。お前がこのモンスターを作ったのか!」


「それはどうかな。…………じゃあね」


「逃げるな、待て!」

 

 俺の言葉はそのダンジョン内に響き渡る。

 しかし、それと同時に彼女の姿は無くなった。

 追いかけようと思ったが、見えないのでは仕方がない。

 どうしようもない。

 

「クソ…………」


 俺は悪態をつきつつ、その場に崩れ落ちる。

 こんな失態は初めてだった。

 

「大丈夫ですか! レンさん!」


「リン……モンスターの方は?」


 リンが俺の方へ駆けこんでくる。

 近くには4人パーティーの方もいた。


「その辺は大丈夫だぜ。あの仮面の奴が消えたとたん、モンスターの方も消えちまった」


「そうか……」


 赤髪の男が言った。

 これではっきりした。 

 いまの仮面の少女とこの大量発生したモンスターには関係性がある。

 なにかがある。

 

「そんなことより傷ですって! 助けないと!」


「回復薬です。使ってください」


「……いや、問題ない。これくらいの傷ならなんとかできる」


 ベテランパーティーの2人が言ってくれるが、俺は断る。

 右手を肩において、力を使う。

 

 リンの時よりも軽い怪我だ。

 余裕で治せた。


「おお、これが最近話題の能力タレント持ちか。すげーな!」


「ああ、これは興味深い」


「2人ともなんでそんな感想なんです。心配とかないんですか!」


「ない。だって完全に治せてるんだろ。なあ!」


「そうだ。まったくもって問題ない。それよりさっきは聞けなかったがあの仮面の少女を知っているか?」


「いや知らねぇな。お前らも知ってるか?」


「知らないわ」


「知らないです」


「知らない」


 4人とも知らないらしい。

 これはどうやらマズいことになりそうだ。

 あの犯人があの仮面の少女で間違いないだろう。


 どうにかして……止めないといけない。

 あれだけ強いのだから被害がすぐに出てしまう。

 俺は焦りと不安で胸がいっぱいになった。



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